戦国異伝供書
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第八十話 鬼若子その三
「敵は浦戸の方に退いたが」
「あちらには城がありますな」
「浦戸城が」
「そこに籠りますな」
「そうしますな」
「あの城は海に面しておる」
その浦戸城のことを言うのだった。
「なら水軍も使うぞ」
「水軍ですか」
「それをですか」
「それも使いますか」
「うむ、海から城を封じてな」
そしてというのだ。
「そこから動けなくしてな」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「海から逃れさせない」
「そうされますか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「陸からもな」
「陸ですか」
「陸からもですか」
「攻める」
「そうされますか」
「いや、柵を築いてな」
攻めるのではなく、というのだ。
「囲む」
「海からも陸からも」
「そうするのですか」
「この度は」
「そうされますか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「敵を閉じ込め動けなくしてな」
「その様にして」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「やがては」
「攻められますか」
「そうする、城は迂闊に攻めるものではない」
元親の言葉は至って冷静なものだった。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「今は、ですか」
「攻めず」
「そのうえで」
「時を待つ、ここは焦ることはない」
将帥達にこうも言った。
「だからじゃ」
「左様ですか、では」
「ここはですな」
「水軍も使い城を囲み」
「そうして時を待ちますか」
「そうする」
こう言ってだ、そのうえでだった。
元親は長曾我部家の軍勢をその様に動かした、それを見てだった。
家中の者達は真剣な顔で唸って言った。
「まさかな」
「うむ、若殿のお話を聞いて采配を見ると」
「まるで別人じゃ」
「姫若子というのは誤りじゃ」
「姫ではない」
「鬼じゃ」
「そうじゃ、鬼若子じゃ」
それだというのだ。
「若殿は鬼の様に見事じゃ」
「鬼の様に戦の強い方じゃ」
「初陣であそこまで戦われ落ち着いておられるとは」
「我等でもあそこまで落ち着いておらぬ」
「しかも人を動かすことも的確で」
「戦の場全体を見ておられる」
このことについても話すのだった。
「あの方はな」
「左様であるな」
「若殿は出来た方じゃ」
「あの方の言われる様に戦えば」
「我等は土佐を手中に収められるか」
「そして四国も」
この島自体もというのだ。
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