ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~
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4-4 隊長失格
負傷した大神は、帝劇へ帰還してすぐ精密検査を受け、手術の末医務室の医療カプセルへ収容され傷をいやすことになった。かなり重い一撃こそもらいはしたものの、命に別状はなかったという結果だ。カプセルから彼の部屋のベッドへと移され、後は目を覚ますのを待つだけなのだが、中々大神は目を覚まさなかった。
「お兄ちゃん…」
アイリスが大神の手を握って、早く目覚めてくれと催促する。時々握り返す感触を感じて、目を覚ましたのかと思いはしたが、わずかにうなされただけでまだ目を覚まさない。
「隊長、早く目を覚ましてくれよ。あたいはまだあんたと知り合ったばかりじゃんか」
「少尉、この私が一目置いている殿方なのですよ…」
誰もが大神の一刻も早い目覚めを願った。
「…」
ジンは、悔しい思いを露に苦い表情を浮かべていた。あのとき、赤い巨人に変身して現場に向かっていればこんなことには!
だがあのとき、変身に使うあの赤いメガネをつけようとしたところ、米田に手を捕まれ無言で変身をするなと警告されていた。変身を決断したのは大神が倒されたタイミング、自分は翔鯨丸の操縦室内だ。風組やアイリスもいる。あの場で赤い巨人に変身したらパニックになってしまう。
…が、よくよく考えれば本当に正しかったのだろうか?
パニックといっても一過性のものだ。それに自分が赤い巨人だと知ったところで彼女たちがどう思うのか?寧ろ数度に渡って彼女たちを救ったのだから拒絶されると言うことはないのでは?
だから、大神の見舞いを済ませた後、支配人室の米田になぜ変身を許可しなかったのかを問いただした。
「米田さん、なぜ僕に変身をさせなかったんです!あの時僕も早く出ていれば…」
「お前の気持ちも理解する。だがジン、それはダメだ」
「どうしてですか!」
反対されたことに納得いかず、ジンは米田に詰め寄る。
「お前の出番は、あいつらでも手に負えない敵が現れたときだけだ。そうほいほいとお前の手を煩わせてみろ。どうなると思う?」
「それは…花組のみんなも帝都の人たちも傷つくことがなくなって…」
誰一人傷つかず、平和な日常を満喫できる。花組のみんなだって、戦うことよりも舞台で客を喜ばせる方がいいはずだ。だがジンの答えを聞いて、米田は呆れた様子でため息を漏らしてきた。
「そうかもしれねぇが……ったく、昔のお前ならちゃんとした正解を出せたぞ」
「え?」
「忘れたのか?お前ばっかりが目立ってたら、また花組が役立たず扱いされて解散。帝都のみんなも、赤い巨人さえいればいいってマヌケな考えを抱く」
そういわれ、ジンはうぐ、と息を詰まらせた。つい最近まで解散の危機でもあったことを思い出し、言葉に迷うものの、今回の戦闘の件で最悪の事態が起きかねなかったことについても指摘を入れようとする。
「で…でも万が一あの時大神さんが本当に殺されてしまっていたら!!」
「ジン!」
反論を繰り返すジンに向けて、米田の怒鳴り声が響く。その一声でジンは思わず身が一瞬震え、黙らされた。
「俺だってなぁ、誰も死なずに、それも怪我一つない状態が一番だってのはよく思い知ってるさ。本来なら、あの子たちを戦場に立たせるつもりはなかった。今だって俺自身が前に出て戦いてぇさ。
それが、光武を動かせるだけの霊力を持ってるのがさくらたちだけとはいえ、戦場に女を出してこっちは指揮を執る側…本来俺たち軍人は寧ろ前線に立ってあの子たちを守らなくちゃならない立場だってのにな。あの子たちだって、戦場に立つことよりも、もっとやりたいことだってあったはずだ。
でもよ、花組のメンバーはいずれも、戦うことを承知の上でここにいることを選んだ。それはなぜか?」
ジンの心を見据えるように、頬杖で自分の頭を支えて彼を見つめながら、米田はさらに話を続けていく。
「たとえそれが命を懸ける戦いだとしても、守りたいものがそこにあるからだ。
一歩も引かず、己の正義のために、大切なものを守るために戦う。
降魔戦争の時のお前もそうだった。お前はどんなにやばい敵が現れても、一歩も引かなかった。大切なものを守るためなら、自分が傷つくこともいとわない。
そんなお前だから、俺やあやめ君も守りたいと思ったんだ。お前の記憶が消えた今でもな。あの子たちだって同じだ。傷つき倒れることも覚悟の上、
それが帝国華撃団としての誇りだ。
それを捨てた華撃団に意味なんざねぇ」
「…!」
華撃団の誇り。それがジンの心に重くのしかかった。
誰かを守るために、我が身の痛みを厭わずに戦う。絶対に汚してはならない、戦士の矜持。
守るためと言ってみれば聞こえはいいが、同時にそれは花組から華擊団としての誇りを奪うことだった。命を懸けることを承知の上で、大神やさくらたちは荒ぶる脅威に向き合い、戦うことを決めた。でしゃばって変身して自分一人だけで立ち向かえば、花組は納得するだろうか。
いや…しないだろう。
「お前だって覚悟を決めて、赤い巨人に変身することを選んだんだろ?だったら、あの子達の覚悟も受け止めてやれ」
「…はい」
すると、支配人室の扉をノックする音が聞こえた。
米田が入れ、と許可を下ろすと、一人の男性が支配人室へと入ってきた。
「あなたは…!」
ジンはその顔に見覚えがあった。上野公園へ、花見の下見に行ったときに出会った、大神の知り合いの男だ。
月組隊長にして、大神の知人でもある加山雄一である。
「米田司令、彼は…」
「人払いなら必要ねえ。次のお前の任務には、こいつも関係あるからな」
「そうですか…では」
ジンのことは気にしなくても大丈夫だと解釈し、加山は米田の前に立つや否や,謝罪の言葉を響かせる。
「申し訳ありませんでした、米田司令!
今回の大神の負傷、そして真宮寺隊員の誘拐…全て自分がみすみす人質にされてしまったことが原因です!米田司令、俺に処分を下してください!」
デスクの前で頭を必死に下げ続ける加山。大神は、まだ自分が月組の隊長であることは知らないままだ。月組は本来隠密活動が主な担当であり、味方にもその正体を探られないようにしないといけない。当然ながら敵につかまってしまうなどあってはならないことだ。まして、士官学校時代の友に大怪我をさせることになったのだからなおさらだ。
「……加山、顔を上げろ。お前はよくやっている。今回はお前だけの責任じゃない。敵の動きを予測しきれなかったことも大きいからな」
米田は加山に罰を下そうとしなかった。実際隊長として月組の面々をうまくまとめてくれているという意味では加山もまた大神とはまた違った逸材でもあり、加山たちの隠密能力は大したものなのだ。さすがに首にさせる、なんて真似はできないし、これからもしっかり部下として働いてもらわなければならない。
「それより加山、今回の敵について気になることはなかったか?」
「は……今回、花組が交戦した敵の名は刹那…黒之巣会という組織の幹部に当たる者のようです。奴の能力は、アイリス隊員と同様に他者の心を読み取ること」
「黒之巣会…か」
「心を読む…!?」
米田は目を細める。ジンも話を聞いて、即座にアイリスと初めて会った頃のことを思い出した。彼女は当初から、何も言っていないのに、こちらのことを見透かしているような不思議な言い回しをすることがある。後に彼女には心を読む力があると聞いていた。うまく利用できれば、戦闘においてかなり役立てることは明白。
だが、敵側…黒之巣会にも同様の能力者もいたということになると、そうも言ってられない。
「厄介だな…それで花組の動きも奴には手に取るようにわかっていたわけか」
先日の戦闘で、刹那が花組の攻撃もいともたやすくかわしていた光景が蘇る。初めて戦う相手でありながら、あたかも前日までに舞台で展開される殺陣を極みともいえるほどに完成させたかのような、鮮やかな動きで刹那は全てよけきって見せていた。
「…だが、厄介なのはその刹那ってやつがこちらの心の隙を突いてくるとこだな」
「ええ、実際花組の面の中で、マリア・タチバナ隊員の動揺が激しかったと見受けられます」
「マリアさんのが!?」
「やはりな…」
目覚めて以来、帝劇におけるマリアの性格がどんなものか。冷静沈着で自他共に厳しく、そのように認識しているジンは驚くが、米田は妙に納得を示していた。
「やはり?どういうことですか?マリアさんはかなり冷静さを保てる人のはずじゃ」
「…誰にでも心に抱えてるものがあるってことさ、ジン」
…あいつがそうだったようにな。つい米田はそのように言いそうになったが、喉の奥でひっこめた。
「とにかく刹那への対策は、大神が目を見開く覚ましてからじゃないとな。
じゃあ次に…さくらの居場所についての調査はどうなっている?」
マリアについてはそれ以上の追及はせず、刹那のことも大神の復帰後に回すことにし、次にさらわれたさくらについて加山に聞いた。
「現在、活動可能な人数で捜索していますが…まだ…」
「そうか…」
まださらわれて日が浅い。とはいえ、米田にとって戦友の忘れ形見でもあるさくらは一刻も早く取り戻したい。米田は支配人兼司令として構えてはいるが、実際は気が気でなかった。
「ここ最近、多数の脇侍を中心とした怪蒸機事件の件数を考えると、黒之巣会は脇侍の制作のため、帝都及びその周辺地域で脇侍を組み立てるための秘密施設を抱えていると考えられます。刹那はおそらくそれらのいずれかに身を隠し、次の我々との戦闘に備えていると」
「脇侍の工場が、この帝都に…」
これまで脇侍は突如として、どこからか姿を現してきた。帝劇で暮らし始めて以来、自分達の膝元と言えるくらいの近場に敵の隠れ支部のような場所が潜んでいたと聞いて驚きはしたものの、よくよく考えれば納得のいく推察だった。
「そこのどこかにさくらもいるかも知れねぇな。
ジン。加山」
米田に名前を呼ばれたジンと加山の両名は、どこか威圧しているようにも見える米田の司令としての顔を見て、反射的に背筋を伸ばす。
「さくらを拐った刹那を放置するわけにはいかねぇ。なんとかさくらの捕まっている敵の潜伏域を探ってくれ。だがしらみ潰しに探し回っている時間も余裕もこっちにはない。一発で当てるつもりで調査に向かってくれ」
支配人室を出てから廊下にて、改めてジンは加山と言葉を交わし始めた。
「…そういえば今思うと、意外でしたよ。さくらや大神さんに続いて、加山さんまで帝国華撃団に配属されてたなんて」
さくらと大神と加山、とある一日で初めて会った3人全員が、今では同じ組織の仲間であることを思い出したジンは、改めてそれを思い返して驚きを口にした。
「俺もだ。米田司令のことは、軍の方でも名を轟かせていたからな。まさかご家族がいたとは思わなかったよ。しかも、一度顔を会わせた間柄だったとはな」
加山もまたそれに至っては同感だった。世界は案外狭いものだったと思わされる。
「改めて…月組隊長の加山雄一だ。よろしく頼む」
「はい、こちらこそ。気軽にジンって呼んでください」
帝劇の仲間としては、今回が初顔合わせになる。二人はお互いに握手を交わし合った。
「そうだ加山さん、任務に向かう前に大神さんの見舞いに行きませんか?」
「ああ…」
大神の名前を聞いて、さっきは何とか笑顔を保っていた加山の表情に、若干の陰りが一瞬だけ現れた。
二人は外に出る前に、帝劇二階にある大神の部屋へ向かいだした。大神は、あれからまだ目を覚まさない。命に別状はなく、そのうち目を覚ますらしいが、まだその気配は見られなかった。
「思ってみれば、米田さんも結構無茶ぶりかましてきましたよね…」
「さくらさんの命もかかってるからな。そりゃ無茶ぶりでもかましたくなるものさ。それに、俺にとっては今回の任務は嫌でも降りるわけにいかない」
加山もなかなかに今回の米田からの任務は、骨を折るものになるだろうとは予想している。彼の降りられない理由については、ジンも察しが付いていた。刹那による大神の負傷とさくらの誘拐だ。
「俺が刹那に捕まってさえいなければ、あんな結果にならなかった。その罪滅ぼしと言っては何だが、なんとかさくらさんを無事に帝劇へ連れ帰りたい」
「ええ…」
ジンにとっても、無視はできないことだ。さくらは、記憶がないとはいえジンにとってはかつて戦った戦友の一人の忘れ形見と言える存在であり、今のジンにとっても帝国華撃団の一員である彼女はかけがえのない人間の一人だ。加山を身を挺してでも守った大神のためにも何としても取り戻したい。
「おっと、一つ忘れるところだった」
「なんですか?」
「俺が月組隊長であることを知っているのは、米田支配人とあやめさん…月組を除けば他僅か数名。隠密部隊だから、花組をはじめとしたほかの部隊のメンバーには顔は知られていないんだ。当然大神も、俺が月組に配属されていることは知らないし、必要となる時が来るまでは知られるのは避けておきたい。だから、俺が帝劇にいることは内密に頼む」
「わかりました。あ…だとしたらお見舞いはまずかったですか?」
まだ大神に、月組隊長であることを知られたくないのなら、逆に見舞いはしない方がいいことを察したジン。だが加山は首を横に振った。
「いやなに、まだ今のタイミングなら、大神がけがをしたと聞いて駆け付けた、と君が言ってくれれば誤魔化しは通じるさ。少なくとも月組であることをうっかり喋ったりしなければそれでいい」
話をしていると、すぐに大神の部屋の前に来ていた。さっきの会話のこともあって、ジンの方が先に出て、ドアをノックしようとする。
だがその前に、大神の部屋の扉が開いた。もう大神が目を覚ましたのだろうか?そう思ったが違った。
大神の部屋から姿を現したのは、マリアだった。
「あれ、マリアさん?」
「…!…」
マリアは、ジンと加山という来訪者も来ていたことに、やや驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの冷たそうな無表情に戻り、すぐに二人の前から立ち去っていった。
(マリアさんも、見舞いに来ていたのかな?)
不思議に思いながらも扉を開き、大神の部屋に入る二人。まだ眠っている大神以外誰もいなかった。
寝ている大神のベッドに歩み寄ると、加山は苦悶の表情となり、大神への懺悔を口にした。
「大神、済まなかった。同じ組織に配属され、お前の力になろうと張り切っていた矢先に先日の戦闘でのヘマ…
さくらさんの誘拐とお前の怪我は俺の責任だ。今はゆっくり体を休めて傷を癒してくれ」
加山はそう言って一歩下がり、ジンに前を譲った。ジンも大神の側に寄ると、彼に向けて決意を示した。
「大神さん、さくらのことは僕たちに任せて」
その後、二人はすぐに帝劇を出て、黒之巣会の脇侍工場を探りに向かった。
刹那にさらわれたさくらは、目を覚ました。
目を開けると、暗くジメジメとした場所で、清潔感が見られない。長らく放置された場所のようだ。
両腕に痛みを感じ身動きがとれない。顔を上げると、頑丈な鎖で両腕が縛り付けられていた。
さくらは鎖を振りほどこうともがくが、やはり拘束が解ける気配はなかった。
「無駄無駄。その鎖は黒之巣会の特注品でね、お姉さんの華奢でよわっちぃ力じゃ外れないよ」
不意に声が聞こえ、さくらの中で強く警戒心が高まる。
闇の中から一瞬だけ現れては消え、そしてまた一瞬現れて消えてを繰り返し、さくらの前に鋭利な赤い爪を刃物のように伸ばした小柄な少年が姿を現した。
黒之巣会の死天王、蒼き刹那だ。
「お前は…!」
さくらは目一杯の気迫で刹那を睨み付ける。
「いい目で睨むねぇ。マリア・タチバナの方を狙ってたつもりだったけど、まぁいいさ。感情豊かな子の方が、いたぶりがいありそうだし…その怒った顔が、恐怖と苦痛に歪むのが楽しみだよ」
刹那はさくらの怒りなど、寧ろ楽しんでいた。
軽く浮遊し自分の顔を指先でねちっこく撫でられたさくらは怒りに加え、刹那への生理的とも言える嫌悪感を覚えた。こいつは子供のように見えるが、中身はどす黒い悪党、自分がこの世でもっとも嫌いなタイプだ。
しかし気になることをこいつは口にしていた。
「どうしてマリアさんを狙うの?」
「あのお姉さんの心の醜さを証明するためさ」
面白おかしげに刹那は笑った。
「知ってるかい?あのお姉さん、君たちに隠していることがあるんだ」
「隠していることですって?」
マリアに隠し事、それの存在事態はあまり違和感がなかった。マリアはあまり自分のことを話さないタイプで、弱い一面も全く見せてこなかった。ただ、なぜ刹那が…敵であるこいつがあたかも知ってるような口ぶりなのか。
「君たち帝国華擊団とやらは、帝都の平和と正義のために戦っている…何て言ってるけど、マリアお姉さんにはそんなものない。信念も誇りもない、ただ目の前の敵を無目的に殺す…勝つためなら味方も切り捨てられる非道な女だってこと」
さくらは不快感をさらに強く感じた。何を言い出すかと思ったら、マリアがあたかも本性を隠している悪党のように言ってくるとは。
「ふざけないで!お前にマリアさんの何がわかるの!」
「わかるさ、僕は人の心を見ることができるんだから…ね、真宮寺さくらお姉さん」
「!」
名乗ってもないのに、自分のフルネームを言い当ててきた刹那に、さくらは絶句する。まさか本当に他者の心を読めるのか。アイリスがそれを可能としているように。
「へぇ、これは驚いた。僕以外にも人の心が読める子がいるんだ」
さくらはしまった、と己の軽率さを呪った。こいつはほんのわずかに浮かんだ思考さえも読み取れるのだ。これ以上心を読まれないように心を閉ざしておかなければ。下手をしたら、マリア以外にもこの刹那という男は薄汚い手を伸ばしてくる。
「でもまずはマリアお姉さんの心をズタズタにしてやろっかな。君を…じっくり可愛がった姿を見せたらどんな反応するかなぁ?例えば…こんな感じに!」
刹那が目を見開いた瞬間だった。刹那自身が触れたわけでも拳を繰り出したわけでもないのに、さくらの体に殴られたような激痛が走った。
「がは…!?」
「それとこんな感じかなぁ!!」
「っぐぅ…!!!」
二発目もまた目に見えない一撃。さくらの華奢な体を、まるで木の枝を踏み砕くように刹那は痛めつけていく。
「いいねぇ、その悲鳴。もっと僕を楽しませてよ!!」
「あああああああああああああああ!!!!」
「………!…」
その轟く叫びが聞こえたのか、自室にいた大神が目を覚ました。
「ここは俺の…」
目覚めたばかりの意識が覚醒していった、ちょうどそのときだった。マリアが再び一人で、大神の部屋を訪ねてきた。
「少尉…気が付いたのですか!?」
「マリア…!っぐ!?」
大神はマリアに先日の戦闘のことを尋ねようと体を起こすが、強い痛みが走る。起きあがって苦痛に悶えた彼を見て、マリアはすぐに駆け寄った。
(そうだ、俺は確か…!)
その痛みで、意識を失う直前までの記憶がよみがえった。月組の隊長を庇ったことで今のダメージを負ったものだ。
「まだ体が痛みますか?」
「あ、ああ…」
「あれほどの重症だったんです。今はあまり体を動かさないでください」
「そ、そうだ…!あの隊員は…!?」
ベッドに背中を預けさせられた大神は、マリアから、先日の戦闘で刹那に人質にされてしまった月組の隊長のことを改めて尋ねた。
「彼なら無事に救助できました。怪我もほとんどなく、今は任務に復帰、黒之巣会の動向を探っています」
「そうか…よかった」
彼が無事だと聞いて、ほっと一安心する大神。しかし、マリアは目を吊り上げ、一息ついた大神に対する怒りを募らせ…冷静な彼女のものとは思えないほどに声を上げた。
「何がよかったというんですか!!!」
「ま、マリア?」
マリアから怒鳴られるとは思わなかった大神は驚いて目を見開いた。
「大神少尉……なぜ、あの時いきなり飛び出したのですか」
「え?それは、月組の隊長が…」
人質にされた月組隊長が危うく刹那に殺されかけたから、それを防ぐべく我が身を犠牲に飛び出した。それが正しいとかじゃなく、そうしなければと本能的に体が動いたからだが、マリアは大神のその判断を糺弾した。
「今回の戦闘の負傷は少尉の責任です。あなたの我が身を省みない行動で負傷したために敵を取り逃がし、多くの市民の命を危険に晒したのです!たった一人のために命を懸けるなどナンセンスです!」
その言い分は、大神の逆鱗に触れた。月組隊長の命を軽く見ているような言い方が許せなかった。
「マリア、口が過ぎるぞ!だったら君は、同じ帝劇の仲間を見捨ててしまえばよかったというのか!?」
「その帝劇の仲間が…さくらが敵の手に捕まったと言ってもですか!!」
「え………」
さくらがさらわれたと聞いて、大神は一瞬自分の耳を疑った。構わずマリアは彼に対する
「少尉があの時冷静に、私に遠距離からの攻撃命令を下せば、もっとうまく対処が可能でした。さくらだって敵の手に堕ちずに済んだはずです。月組隊長も自分のために帝都が危機に陥るくらいなら自らの死を望むはずだ。
それなのにあなたは後先考えずに飛び出して負傷し、結果さくらの誘拐を許してしまった!これで隊長としての責任を果たしたと言えますか!?」
「そ、それは…」
言い返せなくなった。さくらは大切な花組の仲間だ。狡猾な黒之巣会のことだ。また人質にとってこちらの動きを鈍らせてくるのは目に見えてくる。
「…マリア、確かに俺は判断を誤ったかもしれない。
君のその意見は確かに軍人としては正しい。
だが…」
大神は月組隊長を助けるために飛び出したことを、間違いだとは思いたくなかった。言い訳とかではない。
「俺は仲間や守るべき人々の命を踏み台にしてまで勝利をつかみたくない!必ずみんなで生き延びて勝つ、それが俺の理想であり、信念だ!これは誰であろうとも譲るわけにいかない!」
譲れない己の信念をハッキリと断言した大神。さくらや他の隊員たちが聞いていたら、その理想高き精神を称えていたかもしれない。だが、マリアにはあまりにも愚かに受け止められていた。
「死にかけた身でありながら…そんな甘い理想を掲げ、非情になる覚悟もないのですね」
が、それだけではなったのか、一瞬だめマリアの表情が悲しげなものに変わる。
「…その理想のために、少尉が死んでしまったら、あの時と同じなんです」
「あの時?」
なんのことかと、一瞬見えた表情の変化のことも含めて尋ねようとしたが、すぐにマリアの冷たい視線が突き刺さった。
そして、抉るような言葉の形の弾丸を、彼の胸に叩き込んだ。
「よくわかりました、あなたのような短絡的な思考の夢想家が隊長では、我々隊員の命がいくつあっても足りません。
大神少尉…あなたは、
隊長失格です!!」
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