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戦国異伝供書

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第七十七話 諱その七

「負けると」
「わしは見ておったが」
「桶狭間の様に奇襲を仕掛け」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「鮮やかに勝つとはな」
「それはですな」
「先程言った通りじゃ」
「夢にもですな」
「思っていなかった、鮮やか過ぎる」
 信長の勝ち方はというのだ。
「あれが織田殿か」
「そうかと」
「凄い御仁じゃな」
「はい、あの戦で」
 桶狭間のそれでというのだ。
「天下のあの御仁を見る目が変わりましたな」
「一気にな」
「それで伊勢や志摩の国人達も」
 その彼等もというのだ。
「織田家に一気にです」
「なびいてきておるか」
「はい」
 まさにというのだ。
「そうなっておりまする」
「そうじゃな」
「尾張に加え」
「伊勢、志摩もとなると」
「合わせて百四十万石になり」
「天下でも相当な勢力になるな」
 久政もこう言った。
「して美濃もか」
「そうなるかと」
「美濃を治める斎藤家の居城稲葉山城は天下の堅城であるが」
「我等が今いる小谷城や六角家の観音寺城の様な」
「非常に守りの堅い山城じゃな」
「ですがその城も」 
 天下の堅城もというのだ。
「やはり」
「織田殿は攻め落とされるか」
「そう見ております、ですから」
「今のうちに織田家とか」
「それがしは思いまして」
「決めたのじゃな」
「左様であります」
「わしは所詮つなぎか」
 久政は長政と話していき今己の器を確信した、そうしてそのうえで我が子に対して確かな声で言った。
「お主という大器の」
「父上、それは」
「よい、ではな」
「それではですか」
「お主は自由に動け、わしはここでな」 
 この小谷城でというのだ。
「静かに生きよう」
「そうされてですか」
「お主を見る、では紺の色もな」 
 浅井家の色であるこの色もというのだ。
「天下に残すのじゃ」
「そうさせて頂きます」
「ではな」
 こうしてだった。
「宜しく頼むぞ」
「それでは」
 長政は確かな声で応えた、そしてだった。
 織田家と盟約を確かなものにしその政に励んでいった、そうしているうちに織田家から市が来たが彼女を見てだった。
 長政は思わず息を飲みその後で家臣達に言った。
「噂には聞いていたが」
「噂より遥かにですな」
「お美しい方ですな」
「この世のものとも思えぬ」
「それまでですな」
「そこまでの方ですな」
「全くじゃ、あれだけの美女が来るとは」
 己の妻にとだ、長政はまた言った。 
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