剣を舞う男の娘
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
6話
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヘルトサイド
どうしてこうなった!?
俺とヴェル兄はアルテリオさんと一緒に馬車に乗せられて王宮に向かってる。
「しかし、お忙しい身の陛下に俺如き小物が良いんですかね?」
「ヴェル兄・・・ちょっと違う」
「え?」
俺がヴェル兄が思ってることを諭そうとしたら、俺たちと随伴し、王城まで案内してくれている豪華な鎧を着た騎士が、今回の謁見についての事情を説明し始める。
「ヴェンデリン殿は伝説の古代竜を討伐し、ヘルト殿は貴重な国家資産である魔導飛行船を、搭乗していた乗客ごと守りました。あの船の乗客には、大身の貴族や商人の方も多いですからね。最後に、その古代竜の骨と巨大な魔石の入手に成功したのですから。もはや、貴殿たちは『英雄』です!」
英雄か・・・俺ってそんな柄じゃないけどな。
「それと陛下は、ヴェンデリン殿に頼みたい事があるそうです」
ヴェル兄に頼みごと・・・まあ、魔石と骨の買い取りだろうな。俺はそう思ってると俺たちは王城に到着した。あと、王城の豪華さに目を疑ったのは内緒だ。
あと、王城の入場の際、ワーレンという人のおかげか楽に入れた。
アルテリオさんの話だと、彼は近衛隊中隊長でブランタークさんの弟子らしい。
あの人って顔が広いんだな。
何でも、彼からは魔力の制御や効率の良い使用法を学んだそうだ。
しかも、若い頃に師匠に会ってるそうだ。
「そういえば、ヘルト殿は中々の剣を扱える立ち振る舞いをしますね」
ワーレンさんは俺を視て、剣士だと一目で見抜いた。やっぱり、中隊長だけのことはある。彼の質問にアルテリオさんが
「そりゃそうさ。ヘルトくんは剣筋も魔力量もアーヴリルを超えてるんだからな。あと、アーヴリル・シェルマイスの弟子らしい」
「そうなのですか」
ワーレンさん、驚いたように聞いてくるから俺は一瞬、たじろぐも
「はい。俺はアーヴリルの弟子です」
「なるほど・・・それなら、陛下が直接お会いしたいと申されたわけです」
と歩いてると遂に目的地である豪華な扉の前へと到着する。この先が、謁見の間のようだな。
「陛下は気さくなお方なので、最低限の礼儀さえ守っていれば問題はありませんよ」
「なんか、緊張するだけ無駄に思えた」
さてと、俺の待遇はヴェル兄の家臣になるとしよう。その方が楽ではないが安心な気がする。
アルテリオさんがなにか言ってる間に目の前の豪華な扉が開き、視界の先には赤い絨毯が敷かれた床や、一段高い玉座に座る男性の姿が確認できる。そしてその両側には、十数名の警備の騎士達や、地位の高そうな貴族の姿も数名確認できていた。
「古代竜を討伐せし、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター殿とヘルト・シュバルツ・フォン・シェルマイス殿。そして、ブランターク・リングスタット殿の代理人。アルテリオ・マーシェン殿の御成り!」
昔に視た映画のワンシーンだと思わず、叫びたくなった。
俺たちはワーレンさんの誘導で玉座から3mほどの位置にまで接近する。
するとワーレンさんは横の騎士たちが立っている位置へと戻ってしまい、あとは俺とヴェル兄とアルテリオさんだけになってしまった。
俺とアルテリオさんはすぐに頭を下げ、臣下の礼をする。それに続いて、ヴェル兄も臣下の礼をした。
「突然の呼び出しで大変であったであろう。頭を上げるが良い」
陛下にそう言われたので頭を上げると、そこには40歳前後に見える高貴そうな顔をした美中年の男性が笑みを浮かべていた。
「余がヘルムート王国、国王ヘルムート37世である」
「ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターであります」
「ヘルト・シュバルツ・フォン・シェルマイスと言います」
「ふむ・・・其方らは齢いくつだ?」
陛下の質問に俺が応えた。
「はい。俺とヴェル兄は双子であるため、12になります」
「本当に若いの。魔法の才能は年齢に無関係とはいえ・・・1人は『飛翔』、『魔法障壁』、『聖光』。3つの魔法を同時に展開したとか・・・もう1人は『聖障壁』と障壁型の攻撃魔法を展開し、剣の才能を秀でているとは・・・そちらは素晴らしい才能の持ち主のようだな」
「左様ですな、陛下」
そこで、陛下の言葉に賛同する人物がいたが、その70歳近い男性は豪華に飾り付けられた司祭服を着ていた。
見たところ、教会関係者だな。
「そちもそう思うかホーエンハイム枢機卿」
「はい。しかも、これほどの聖光と聖障壁を発動させられる魔法使いはおりませぬ」
「ふむ。ワーレン。そちはヘルトの剣筋はどう見る?」
「はい。実際、手合わせをしていませんが、もし、相手をすれば、私が負けるかもしれません」
「ふむ。なるほど。しかも、知略の才があるとのこと。エドガー軍務卿はどう思われる?」
今度は白髪か銀髪で髭を生やした50歳に近い巌のような男性が
「はっ。見たところ、軍を率いるのには経験が必要ですが、彼なら、万人の軍を率いられる才覚は持っているかと」
「そうか」
陛下は閣僚たちの言葉を聞いて、俺とヴェル兄のことを吟味してるようだけど、俺からしたら、エドガー軍務卿。巌だが、見る眼があるぜ。俺の才覚と資質を見抜いている。
すると、今度はホーエンハイム枢機卿が
「是非とも『本洗礼』を受けるべきかと」
『本洗礼』か・・・無神論だけど、ここは・・・
「ヴェル兄」(-。-) ボソッ
「ヘルト」(-。-) ボソッ
「ここは受けよう」(-。-) ボソッ
「やはり、目的が分かってたか」(-。-) ボソッ
そりゃ、わかるよ。『囲い込み』だってことは、ついでに『寄付金』もな。
俺の意見もあり、ヴェル兄は
「では、王都滞在中に伺います」
「自分も同じく」
「ヴェンデリン殿もヘルト殿も、敬虔な神の子であらせられたか」
ほっとしてるところで、陛下が
「それとな。余からも、そなたに頼みたい事があっての」
頼みごとか・・・大方、魔石と竜の骨だろうな。
ヴェル兄が聞き返すと
「今回、其方らが取得した古代竜の骨と魔石を売って欲しいのだよ」
やはり、こうなったか。俺の予想通りの展開になった。
「実は、王都の郊外に、古代魔法文明時代に造られた造船所跡の遺跡があっての。未だに動かせぬ、全長400m超えの超巨大魔導飛行船が眠っているのだ」
それはデカいな。それの収益もバカにならない。願ったり叶ったりだな。
「つまり、それを動かすためにも魔石と骨が必要なんですね」
俺の返答に
「うむ、その通りだ。現代においては小さな魔晶石を融合する魔導技術が再現不可能ゆえ、此度得られたような大きな魔石から魔晶石に加工するほかなくてな。それに、古代竜の骨を加工して、それを足りない部品や装甲として利用すれば、巨大魔道飛行船は安全に稼動するのだ。どうだ? 売ってくれるか?」
そりゃ、もちろん。
「ヴェル兄」
「はい、それは勿論。喜んで提供させていただきます」
ヴェル兄は魔法袋から魔石を取りだし、陛下らに見せる。彼らはあまりの大きさに驚きを隠せない。
「そうか、それは良かった。それでは、白金貨1500枚で骨と魔石を買おう」
「陛下! いくら何でも出し過ぎです!」
陛下の隣にいる、重臣と思われる初老の貴族が買取り金額に異議を唱える。どうやら彼は、王国の財務を担当している人物らしい。だけど、陛下は
「のう、アルテリオよ。それぐらいが相場であろう」
アルテリオさんに話を振り、相場を尋ねる。まあ、俺からしても、それぐらいが相場だと判断した。
「はい、仰せの通りで、つきましては骨に関しては超希少性ゆえ白金貨300枚――合計1500枚が妥当かと」
「予算の方が2500枚と聞いている。材料費に1500枚。その他の経費に1000枚以上掛かるわけではあるまい」
「し・・・しかし、ここで節約せねば・・・」
「もし、この者が魔石と骨をオークションにかけたとする。アルテリオ、どうなると思う?」
再び、アルテリオさんに話を振る。
「はっ、おそらく、2500枚まで競るかと。それに手数料も5~10%掛かりますゆえ・・・」
「うむ、しかも、オークションに掛けても最終的に王国が買い取るのだからな」
確かにこれだけの大きさを誰がどう処理すれば良いんだ。
それからも次々と王様が論破していき、結局の所、予算が700枚も節約できるからという理由であっという間に収まった。
ああいった王様は長生きするし。国が良くなるからな。
「――それから、もう一つ。余はそなたに褒美と名誉も与えなければならぬ」
褒美か・・・なんとなく、予想が付く。俺たちはこの国を守ったんだからな。
「其方らは『ドラゴンスレイヤー』なのだ。それに相応しい名誉を与えなければなるまい」
陛下自ら玉座から立ち上がり、同時に、一人の文官が何かを載せたお盆を持って後ろから現れる。
「アンデッド化した古代竜を討ち、魔導飛行船を守った功績により、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターとヘルト・シュバルツ・フォン・シェルマイスに双竜勲章を与える」
謁見の場からいきなり、叙勲の場と化し、俺とヴェル兄は陛下から双子の竜をあしらった金とエメラルドで出来た勲章を左胸に付けて貰う。
すると、それと同時に周囲から大きな拍手が起こっていた。
かなりの偉い勲章のようだな。
「続いて、我、ヘルムート王国国王ヘルムート37世は、汝、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターに第6位準男爵位を授ける事とする。さあ、バウマイスター卿よ」
「ヴェル兄」(-。-) ボソッ
俺とアルテリオさんから言われて、ハッとなり、
「我が剣は、陛下のため、王国のため、民のために振るわれる」
ヴェル兄はしっかりと宣誓した。だけど、俺はどうなるんだ?
「続いて、我、ヘルムート王国国王ヘルムート37世は、汝、ヘルト・シュバルツ・フォン・シェルマイスにバウマイスター卿の筆頭家臣にさせることを命じる」
「仰せのままに」
俺は臣下の礼をして、宣誓した。
それと同時に周囲から大きな拍手が起こった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
感想と評価のほどをお願いします。
ページ上へ戻る