黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
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第二十二章
「貴方がどれだけ頑丈でも」
「普通の竜巻には耐えられても」
「竜巻の中に即効性の猛毒が入っていればどうかしら」
「生憎私は毒は使わず」
それでとだ、人形師はその三つの猛毒が入っている竜巻達をどうしてかわそうかと考えつつ紗耶香に話した。
「それへの耐性もです」
「ないわね」
「ですが糸も束になれば壁になります」
こう言ってだ、人形師は。
前から来る毒の竜巻達に対して両手から出す赤い糸を広い範囲にこれまでにない量で出してそれを壁にした、しかもその密度はかなりのもので。
三つの毒の竜巻達を全て防ぎ消し去った、そのうえで言った。
「糸も集めれば壁となる、壁ならば竜巻も防げます」
「そうね、いとも集まれば鉄以上に強くなるわ」
「まして私の糸は炎も氷も雷も消し捉えられる」
そこまでのものだからだというのだ。
「ならば壁とすれば」
「天敵とする竜巻も凌げるわね」
「闘いは知恵でもあります、その知恵をどう使うかが」
「勝ち方ね、では」
紗耶香は言った、人形師は彼女の声を壁の向こうで聞いていてそうして彼女の姿を見ていなかった。
その紗耶香がだ、こう言った。
「その意味でも私が勝つわ」
「ほう。ではどうして」
「こうしてよ」
ここでだ、紗耶香は。
自分の前に青い渦を出してその中に入った、そうして人形師が出した糸の壁が竜巻達を相殺しつつもその風と毒の力で消え去るその瞬間に。
人形師のすぐ後ろに出た、その時紗耶香の右手には紅蓮に燃え盛る剣があり。
その剣で人形師の背中から胸まで貫いた、剣は彼の心臓を完全に貫いていた。しかもただ貫いただけでなく。
燃やしてもいた、紗耶香はその一撃を浴びせたうえで人形師に問うた。
「これで終わりかしら」
「心臓を貫かれ焼かれています」
人形師は口から赤い血を噴き出しつつ答えた。
「それではです」
「私の勝利を認めるわね」
「私の敗北を」
人形師は自分の立場から答えた。
「そうさせて頂きます」
「潔いわね」
「心臓を貫かれたのです」
即ち脳と並ぶ究極の急所をというのだ。
「魔人といえどそこが命の源であることは同じ」
「そうね、ならね」
「敗北を認めるしかありません」
まさにというのだ。
「ですから」
「それではなのね」
「私はこれで消えます、そして宝石達も」
「約束通り」
「もう私は消えますので」
だからだというのだ。
「彼女達も解放します」
「そうするのね、ならいいわ」
「魔人は魔性でありつつ誇りと美学を持つ者」
「そうね、それが魔人ね」
紗耶香は自分が知っている白き魔人のことを思い出しつつ応えた、度々出会いそうして闘いを演じている彼女のことを。
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