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怖がる犬

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第一章

                怖がる犬
 ポポと名付けた。吉岡夫妻は痩せて毛並みの悪い白い毛の雌の犬を引き取ってまずは彼女の名前をそうした。
 だがそのポポを見て夫の豊は言った。
「やっぱりな」
「ええ、お話は聞いていたけれど」
 妻の由美は夫に応えた、二人共三十代後半で子供は女の子が一人いる。中年太りを迎えた夫は顔にも肉がついてきていて一七八の体格もあって異様に大きく見えるが細い目と小さな唇にセンターに分けている黒髪が穏やかな人柄を浮かび上がらせている。対する由美は黒髪をポニーテールにしていて明るくはっきりとした顔立ちに大きく二重のぱっちりとした目は睫毛が長く細い眉の形もいい。すらりとしたスタイルは三十代後半だがその若々しい顔と同じく二十代前半に見える。その二人が犬を見て話をしていた。
「けれどね」
「これはな」
「私達をかなり怖がってるわね」
「酷いところにいたらしいからな」
 夫は自分達を怯え用意した犬小屋にも入らずガタガタ震えているポポを見てそのうえで妻に話した。
「子犬工場なんてな」
「あれよね、悪質なブリーダーがね」
「もう犬に子供産ませてな」
「それでその子供を売って儲ける」
「そうした連中がいてな」
「酷い環境で育てていて」
「そうしてな」 
 夫は妻にさらに話した。
「もう犬への暴力もな」
「いつもなのね」
「殴る、蹴る、罵るでな」
「それで子供を産めなくなったら」
「捨ててな」
「そんな酷い場所で」
 妻は暗い顔になって述べた。
「酷い人達がいるのね」
「ああ、それでこの子もな」
「子犬工場にいたって」
「保護した団体の人達が言ってたな」
「そうだったわね」
「動物虐待だから」
 夫はこのことを強く指摘した。
「この子がいた子犬工場は摘発されて」
「ブリーダーの人達は逮捕されたのね」
「他にも色々悪いことしていたらしいからな」
「本当にとんでもない人達だったのね」
「それで警察に捕まって」
「ワンちゃん達は皆保護されて」
「こうして引き取られていってるけれど」
 それでもとだ、夫はポポを見つつ妻に話した。
「ずっと酷い目に遭ってきたから」
「人を怖がっているのね」
「産まれてからずっと酷い場所にいて酷い人達に酷いことをされてきたんだ」
「そうした子だから」
「こうしてな」
「怯えてるのね」
「幸せなんか知らないな」
 夫はこのことを確信して言った。
「本当に」
「そうね、じゃあ」
「僕達がこの子に幸せを教えてあげよう」
「そうね、愛美にも言って」
「この子と接していこう」
 こう言ってだった、吉岡夫婦は娘の愛美にも犬のことを話して家族で彼女を飼って接していくことにした。
 餌をいつもあげ常に優しい声をかけて散歩にも連れていった、だがそれでもポポは。
 家族が近寄るといつもビクッと身体の動きを止めて犬小屋の中に入る。そうして怯えた目で彼等を見るのだった。 
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