八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百六十一話 打ち上げの時にその八
「死んでいたよ」
「二人共だね」
「長生きは出来なかっただろうね」
「特に沖田さんは」
「僅か二十四歳で死んだけれど」
本当に若くしてだった。
「無名の道場の門下生として」
「死んでいたんだ」
「歴史には残ってなかったよ」
「時代の犠牲者でもだね」
「そうだったよ、けれど幸せな一生を送れた可能性もあるよ」
沖田さんにしても芹沢さんにしてもだ。
「切った張ったじゃなくてね」
「そうした人生送りより平穏な方がいいね」
「そうだよね」
「特にお吉さんは」
アタクルク君は飲みながら僕に難しい顔で話した。
「可哀想だね」
「普通の人だったよ」
美人さんだったらしいけれどだ、お吉さんのものだという写真があるけれどそれを見ても美人だと思う。
「あくまでね」
「普通の」
「江戸時代のね」
まさにこの時代のだ。
「普通の女の人だったからね」
「若しハリスさん達の接待をしなかったら」
「もうね」
それだけでだった、本当に。
「幸せだったかも知れないよ」
「お吉さんって物凄い差別されたんだったね」
「酷かったよ、石投げられたりね」
お酒を飲んで街を歩いていると子供達がそうしてきたという。
「あれこれ言われて」
「それに耐えられなくなって」
「そして」
それでだった。
「自殺したんだ」
「川かお池に入って」
「入水自殺したんだ」
「自殺はよくないけれど」
ムスリムのアタクルク君は特に思うことだった。
「それでもね」
「もうそうするしかなかったんだ」
死んで人生を終わらせるしかだ。
「誰も救えなかったっていうか」
「救いの手があっても」
「それを掴めなくなっていたから」
そうした人も世の中にいる、若しくは手を差し伸べてもそれに気付かない人もいる。
「もうね」
「死ぬしかなくなっていたんだ」
「お酒に溺れて」
酷い迫害を受けてだ。
「辛い一生を送ってね」
「もう生きていられなくなったんだ」
「そうだよ、ただ同情している人はいてくれて」
その人でも救えなかったけれどだ。
「今はちゃんとお墓もあるよ」
「せめてもの救いかな」
「あるお寺の住職さんがずっと気にかけていたんだ」
お吉さんのことをだ。
「だからね」
「死んだ時も」
「その時も迫害されたけれど」
葬るなとか言う人がいたのだ、その時も。
「けれどね」
「心ある人もいたんだね」
「そうだったんだ」
あとお吉さんがハリス領事達と一緒にいた時に共にこの人達の接待をした女の人だ、名前は何といっただろうか。
「そうして気にかけていた人もいたけれど」
「その人達の手や声はだね」
「お吉さんは掴めなかったし聞いてもね」
「その声の方に行けなかったんだね」
「手を差し伸べても」
そして声を送ってもだ。
「救えない人はいるからね」
「お吉さんみたいに」
「その手や声に気付かなかったり」
この場合もある。
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