黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
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第十三章
すると男はジントニックを飲みつつ紗耶香に話した。
「彼のことはもうこちらにも情報がいっています」
「怪しい素性ではないわね」
「桑原慎吾、職業は原宿の雑貨屋の店長です」
「そうなの」
「今日はお店自体が休みでしたが毎日真面目で店で働いていて」
「それでなのね」
「お店はそれなりに安定していて店員達からは面倒見がよく優しい店長とのことです」
そうした男であるとだ、彼はホーセス=ネックを飲む紗耶香に答えた。
「確かに秋葉原のあのお店にはよく行っていますが」
「お客さんとしてもなのね」
「その誘い以外は」
「これといっておかしなところのない」
「至って良心的な店員です、ですが」
「今回の事件に関わりがあったのね」
「はい、そしてこのことは」
「ええ、彼の頭から直接聞いたわ」
彼の脳裏に手をやったその時にというのだ。
「貴方がお話したこともね」
「そうですね、彼はです」
「操られていただけ、無実ね」
紗耶香は飲みつつ結論を述べた。
「全くの」
「こうした事件で操られているのなら」
「罪には問われないわね」
「人形、道具の様なものですから」
それ故にとだ、刑事は答えた。
「ですから」
「そうね、問題となるのはね」
「操っていた御仁ですが」
「それは全くわからないわ」
紗耶香は今度はダイリキ=カクテルを飲みつつ言った。
「残念ながらね」
「それはまことに」
「流石に尻尾を掴ませる様なことはしていないわ」
相手、今回の事件の黒幕と思われるその者もというのだ。
「操っている人に糸はかけていても」
「心の中にある自分への記憶は」
「例えそれがあったとしてもね」
「消して、ですね」
「こちらが調べてもわからない様にしているわ」
そうしているというのだ。
「だからまだね」
「調べていかれますか」
「原宿でね、しかしね」
紗耶香はここで今飲んでいるカクテルを飲み干した、そうして今度はアラスカ=カクテルを注文しそのうえで警視庁の男に話した。
「やっぱり私に新宿はね」
「合わないですか」
「何度言っても場違いに思えるわ」
微笑みつつこう話した。
「本当にね」
「貴女は地元の方ですね」
「ええ、それで今もここに住んでいるけれど」
「それでもですか」
「合う場所と合わない場所があって」
それでというのだ。
「原宿はね」
「合わないですか」
「お店がある渋谷もね」
こちらもというのだ。
「どうもね」
「合わないですか」
「お店はともかく私自身はね」
渋谷、原宿と同じく若者が多いこの場所はというのだ。
「合わないわ、ただ道玄坂の上は好きよ」
「ホテルが多くありますね」
「そこで女の子といつも行くわ」
紗耶香はそちらの場所については微笑んで話した。
「だからあちらは場違いともね」
「思われないですね」
「そうよ、あと新宿や銀座も場違いとは思わないわ」
こうした場所もというのだ。
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