DQ3 そして現実へ… (リュカ伝その2)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
別世界より③
<グランバニア>
此処グランバニア王執務室では、マーサが大量の文献に埋もれながら異世界へ飛ばされたリュカ王を救出するべく、日夜研究に没頭していた。
ティミーがマーサをグランバニアへ連れてきてから、既に数週間が経過している…
しかし一向に状況を進展させる事が出来ず、トイレと数日置きの風呂以外は、この部屋から出る事さえしていない…
見かねたティミーが思わず声をかける…
「マーサ様……どうかご無理をなさらないで下さい。焦る必要はございません。過去にこの国の国王不在が続いた年月を思えば、慌てる必要など何処にも無いのです…」
ティミーとしては国内の情勢に不安が無いわけでは無い事も理解しているのだが、マーサの体調の方が心配になってしまうのだ…
「そうですよ、お義母様…物語を読む限り、リュカは無事の様ですし…」
「ティーミー…ビアンカさん…ありがとう。………でもね…物語を読むと、一刻も早くこちらの世界へ戻さねば…と思ってしまうのよ!」
執務室に居る皆が例の本に視線を向ける。
今、執務室に居る人物は、マーサ・ビアンカ・ティミー・ポピー・マリーの5人である。
その誰もが不安気な表情で例の本を見つめている…
「……あの子…あの本の中で、好き放題やってるじゃない…私の息子があちらの世界に迷惑をかけていると思うと、ゆっくりなんて出来ませんよ…!」
マーサ以外の4人が呆れ驚きマーサを見つめる。
「あぁ…そう言う意味ですか…父さんの事が心配って事じゃなく…あぁ…そう言う…」
ティミーが脱力気味にマーサの言葉に反応する…
「ちょっと、誤解しないでよティミー!私だってリュカの事は心配です。でも、それ以上に向こうの世界の女性達が心配なんです!」
「うふふふ…父さんの事だから、私達に弟妹が増えてるかもよ…」
「ポピー…冗談でも止めてくれ!その可能性は非常に高いんだから…」
必要以上に楽しそうに危険性を語るポピー…
そして辟易するティミー…
「まぁ!?じゃぁ私に弟か妹が出来るんですのね!!とても楽しみですぅ!」
瞳を輝かせ胸の前で両手を握り嬉しそうにするマリー…
「はぁ…居たら居たで面倒事を起こすのに、居なくなるともっと厄介な男よね…何で私は惚れちゃったんだろ…?」
左手で頭を押さえ手近な椅子に座るビアンカ…
「お母さん…いっその事、この機会にお父さんと別れちゃえば!お母さんの美貌なら、3人の子持ちバツイチでも引く手数多だと思うわよ」
「リュカ以外の男に、全く興味を持てないから困ってるんじゃないの!貴女だってコリンズ君以外の男性なんて眼中に無いでしょう!?」
「そんな事無いわよ…お父さんに口説かれたら、喜んで股を開くわよ」
ポピーの台詞に言葉を失い呆れるビアンカ…
「この馬鹿女!マリーの前で下品な話をするな!」
マリーを抱き上げポピーを睨むティミー…
「…と…ともかく…一息入れましょう!お義母さま、お茶でも飲んでリフレッシュした方が良いですよ」
「ふぅ…そうですね…少し息抜きしまようか…」
マーサ達は執務室を片付け、メイドが用意してくれた紅茶とクッキーを食しながら、雑談に花を咲かせている。
其処へ『メッサーラ』のサーラが入って来て、マーサに何かを目で伝えている。
「私にお客様ですか?」
断っておくが、サーラは一言も発していない。
それなのにマーサとサーラは会話が成り立っている。
リュカとの間でもそうだった…
そして会話は続いている…
「まぁ…リュリュが来たのですか!?一人で?」
「え、リュリュが!?」
急にソワソワするティミー。
「………」
「そう!?どうやって来たのかしら?まぁいいわ…お通しして下さい」
小さく頷くサーラ…そして一旦退室する。
現在この部屋を管理しているのはマーサだ。
マーサの許可があれば、誰でも入室できるし、許可が無ければ誰一人入る事は出来ない。
従ってマーサに用がある者は、警備のモンスターを介しマーサに許可をもらう必要がある。だがサーラは、何一つ喋っていないのだが…
「マーサお祖母様、お邪魔します。…何か大変事になってる様ですね…」
「ふふふ…いらっしゃいリュリュ。本当、貴女のお父さんは厄介事を巻き起こすわね」
不必要に落ち着きが無くなったティミーを無視して、マーサはリュリュと会話を続ける。
「いったいどうやって此処まで来たのですか?…確かルラフェンという町に、特殊な魔法を憶えに行っていたと思ったのですが?」
「はい、ルラフェンで新たな魔法を憶えました。そしてサンタローズに帰ったら、サンチョさんがこの状況を教えてくれたんです…それなので早速、新たな魔法を使ってグランバニアまで来たんです!」
「え!?その魔法って…もしかしてルーラ!?」
ポピーが驚いた様にリュリュに詰め寄る。
「はい!私、ルーラを憶えました!!これで何時でもグランバニアに遊びに来れます!」
「私は生まれつきルーラ適正があったから自然と憶える事が出来たけど、普通の人は適正なんて無いから、凄い大変な思いをしないとルーラって憶えられないのよね!…前にお父さんから聞いた事があるわ!どんな事をしたの?」
「うん!お父さんが言ってたわ…『ものっそい大変だよ』って…本当に大変だった!もう2度とあんな思いはしたくない!思い出したく無いから聞かないで…」
リュリュは口元を押さえ、顔を顰める。
「でも凄いな…ルーラを憶えるなんて!さすがリュリュだね!」
リュリュを前にすると、最近頓に浮つく様になったティミー…重傷でだな。
「でもね…お父さんやポピーちゃんの様に、大勢を移動させる事は出来ないの…効果があるのは私一人にだけなの…才能無いのかなぁ…」
悲しそうに俯くリュリュ…
「そ、そんな事無いよ!リュリュは凄いよ!才能もあるし、努力するから凄いと思うよ!以前マーリンから聞いたんだ…ルーラは本来、使用者しか移転できない魔法だって!つまり、大勢を移転させる奴の方が異常なんだよ!リュリュは正常なんだよ!だから凄いんだよ!」
ティミーは必死にリュリュを慰める。
「ちょっと!その異常な奴って、アンタの父と双子の妹なんだけど!」
「ほら、異常だ!」
ポピーの憤慨を見向きもせず、リュリュの両手を握り慰めるティミー…そんなお前は正常なのかと聞きたくなる。
「あ、ありがとう…ティミー君…」
さすがのリュリュも引き気味だ。
「それでね、マーサお祖母様!実はもう一つ古代の魔法を教わって来たの…上手くすれば、その魔法が今回の事件で役に立つかも!」
「本当ですかリュリュ!?そ、それは何という魔法ですか!?」
思いがけない所から状況打開の切っ掛けになるかもしれない事が…
「はい。その魔法は『パ・ル・プ・ン・テ』と言います!魔法を教えてくれたベネットさんが言うには、『何が起こるか分からない魔法』と言ってました…そして『太古の文献には、異世界から恐ろしい物を呼び寄せる事もあったらしい』とも言ってました!これって上手くすれば、お父さんを呼び戻せるかもしれないですよね!?」
「それは本当ですか!?では早速試してみましょう!仮にあの子を呼び戻せなくても、異世界への干渉を起こす事が出来るのなら、今後魔法を改造する事で、状況を打破できるかもしれません!」
早速マーサは準備を始める!
国王の執務机に例の本を開いて置き準備を整える。
周囲にはマーサ他、ティミー達も事の次第を見つめている。
そして例の本を挟む形でマーサの正面に立つリュリュ。
皆が緊張した面持ちで見つめる中、リュリュが魔法を唱えた!
「パルプンテ」
………………………………………
「…何も…起きませんね?」
数秒の沈黙が続き、マーサが言葉を発した瞬間!
例の本の上に黒い穴が広がり、近くにあった書類などを吸い込みだした!
「あ!星降る腕輪が!!」
書類の上にペーパーウェイトとして置いてあった星降る腕輪が吸い込まれそうになり、思わずティミーが手を伸ばす!
しかし時既に遅く、星降る腕輪は穴の中へ…
しかも不用意に近付いた為、ティミーまでもが吸い込まれそうになっている!
「ちょ、ティミー!!」
「お兄様ー!!」
ティミーの近くに居たビアンカとマリーが、慌てて手を差し伸べた!
ティミーは辛うじて2人の手を掴む事が出来たのだが、それはむしろ最悪の行動でしか無かった!
そう、ティミーは吸い込まれ、手を掴んだビアンカとマリーまでも巻き込んでしまったのだ!
穴は書類を数枚、星降る腕輪を1個、そして3人を吸い込んだ所で急速に消え去った!
後に残されたのは、途方に暮れるマーサ達…
この先どうすれば良いのやら…
ページ上へ戻る