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ペルソナ3[百合] 求めあう魂

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
いよいよ変な方向に進む後編です。年齢制限アリですのでご注意ください。
ともかく二人をその状況まで持っていく為に、あと数日しか生きられないかもしれないという決戦前のぎりぎりの状況にセッティングし、さらに『刈り取るもの』で追いつめてみました。
(このサイトに掲載するバージョンの物は、基本的にはソフトですが、濡れ場もあります。とりあえず行くとこまでは行ってしまいました。正直、冷や汗、赤面ものです。)
 

 
「ゆかり! ゆかり!」
呼ぶ声に気がつくと美鶴に身体をゆすられていた。目に飛び込んできたのは、冷静な美鶴が普段は見せない必死の形相だった。振り乱した髪、血走った目からは涙があふれている。
「しっかりしろ、ゆかり!」
「せ・ん・ぱい・・・?」
そこで状況を思い出し、「あっ・・死神は?」と慌てて体を起こそうとする。
その瞬間、全身に痛みが走って、思わず呻いて身をよじった。
「まだ、無理しちゃダメ。じっとしてて。」
汗まみれで息を荒くしたまま『彼女』が ゆかり 制した。
「安心して。死神は倒したよ。」
続けて『彼女』がそう教えてくれる。ゆかり はその言葉に安堵して、体の力を抜いた。
まわりには全員が心配そうに集まっている。みんなぼろぼろだった。
『彼女』が最高レベルの回復スキルをかけてくれる。あれだけひどかった痛みがみるみる引いていき、傷も消えていく。
「ありがとう、ずいぶん楽になった。」
ゆかり は『彼女』に礼を言った。
「まだ、スキルを使う余力があって良かったよ。・・・でもこれでもう打ち止め。」
さすがの『彼女』も疲れきった顔で力なく笑う。
「本当に大丈夫か?」
美鶴が涙を浮かべながら心配そうに問いかけてくる。
「まあ、なんとか。・・・先輩は?」
心配させまいと無理に笑って見せた。
「君がかばってくれたからな。・・・すまなかった。私の為に・・・。」
「何言ってんですか。こんなのお互い様でしょ。それより、私達、勝ったんですよね。そんな顔してないで喜びましょうよ。」
ゆかり は元気づけるように美鶴に言った。
「はい。私たちは勝ちました。全員で一丸となってつかんだ勝利です。大変素晴らしかったです。」とアイギスが力強く言う。
「本当にすごいや、死神シャドウに勝っちゃうなんて。」と天田君が笑う。
「おーよ。確かに俺ら強くなったんだよな。これでニュクスも恐れるに足らずだ。順平はレベルアップ~。」
順平が天を指さして声を張り上げる。
「おいおい、順平だけじゃなくて『俺たちレベルアップ』だろう。」
真田も上機嫌で笑いながらつっこむ。
みんなの雰囲気が盛り上がっていた。
「でも本当に良かった。先輩が無事で・・・。」
そんな中、ゆかり がほっと息を吐く。
「ゆかり・・・。」
気づいた美鶴は、唇をふるわせて彼女を見つめた。
「大変、意義のある勝利です。しかし、ニュクスは死神以上の存在と推定されます。後ほど本日の戦闘を分析しますので、少しでも課題を克服しておきましょう。」
一同勝利に舞い上がっている中、アイギスはこの後に待つ過酷な戦いを意識してか、冷静にそう告げた。
「もう、アイちゃんったら、せっかく盛り上がってるのに~・・・。」と順平がぼやく。
「いや、アイギスの言うとおりだ。確かに命がけの厳しい戦いだった。しかしあくまでこれは模擬戦。本番はこれからだからな。少しでもできることがあればやっておこう。」
気を取り直して立ち上がると、美鶴はみんなにそう呼び掛けた。
【皆さん、そろそろ影時間が終わります。急いで撤退してください。】
風花の通信が入る。
「ともかく今日はみんな、本当にご苦労だった。充分な成果だ。寮に帰ってゆっくり体を休めてくれ。」
美鶴はそう告げた後で、座り込んだままの ゆかり に改めて手を差し伸べた。
 
ロビーで解散後、みんなで階段を上がり、「おやすみなさい」と声を掛け合って部屋に戻った。体のダメージそのものは『彼女』の究極の回復スキルのおかげですっかりなくなっていたが、疲労は限界まで来ていた。布団に倒れこんだら、そのまま動けなくなりそうだ。
しかし、死神戦の興奮が冷めやらず、体は疲れ切っているのに神経が張り詰めていて、とても寝つけそうにはなかった。
目をつぶれば、死神の恐ろしい姿と激しい攻撃が蘇って、思わず体に力が入る。命がけの戦いからの切り替えがうまくできない。
ゆかり は頭を振ってそのイメージを振り払った。
「ああ、お風呂入りたいけど、今日は順番最後だったし、どうしようかな。」
一人でぼそっとつぶやいていると、携帯電話が鳴った。
もう2時を過ぎている。
首をかしげて電話に出ると『私だ。美鶴だ。』と声がした。
「ああ先輩、どうしました?」
『うん・・・ちょっと話をしたくてな・・・その・・もし良かったら、少しでいい。会いたいんだが・・・。』
疲れていた・・・。
美鶴も疲れ切った声をしていた。お互いにもう限界だろう。
それでも電話してきたということは、何か ゆかり に伝えたい重要なことがあるのかもしれない。心なしかその声は震えているようにも感じられた。
美鶴の心中に何があるのかが気になった。それに、ゆかり も美鶴と話がしたかった。お互いの無事を喜び合うことで、この緊張感をほぐしたかった。
「はい、大丈夫です。ただ、できればその前にお風呂に入りたいんですけど。」
『なら、私の部屋のシャワーを使っていい。』
「助かります。・・・じゃあ、先輩、先に浴びちゃっててください。私、支度したら行きますから。」
『わかった。部屋の鍵は開けておく。』
電話が切れた。
美鶴の部屋を訪れると決まったら、急に気持ちに張りが出てきた。いそいそと着替えを用意する。
修学旅行から戻って以降、美鶴の部屋に行く機会が増えていた。美鶴に誘われてということが多いが、ゆかり も以前あったような苦手意識が無くなり、いつしか気軽に部屋を訪ねるようになっていた。シャワーも何度も借りたことがある。気が向くと、部屋で一緒にDVDを観たり、音楽を聴きながら話をしたりして過ごした。
そういうとき、いつも美鶴は紅茶を入れてふるまってくれた。
全くスキが無く、なんでもできるように見える美鶴だが、良く知り合ってみればひどく不器用な面があることもわかってきた。そうしたことについては非常に素直であり、良くも悪くも、やはりお嬢様なのだと思う。
知り合った当初、ゆかり が反発を感じていた部分ですら、今にしてみればその不器用さに原因であったことが分かってきた。
それでも彼女は常にひたむきで、真っ直ぐで、毅然としていた。いつしか、ゆかり は、美鶴の力になれるのであれば、なんでもしたいと思うようになっていた。
通いなれた部屋に遠慮なく入ると、美鶴は先にシャワー室に入っていた。。
美鶴の部屋は ゆかり たちの部屋よりも広い。シャワーもついている。美鶴はそれを気にしていて「皆と同じ部屋で良かったんだが」と言い、 ゆかり は「私が卒業したら、代わりにこの部屋を使ってくれ」と言われたりもしている。華美ではないが高級な家具が置かれ、大型の液晶テレビやステレオセットもあった。カーテンやカーペットも別格だ。まるでホテルの部屋のようで、とても同じ寮と思えない。居心地は抜群だ。
広いベッドに腰を下ろすと、勝手にステレオを操作して静かな音楽を流し美鶴を待った。
ほんの2時間ほど前、命がけの戦いを繰り広げていたのだ。神経の高ぶりはなかなか治まらない。戦闘の記憶がフラッシュバックして、ともすると体に震えがくる。
思わずベットに倒れこんで布団に顔をうずめた。
かすかに美鶴のにおいがする。それが、心を癒してくれる気がして、ゆかり はしばらくそのままじっとしていた。
いつしかウトウトしかかったところで、シャワー室の扉が開く音がして、慌てて体を起こす。
美鶴が上品なネグリジェにガウンをまとった姿で出てきた。湯上りのしどけない姿に少し憂いを帯びた表情を浮かべており、それを見て ゆかり は妙に落ち着かない気分になった。
「先に浴びさせてもらった。」
美鶴は硬い声でそう言った。
その思い悩んだ様子が気になりつつ、交替して ゆかり がシャワーを浴びる。
汗を流すとさっぱりして頭がはっきりしてきた。
寝巻代わりのスウェットを着て出ていくと、美鶴がいつものように紅茶を入れてくれている。小ぶりなテーブルの椅子に座り、向かい合ってお茶を飲んだ。落ち着く良い香りがする。
「なんかここ最近、先輩に紅茶ばかりごちそうになってるんで、すっかり紅茶党になっちゃいましたよ。」
ゆかり は、なるべく明るい感じでいつも通りに話しかけてみた。
「でもこれ、たぶんすごい高価なお茶なんじゃないですか。」
「ああ・・・まあイギリスの名門紅茶だな。こちらではあまり手に入らないようだ。」
「そんなすごいもの、よくわかりもしないのに、私なんかがパカパカ飲んでたらイギリス人に怒られそうですよね。」
「そんなこと、気にする必要はないさ。」
冗談を言ったつもりだったが、美鶴は心ここにあらず と言った様子で、あっけなく話を流されてしまった。
(なんか、やっぱりテンションが低い。)
思い切って話を切り出してみることにした。
「どうしたんですか? ・・・さっきのことまだ気にしてます?」
「それは・・・まあ・・・。それもそうなんだが・・・。」
美鶴は少し困ったように口を濁す。
「もう、あんまり気にしないでくださいよ。こんなのお互い様だからこそ、仲間なんじゃないですか。それよりみんな無事でいられたことを喜びましょうよ。」
「いや、なんというか・・・私は君に助けられっぱなしだと思ってしまってな。」
ゆかり には目を向けようとせず、紅茶の湯気を見つめたまま話し続ける。
「先日、寮が桐条警備部の襲撃に合った時もそうだった。京都の河原で君に叩かれた時も・・・それに昨日も、私の負担を考えてみんなの意見を聞いてくれた。・・・私はいつも君に支えられてばかりいる。」
「大袈裟ですって。そんなことで落ち込まないでくださいよ。」
ゆかり の言葉に、美鶴は首を振った。
「いや、そうじゃないんだ。」
美鶴は思いつめていたことを吐き出すように語りだした。
「その・・・実は・・・ここのところ、君のことがいつも頭から離れないんだ。離れていると落ち着かなくなってくる。しかし、いっしょにいれば、つい君から目が離せなくなってしまう。まるで母親に縋りつく幼子のような状態だ。こんなことではいけない。しっかりしなければと思っているのに、君といると臆面もなく弱さをさらけ出してしまう。君に支えられ続けているうちに、私はすっかり弱くなってしまったのかもしれない。・・・いや、自分がもともと弱い人間だということに気づいてしまったのかもしれない。」
「ええっ?」
ゆかり は美鶴の吐露した思いもよらぬ言葉に動揺し、鼓動が早くなった。
「さっきも、部屋に戻ったら一人でいるのが辛くて・・・君にそばにいて欲しくなって・・・たまらずに電話してしまった。君を休ませてあげるべきだというのに・・・私は君に甘えてばかりだ。」
美鶴は己の頭をかきむしるように抱えた。
「本当に私はどうしてしまったんだ。情けない。今の私は、片時も君なしではいられないんだ。」
苦悩の表情を浮かべる美鶴を見ながら、ゆかり の頭には先日の『彼女』のにんまりとした笑い顔が浮かんでいた。
「ちょ・・・ちょっと、そんな・・・愛の告白みたいの・・・やめてくださいよ。」
ゆかり は慌てて冗談でごまかすように笑ってみせる。顔が赤くなり汗が浮き出てくる。
「愛の告白・・・・?」
美鶴が驚いたように顔を上げる。
「そうなのか?」
「いや、私に聞かれても・・・」
美鶴は ゆかり の顔をじっと見つめ、それから胸に手をやった。
「そうか・・・確かにそうだ・・・。私の代わりに君が攻撃を受けて倒れたとき、恐ろしくて気が狂いそうになった。お父様を無くした時のことを思い出してしまった。また私は自分の愛する人を失ってしまうのかと・・・。」
美鶴がそこで言葉を止めて、考え込んだ。
しばらくして、何か納得したようにうなずく。
「先輩?」
「愛する人か・・・恥ずかしい話だが、私は今まで恋心というものを持ったことが無い。」
美鶴は顔を上げ、真っ直ぐに ゆかり を見つめて言った。
「恥ずかしくないです。そんなもの、私も持ったことないです。」
「だが、君を失うかも、と思ったことで気づいてしまった。私がどうしてかつてないほど不安な気持ちになったのか。この気持ちは間違いない。」
美鶴は一度言葉を止め、それからかみしめるように言った。
「私は君に・・・恋をしているらしい。」
「その結論は・・・待ってください。少し落ち着きましょう。」
ゆかり はすかさず手のひらを突き出して、必死に美鶴を制した。
告白を受け、頭に血が上る。混乱して考えがまとまらなかった。少し落ち着いて考えたい。
しかし、美鶴は自分の思いに取りつかれたかのように、止まらずに語り続ける。
「こういう恋愛があることは、知識としては知っていた。そういう人たちに差別意識は持っていなかったつもりだが、・・・自分がそういう素質のある人間だとはまったく思ってもいなかった。だがここに至って自分の気持ちをごまかすことはできない。」
美鶴は真剣そのものだ。堰切ったように思いのたけを告げる。
「君が好きだ。間違いなく、それが私の本心だ。」
ゆかり の動揺は頂点に達した。完全にパニック状態だった。赤面し、硬直し、いたずらに目を泳がせるばかりだ。頭の中では、いったいなんでこんな展開になったんだろう、という疑問がぐるぐると回っていた。
その ゆかり の様子に気づいた美鶴が、我に返ったように目を伏せて声を震わせた。
「私が君にまた迷惑をかけているということはよくわかる。急にこんなことを言われて、さぞかし気持ち悪いと思うが・・・。」
「いや、別に気持ち悪くはないです。・・・全然ないです。」
「気持ち悪い」という言葉を聞いて、反射的に声が出た。上ずったまま早口になる。どうしたらいいのかわからない。考えがまとまらない。ただ、それでも美鶴のことを否定だけはしたくはなかった。
「むしろ好意を持ってもらってうれしいというか・・・でも・・・自分でも、こういうことを考えたことなくて、すっごく混乱してて・・・。」
「・・・うれしいと言ってくれるのか。」
美鶴がすがるような目つきで問いかけてくる。ゆかり は こくん と唾を飲み込んだ。
「それは・・・もちろんです。」
そう言ってうなずくと、不思議とその自分の言葉が胸に落ちた。
そんなの、うれしいに決まっている。自分の大好きな人が、自分のことを好きだと言ってくれているのだから・・・。
(そうだ。私はこの人のことが好きなんだ。)
「ありがとう。君に気持ちを伝えられた。・・・もう、それだけで充分だ。これで心置きなくニュクスとの戦いに挑める。たとえどういう結果になったとしても、もう後悔はしない。」
美鶴は涙を浮かべたまま、無理に微笑んで見せた。
「先輩・・・。」
潤んだ眼で微笑む美鶴を見て、ゆかり の胸に迫ってくるものがあった。それはかけがえのない、とても大切なもののように思えた。
これまで思い込みで「有り得ない」と決めつけていたが、ここ最近、自分の心の中をもっとも大きく占めているのは間違いなく美鶴だった。
こうして二人でいると、なんだか美鶴以外のことはもうどうでも良くなってくる。
(そう、私たちにはもう時間がない。)
負けるつもりはないが、勝算は全くない。何かに迷って留まっている時ではないのだ。時間は有限で、しかも残りはあとわずかだ。かなり高い可能性で、世界はあと数日で終わってしまう。
(その時を美鶴先輩と迎えることに、ためらう理由があるのだろうか・・・。)
たとえどういう結果になるにせよ、後悔だけはしたくなかった。
それならば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あー、もう! わかった!! 考えるのやめた!!!」
ゆかり はそう声を上げると、椅子ごと隣に移動し、がばっと美鶴を抱きしめた。どうしてよいのかわからないまま、半ばやけくそな行動だった。
暖かい・・・それが第一印象だった。シャワーを浴びたばかりの、いい匂いがする。
思いのほか気持ちよくて、心が安らぐ気がする。ずっと抱きしめていたいと思った。
「ゆかり・・・無理しなくても・・・。」
ゆかり の唐突な行動に、驚いたように身を固くして美鶴が言った。
「もうよくわかんないんですよ。・・・だから少し試してみましょう。」
しばらくそうして抱きしめていると、やがて美鶴がおずおずと ゆかり の背に手を回し、それから強く抱き返してきた。
「どんな感じですか・・・?」
「心地よいものだな。・・・誰かに抱きしめられるなど、何年ぶりだろう。最後にお母様に抱きしめられたのがいつかすら覚えていない。」
「正直、私もあんまり心地よくて戸惑ってます。なんか、ここのところプレッシャーで心がささくれ立っていたのが、すごく癒されていくみたいな気がします。」
ゆかり の言葉を聞いて安心したのか、美鶴の体の固さが取れてきた。その分、さらに抱き心地が良くなってくる。
そうして、お互いの存在を確かめるように、二人はただただじっと抱き合っていた。
どれだけ時間が経過しただろう。気づけば胸が高鳴っていた。二人の鼓動が重なる。
この高鳴りはいったい何なのか・・・。
体が火照って暑くなる。
抱き合ったまま、少し頭を起こし、至近距離から美鶴の顔を見つめてみた。目を潤ませ、顔を上気させている。何かを求めるように小さく空いた唇。
きっと自分も同じような表情をしているのだろう。
一度、タガが外れると、美鶴が愛おしくてたまらなくなってきた。
「キス・・・してみます?」
思わず言葉が漏れた。
問われて、美鶴は戸惑ったように目を泳がせ、それから目を伏せて静かにうなずいた。
ひきよせられるように、美鶴の唇にそっと唇を重ねる。・・・暖かく柔らかかった。
しばらくはただ唇を重ねていただけだったが、やがてどちらからともなく求めるようにその唇をくなくなとすり合わせ始めた。相手の動きに合わせて応えることに夢中になる。
頭が痺れきってなんだかわからなくなってきた。死ぬかもしれない戦いを前にして凝り固まっていた心がみるみる解きほぐされていく。
いつしか互いの舌は緩んだ唇を割って入り、情熱を加えて激しく絡み合っていた。背にまわした手で、互いの身体を撫でさすり合う。その手の動きが驚くほど互いの気持ちを燃え立たせた。
思わず熱い吐息が漏れる。興奮が高まり抑えが効かなくなる。ついに二人は抱き合ったままゆっくりと立ち上がり、そのままベットに倒れ込むように横たわった。。
横になっても二人は強く抱きしめ合ったままだった。まるで身体を離すことを恐れるように、相手の身体を引きよせる。
しばらくして再び確かめ合うように愛撫を始めた互いの手は、さらに直接的な接触を求めてどちらからともなく服の下にもぐりこんでいった。直接触れる滑らかな素肌は、驚くほど熱く火照っていて刺激的だった。相手に触れられてゾクゾクするような快感に痺れると、それをそのまま同じように相手に返えしていく。自分の愛撫に応えるように相手が身もだえするのが嬉しくて、相手の敏感な肌を刺激し合っては重ねた体をうねらせる。
「はあ・・・・。」
「ああ・・・。」
自然に吐息が漏れ、切ない声が重なった。
相手の喘ぎ声がさらに気持ちが高ぶらせ、より相手を溶け崩そうと攻めぎ合っていく。
ゆかり は全身で直接触れ合いたくなり、一度手を振りほどいて身を離すとスウェットを乱暴に脱ぎ捨てた。そしてその勢いで美鶴のネグリジェもまくり上げる。抵抗せずネグリジェを剥がされながら、美鶴は枕元のリモコンで照明を落とした。
訪れた暗闇は二人に羞恥を忘れさせ、より大胆に相手を求めさせた。
柔らかい素肌の胸を擦り合わせ、手で互いの身体を探り合い、脚を絡めて身悶えしながら官能に溺れていく。
ゆかり が上にのしかかり、美鶴の首筋から胸のふくらみにかけてゆっくりと舌を這わせていった。さらにそのふくらみの上にある突起で舌を遊ばせ、口に含んで吸い上げると、美鶴は体をビクビクさせながら喘いだ。
ゆかり がさらにもう片方の胸に標的を移し、屹立した敏感な乳首に刺激を加えてくると、下になった美鶴は負けじと ゆかり の足の間の濡れそぼった場所に手を伸ばしてくる。
「あ・・・先輩。そこは・・・。」
怯む ゆかり の微かな抵抗をふりきり、美鶴はその溶け渦れた部分に指を滑らせると、繊細な指先でやさしく愛撫して彼女をのけぞらせた。
「ああっ。」
身体をひっくり返されて今度は下になった ゆかり が身体を震わせながら喘ぐ。反射的に太腿で美鶴の手を挟み込むが、それでも蜜壺に触れた指は止まることなく動いて、鋭い快感を送り込んできた。美鶴の攻めに耐えながら、自分も相手の同じ場所に手を伸ばていく。熱い蜜を溜めた秘所に触れた瞬間、美鶴の身体も激しく痙攣する。
「んん・・。」
今度は美鶴がこらえきれないように声を洩らした。。
二人は互いのもっとも敏感な部分を貪欲に責め合う。吹き出た汗で全身の肌がオイルでも塗ったように妖しくぬめる。我を忘れて身もだえし、呼吸がますます荒くなる。
美鶴に求められるままに ゆかり は唇を重ね、二人はむさぼるように互いの舌を吸い合った。
身も心もどろどろに溶け崩れ、ただひたすら快楽に浸りきる。
すすり泣くような喘ぎ声が重なり、快感が留まる事なく高まっていく。
「ああ・・・先輩・・・」
「ゆかり・・・ゆかり・・・」
感極まって互いに呼び合った。
もう何も考えられない。あるのはただ相手に対する愛おしさだけだった。頂点を目指してひたすら互いを追い込んでいく。それとともにまわりの全てが消失し、身体は煮えたぎるような熱く濡れた塊と化す。そしてついに二人は目くるめく頂点に到達した。全身を痙攣させて、互いの身体にしがみつく。二人がひとつになった瞬間だった。
極めた悦楽の余韻にどっぷりと浸る。しばらくして、ようやく峠を過ぎても、身体の震えはなかなか治まらなかった。荒い息遣いのまま、二人は言葉を交わすこともなくただじっと抱き合っていた。いつまでも・・・いつまでも・・・。
そして、いつしかそのまま眠りに落ちていった。 

ゆかり が目覚めると、自分が美鶴の部屋のベッドにいることに気づいた。もう日が高い。思いのほかぐっすりと眠ってしまったようだ。
いや、いつ眠りに落ちたのかも覚えていないが、明け方まで抱き合っていたのだから、眠っていた時間はそれほど長くはないのかもしれない。
そこまで考えて、慌てて起き上がる。昨夜の記憶が一気に蘇ってきて鼓動が早くなり、真っ赤になって「あああああ・・・」と声を上げながら頭を抱えた。
「目が覚めたか。」
ふいに美鶴に声をかけられて「ひっ」と思わず奇声を上げてしまった。
「ちょうど紅茶が入ったところだ。一緒に飲もう。」
美鶴は既にネグリジェにガウンを身に着けている。
脱ぎ散らかしたはずの ゆかり のスウェットと下着は、いつの間にかまとめられ、枕元にきれいにたたまれていた。
美鶴は落ち着いた様子で、テーブルに紅茶を並べていく。
しばし呆然と美鶴の姿を見つめていたが、やがて自分がなにも身に着けていないことを思い出し、恥ずかしくなって もそもそと服を身に着けた。
「もうすぐ昼だ。私も久しぶりによく寝てしまったようだ。君が側にいてくれて安心したのだろうな。」
ゆかり が席に着くと、美鶴がうれしそうにそう言った。
その表情はいつもの美しく、毅然として、冷静な美鶴に戻っていた。
一方、ゆかり は動揺してどんな態度を取ったらいいのかもわからずにいた。
「・・・なんだか、先輩・・・随分と落ち着いてませんか?」
「そうだな。つきものが落ちたよう感じだ。」
美鶴が微笑みを浮かべてうなずく。
「なんかずるいですよ。一人で落ち着いちゃって。その・・・私たち、夕べ、あんなことになっちゃったのに・・・。」
ゆかり は情けない感じで声を絞り出す。恥ずかしくて身の置き場がなかった。
「自分の気持ちがはっきりしたからだろう。道ならぬ恋とはいえ、私は君を愛している。それがはっきりしたというだけで今は十分だ。」
自信たっぷりに「愛してる」とはっきり言われて、ゆかり はさらに怯んだ。
「私はなんだか、どんな顔したらいいのかもわからなくて混乱してます~。」
美鶴の余裕が恨めしくて口を尖らせる。
「申し訳ない。君にはまた迷惑をかけてしまったな。」
「いや、別に迷惑ってこともないんですけど・・・。そのう・・・私たちって・・・これからどうしたらいいんですか・・・。」
「まずはニュクスを倒す。」
美鶴がきっぱりと告げた。その言葉に ゆかり はハッとした。
「それからゆっくり話し合おう。あと数日で人類の存亡をかけた戦いがある。私たちのことはそれを片付けてからで遅くないさ。時間はたっぷりある。」
そう、美鶴と一緒なら、どんな運命でも受け入れられる。そう心に決めたはずではなかったか。
改めて自分の心に問いかけてみる。・・・今でも自分の選択に後悔はなかった。
「でも、ニュクスとの戦いが終わったら、このことも全部忘れちゃうんですよね。」
「思い出すさ。・・・絶対に思い出して見せる。この気持ちを忘れられるものか。
仮に思い出せなくとも、私はまた君に恋するはずだ。私や君という人間が変わるわけではないのだから。」
「そっか・・・そうですね。今はまず未来を勝ち取る事が最優先ですもんね。」
ゆかり はそれを聞いてようやく気持ちが落ち着いてきた。
テーブルに置かれた紅茶を一口飲む。
「おいしい。先輩に教えてもらったこの味も、絶対に忘れられそうにない。」
それを見て美鶴が愛おしそうに微笑んだ。それから静かに、しかし力強い口調で告げた。
「この後、アイギスの取ったデータを元に、昨夜の戦闘を検証してみる。より効果的な戦術に変更する必要があるかもしれない。」
「うわっ。いきなりスイッチが入りますね。完全にいつもの先輩だ。昨夜のへこんでた先輩はなんだったんですか。」
「君の為にも絶対に負けられないからな。私が弱っているときに力をくれるのはいつも君だ。」
迷いのない言葉だった。言葉に力が満ちていた。
「自覚はないんですけど・・・役に立ってるなら何よりです。そうですね、私も切り替えて戦いに備えないと。」
ゆかり は、ふとニュクス戦を前にして感じていた重苦しい気分が抜けていることに気がついた。昨日までは「世界が終わるまであとわずか」という思いに捉われていたのに、今は戦いの先を考える心のゆとりができていた。
未来に思いをはせ、心が定まる。もう迷いは無い。今なら空の星でも射貫けそうだ。
「そうだ。先輩、大学もう決まってるんですよね。ニュクス倒して私の期末試験が終わったら、二人でどこかへ旅行にでも行きませんか。」
「エクセレント! 名案だ。ヨーロッパか、オーストラリアにでも行くか。」
ゆかり の言葉に、美鶴が顔を輝かせる。その反応に ゆかり も思わず笑ってつっこんだ。
「いや・・・その辺の温泉かなんかでいいですって。そこで二人でゆっくり話をしましょう。」
「ああ、そうだな。・・・八十稲葉にいい温泉宿を知っている。終わったら二人で行ってみよう。」
「いいですね。楽しみです。」
「よし、さっそく予約を入れておこう。」
二人で顔を見合わせて笑う。いつもの心地よい雰囲気の戻っていた。いや、まぎれもなくいつも以上の一体感があった。
いつまでもこの時間が続けばいいと思った。
しかし、美鶴はこの後の予定を立てている。自分は自分で、できることに取り組まなくてはならないだろう。
「さて、じゃあ私はとりあえず一度部屋に戻りますね。」
ゆかり はそう言うと、立ち上がってドアの方に向かった。
ドアノブに手を伸ばしたところで、「あ・・・ゆかり・・・」と美鶴が声をかけてきた。
「はい?」
振り向くと、すぐ後ろに、恥ずかしそうに顔を赤らめた美鶴が立っていた。
「その・・・良かったら、もう一回・・・キスだけ・・・。」
ゆかり の胸がキュンとなった。
 
「・・・で、あっさり落ちたと。」
『彼女』が呆れたように言った。
「しょうがないじゃない。なんだかそうなっちゃったんだもん。」
シャガールで紅茶を飲みながら、ゆかり は赤くなった。
「ともかく、この戦いは負けられないのよ。先輩の為にも・・・。」
「そうだね~。また負けられない理由が一つ増えちゃったね。」
『彼女』の言葉にうなずくと、ゆかり は窓の外に目を向けた。もうすぐ日が暮れる。
いよいよ決戦の日が訪れる。 
 

 
後書き
戦闘シーンを上手に書くのって難しくて、長々書いても粗が目立つので、いつもあっさり短めにしてしまいます。今回、濡れ場を書くのもかなり困りました。どこまで書いたらいいか、加減が分からないんですよね。改めて官能小説家ってすごいなって再認識しました。
因みに他サイトに掲載している全年齢版の方は、「ベッドに倒れこんだ」の後、いきなり翌朝です。・・・まあ、エロ小説にならない範囲でいろいろ試してこのようになりました。大仰なタイトルもテレ隠しです。まったく赤面ものですね。
また次回は違った挑戦をしてみたいと思ってます。 
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