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ペルソナ3 追憶の少年

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
後編です。
基本的に少年漫画が大好きなんですが、天田君を主役にしてみて、「やっぱりいいよなー少年漫画」と再認識しました。自分で書いていながら天田君への愛着が増した気がします。
 

 
それは久しぶりに味わう家庭的な雰囲気だった。
カレーもすごくおいしくて、勧められるままにお代わりまでしてしまった。
誰かと食べる食事はこんなに楽しく幸せなものだったのか、と天田は密かに感動していた。
満腹になったせいか、夕食後には瞼が重くなってきた。考えて見れば昨夜はタルタロス探索で遅くなり、寝たのは2時過ぎだったのだ。天田の年齢にしてはかなり遅い時間だ。
「眠そうね、天田君。」
母親が気づいて声をかけてきた。
「ああ、ごめんなさい。おなか一杯になったので・・・つい。」
「いっぱい食べてもらってうれしいわ。」
「本当においしかったです。ごちそうさまでした。」
ちょうどそこに、この家の主である中年夫婦が返ってきた。
おじさんが奥さんを病院に連れて行き、検査を受けてきたらしい。
おじさんは、堂島親子の話を聞くと「そうかい。よく来たね。」と天田に屈託ない笑顔を見せた。
しかしおばさんの方は、具合が悪いと聞いていた通り、頭を下げて挨拶をしたものの何も言わず、表情も虚ろだった。その魂の抜けたような様子に、天田はそこはかとない不安を感じた。
おばさんを部屋で寝かせた後、おじさんが菜々子の母親に病院で受けた検査の報告を始めた。いろいろ調べたが体のどこかに異常があるわけではなく原因がよくわからない。精神的なものかもしれないので今度は精神科に行く、といった話が聞こえてきた。
「おばちゃんね、いつもわらっていてすごくおしゃべりなんだよ。・・・でもいまはびょうきだから、ぜんぜんしゃべらないの。」
菜々子が声を潜めて心配そうに言った。
おばさんの様子は、天田に影人間を連想させた。最近、巷でよく見かけるようになってきた無気力症の症状だ。
元気だった人が突然に意志力を失い、廃人のようになってしまうという謎の病。そうなると自力で生活することもできなくなる。その病の原因が何なのか、何故 突然 爆発的に流行し始めたのか。いろいろ推測されてはいるが、現時点では全く解明されていない。
しかし天田は、その原因がシャドウとタルタロスに関係していることを知っていた。
「菜々子ちゃん、おばさんのこと好き?」
「うん。・・・おばちゃん、すごくおもしろいんだよ。『なんでや~』とか『ほんまに~』とか、おっきなこえでいうの。」
菜々子が関西弁風の物まねをして笑った。
「それにね、すごくやさしいの・・・。はやくなおるといいなあ。」
少しうつむくとまた寂しそうに言った。
「そうだね。」
天田はそう応えながら、(できることなら、なんとかしてあげたいけど・・・)と思った。
その後しばらく菜々子の相手をしていたが、母親とおじさんの話の切れ目に「僕、そろそろ帰ります。」と声をかけた。
「あら、そうね・・・もう、こんな時間だし・・送っていくわ。」
気づいた母親が慌てて言う。
「大丈夫です。一人で帰れます。」
「だめよ、何かあったら大変・・・。」
そこまで言ったところで、母親がまたしてもいいことを思いついた、というような表情を浮かべた。それを見て天田は、今度は何事か、と思わず怯んだ。
「そうだ! 天田君、いっそのこと今日は泊っていかない?」
「ええっ? そんな・・・病気の人がいるときに悪いですよ。」
「菜々子の相手をしてもらえると助かるわ。私はおじさんの食事の準備もしなきゃいけないし・・・ね。そうしてくれない?」
母親にぐいぐい迫られて、天田は途方に暮れた。
(弱ったなあ・・・。)
菜々子の母親は思いのほか強引だった。そういえば、自分の母にもそんなところがあったな、と懐かしく思い出す。
寮の人達には、それなりに大人ぶったクールな応対をすることもできるのだが、この母によく似た人にはどうも強く出ることができない。それにまんざら悪い気分でもない。こうして強く出られると、なんだか甘えてしまいたいような、そんな気持ちになってしまう。
結局、学園の理事長であり、特別課外活動部の顧問でもある幾月に電話して、外泊することを伝えることになった。菜々子の母親も電話に出て丁寧に挨拶をした。
「天田君、事情はわかったよ。寮の方は、桐条君からみんなに伝えてもらうから。」
幾月はいつものように飄々とした調子で天田に言った。
「すみません。夜の探索の方も今日はお休みさせてください。」
「そんなこと心配しなくて大丈夫だから。今日はゆっくりしてらっしゃい。」
幾月との電話を終えてやれやれと思っていると、今度は「お風呂に入ってらっしゃい。菜々子も一緒に入れてもらえる?」と声をかけられた。
それを聞いて菜々子が嬉しそうに飛んでくる。
「おにいちゃんとおふろ?」
そして天田の返事も待たずに、服を脱ぎだした。
二人で湯船につかって一緒に歌を歌いながら、(なんでこうなっちゃったかな?)と天田は首を傾げた。

異様なうなり声が響き、目を覚ました。
暗闇の中で、一瞬、自分がどこにいるかわからなかったが、やがて菜々子の親戚の家に泊まったのだということを思い出した。
風呂から出た後、和室に敷いた布団に寝そべって菜々子に絵本を読んであげているうちに、一緒に寝落ちてしまったらしい。
夏だから風邪をひくこともないと思ったのか、タオルケットだけが体にかけられていた。
(それにしても、今の声はなんだろう・・・)
不吉な予感がして上体を起こす。
手探りで枕もとのスタンドを探り当て、スイッチを入れてみたが明かりはつかなかった。
記憶を頼りに畳の上を這って進み、廊下との境のふすまを開ける。
廊下の小窓から入ってくる月あかりで、うっすらと周りの様子が見えた。
月の光が妙に明るい。周りが不思議な緑色にかすんで見える。
そこで気が付いた。スタンドがつかなかった理由・・・影時間に入っていたのだ。
実は1日は24時間ではない。深夜0時から1時間ほど、隠された時間が存在する。それが影時間だ。
影時間には全ての機械仕掛けが静止してしまう。
しかし当然のことながら、普通の人はこの影時間のことを知らない。
この時間を体感できるのは、天田のような特殊な適応者だけなのだ。

うおおあああぁ・・

またあのうめくような異様な声が聞こえた。
(影時間なのに声?・・・ 誰だ?)
天田がはっと緊張したとき、先ほど出てきた和室から「おにいちゃん?」という声が聞こえた。
「菜々子ちゃん!?」
驚いて室内に戻る。布団に駆け寄ると、そこに菜々子がすがりついてきた。
(菜々子ちゃん・・・影時間なのにどうして?)
天田は困惑したまま、菜々子をしっかりと抱きしめた。
「なあに、あのこえ。ななこ こわい。」
「大丈夫だよ。僕がついてるからね。」
おびえる菜々子の背を軽くたたきながら静かに語りかける。
「でんきつけて・・・」
「ごめん・・・停電みたいなんだ。」
「ていでん?・・・おかあさんは?」
部屋に駆け込むとき、隣に敷かれた布団に棺が横たわっているのが、闇の中にうっすらと見えた。
象徴化だ。
影時間は普通の人間には認識できない。そして影時間に動ける特殊な人間からは、普通の人間の姿はなぜか棺に見える。
菜々子の母親は今、棺に姿を変え、この時間には存在していない。
(菜々子ちゃんはペルソナ能力者なのか? 今はとりあえず、これ以上怯えさせないためにも、気づかれないようにしないと・・・)
天田は、頭をなでながら安心させるようにやさしい声をだした。
「菜々子ちゃん、よく聞いて。・・・僕はちょっと様子を見てくるよ。」
「ななこ もいく。」
ひしっとしがみついて来る。
「停電だからね。暗くて危ないよ。すぐに戻ってくるから、ちょっとだけ待っててくれる?」
「こわい・・・」
「布団にもぐっていたら大丈夫だよ。本当にすぐ戻ってくるからね。」
「ほんと?」
「様子を見てくるだけだから・・・ここでじっとしてて・・・ね。」
「・・・わかった。・・・まってる。」
菜々子が小さい声で言った。不安なのを必死にこらえているようだ。
「いい子だね。安心して。何があっても絶対に僕が守ってあげるから。」
「うん」
天田は菜々子をそっと引きはがして布団に寝かせると、もう一度頭をなでて部屋の外に出た。
振り返ると、菜々子は頭まで布団に潜り込んでいた。
その姿に後ろ髪が引かれたが、それでも事態を把握することが優先だ。
意を決すると、慎重に様子を伺いながら廊下を進んでみる。その先の玄関は、扉が大きく開け放たれていた。

おあああああ・・・

外からまたうめき声が聞こえてきた。何かが外にいる。
靴を履くと、思い切って外に出てみた。
影時間の月は平常時より大きくそして明るい。虫の音も聞こえず、あたりは不気味に静まり返っていた。
いやな予感がする。
気づけばいつの間にかびっしょりと汗をかいていた。天田は呼吸を整え、額の汗をぬぐった。
今は影時間。シャドウが現れてもおかしくはない。
こんなところでシャドウに暴れられたら、菜々子や母親も巻き込まれることになる。そう、彼の母が命を落とした時のように・・・。
それなのに、今は槍もなければ召喚器も持っていないのだ。
玄関横のこじんまりとした庭にある物干し台で、長さの調整できる物干し竿を見つけた。それを手ごろな長さに調節し、武器として持っていくことにした。
シャドウには通常の武器は効かない。そしてシャドウはペルソナ能力者にしか倒せない。ペルソナ能力者が手にすることで、武器に特別な力を与えられるのだと聞いている。
以前、特別課外活動部の仲間である岳羽ゆかりは、おもちゃの弓で敵に大きなダメージを与えたという。
(この物干し竿が強い武器だと信じることが大事だ。きっと僕は、これでもシャドウを倒せる。)
召喚器もそうだ。ペルソナを呼び出す触媒にすぎない。ペルソナを呼び出す力そのものは、ペルソナ能力者本人にある。
(いざとなればきっと、召喚器無しでもペルソナも呼び出せるはずだ。)
天田はさらに慎重に足を進め、門から外を窺った。
6メートルほどの幅の前面道路。その反対側の壁にもたれるように人が立っていた。
こちらを向いたままで、虚ろな表情を浮かべている。予感の通り・・・・それはこの家のおばさんだった。
影時間なのに象徴化していない。嫌な予感が強まった。
天田は警戒しながら、寝巻姿で立ち尽くす おばさんにゆっくりと近づいていく。半分ほど進んで「おばさん?」と呼びかけてみた。
反応が無い。
改めて「おばさん、家に帰ろう。」と声をかけてみる。
おばさんは口を開けたまま、ああああ・・・と小さく声を漏らしている。
そして、ふいに ひゅっ と音を立てて息を吸い込み沈黙した。
「おばさん?」
おばさんはガクリと地面に膝をつくと、両手で頭を抱えて「うああああ・・・」と声を張り上げた。
驚く天田の目の前で、その体がみるみる黒い粘液のようなものに覆われていく。
そして、仮面をつけた異形の怪物が、おばさんの体からずるりと抜け出すようにして現れた。
「シャドウ!」
天田が叫んで身構える。
2メートルほどの真っ黒な怪物は、天田に向けていきなりその腕を振り回してきた。
とっさに飛びのきつつ、物干し竿を前に突き出す。
タイミングよく敵にヒットし、シャドウがぐおっと声を上げて大きくのけぞった。
(いける。これでもダメージを与えられる。)
その反応に勇気を得て、持ち慣れない物干し竿を旋回させると、再度 相手にたたきつけた。
シャドウが激しくもがく。
(大きなダメージは無理でも、こうやって少しずつ削っていけば・・・)
更に追い打ちをかけようと、動きを止めずに物干し竿をうならせる。
しかし、次の攻撃はキィーンと音を立ててはじかれた。竿を持つ手が衝撃で痺れる。
カウンターで攻撃をくらい、かろうじて防いだものの反動で物干し竿を取り落としてしまった。
慌てて拾おうとしたが、物干し竿は真っ二つに折れ曲がっていた。
攻撃にペルソナ能力を加えることができても、物理的な強度が増すわけではない。
物干し竿は、シャドウの攻撃を受け止められるほど丈夫ではなかった。
「ちくしょう!」
天田が飛びのく。それを追ってシャドウが襲い掛かってくる。素早い。
かわそうとして足がもつれ、天田はその場に転倒した。
そこにシャドウがのしかかってきた。身をすくめる天田の目前で、シャドウが腕を振り上げる。
絶対絶命だ。
恐怖に息が詰まる。頭に死のイメージ浮かんだ。
その瞬間、天田の体の中から微光をまとったロボットのような姿が浮かび上がり、シャドウを押し返した。
「ネメシス!」
反射的に天田が叫ぶ。
天田のペルソナ『ネメシス』から眩い光線が走り、シャドウを弾き飛ばした。
攻撃を終えてペルソナが静かに姿を消す。
「やったか?」
天田は素早く起き上がると、少し距離を取って相手の様子を確認した。
シャドウが倒れている。しかし体を震わせながら起き上がろうともがいていた。
かなりのダメージはあるようだが、まだ倒せてはいない。
今が追撃のチャンスだ。
・・・しかし武器が無い。
「ペルソナ!」
天田は叫んだ。
・・・今度は何も起きない。
やはり、そうそう思い通りにはならない。
(落ち着け。集中しろ。)
自分に言い聞かせながら、もう一度ペルソナを呼ぶ。
「ネメシス!」
だが、やはりペルソナは現れない。
「くそっ、あと一息なのに・・・」
天田は焦りを感じた。
最後の望みとして、先ほどのような危機一髪の瞬間に、命の危険に応えてペルソナが発動する可能性にかけるしかない。
そのとき、小刻みにふるえるシャドウの体から、いきなり電撃が走った。
手詰まりで立ちすくんでいた天田は、攻撃をもろに食らって転倒した。
激しい衝撃で気が遠くなるのを、必死にこらえる。
全身がしびれて動けない。精神が集中できない。
焦る天田の瞳に、体を引きずるようにしてゆっくり迫ってくるシャドウの不吉な黒い巨体が映った。
(もう・・・駄目だ・・・)
天田は恐怖のあまり息もできずに身を震わせる。
脳裏に母と菜々子の母親の姿がダブって浮かぶ。
そして、ズルズルと目の前まで這い寄ってきた黒い巨体が、雄たけびとともに腕を振り上げた。

そのときだった。
高らかに遠吠えが響き渡った。
突如、目の前に三つ首の巨大な獣が出現し、シャドウの前に立ちふさがった。
地獄の番犬『ケルベロス』。
三つの口が大きく開かれると、その口からまばゆい業火が放たれ瞬く間にシャドウを焼き尽くす。
シャドウは黒い塵となって消滅し、・・・そしてあたりに静寂が戻った。
気づけばいつの間にか『ケルベロス』は静かに姿を消し、そして倒れたままの天田の顔を、暖かくて湿った舌が舐めてきた。
「コロマル・・・」
心配そうに覗き込んでくるその犬を見て、天田が茫然とつぶやく。
『ケルベロス』はコロマルのペルソナだ。
コロマルは犬でありながらペルソナを使う・・・特別課外活動部の大切な仲間なのだ。
今夜、天田が外泊することは特別課外活動部のメンバーには伝えられていた。しかしコロマルにはそれが理解できていなかった。夜になっても一向に戻らない天田を心配して、コロマルは寮を抜け出した。いつも天田と散歩するコースを必死に探し周り、ついに長鳴神社で天田のにおいを嗅ぎつけた。
そして天田がシャドウと戦闘に入り、正に危機一髪というところに駆けつけてきたのだった。
「お前・・・来てくれたんだ。ありがとう。」
天田はようやくしびれの取れてきた腕で、コロマルを抱きしめる。
嬉しくて涙が込み上げてきた。
コロマルも嬉しそうに「ワン!」と吼えた。

家に戻ると、菜々子は布団の中で象徴化して棺となっていた。結局、菜々子はペルソナ能力者というわけではなかったようだ。
普通の人でも、ごくまれに特殊な状況下で影時間に覚醒する例はある。かつて山岸風花の友人が、影時間に覚醒してタルタロスに駆けつけたこともあったと聞いている。
今回の場合、天田が隣で寝ていたことが、菜々子に何らかの影響を与えた可能性もある。
待つほどのこともなく影時間が終わり、菜々子の象徴化も解けた。菜々子はすやすやと寝息をたてていた。それを見て、天田はほっと胸をなでおろした。
その後、天田は菜々子の母親とおじさんを起こし、「夜中に目が覚めたら玄関が開けっぱなしになっていて、外に出て見たらおばさんが道路に倒れているのを見つけた。」と告げた。すぐに救急車が呼ばれて、おばさんが病院に運ばれる騒ぎとなった。
折れた物干し竿はどさくさにまぎれて近くの共同のゴミ置き場に移しておいた。
翌朝、目を覚ました菜々子は、浮かない顔で、天田に怖い夢を見たと言ってきた。しかし、庭にいるコロマルを見つけると大喜びで外に飛び出していき、そのまま夢のことはすっかり忘れてしまったようだった。

数日後のこと。
山岸風花に呼ばれて寮の1階ホールに降りていくと、堂島親子が菓子折りを持って挨拶に来ていた。これから八十稲葉に帰るのだという。
病院に運ばれたおばさんは、その後 目に見えて順調に回復し、無気力症の症状も治まって元気に退院したらしい。天田がシャドウを倒したことで、状態が急速に改善したようだ。
「天田君には本当にお世話になったわね。」
「いえ、そんな・・・僕の方こそお世話になって・・・ごはんもごちそうになったし・・・」
天田は赤くなってしどろもどろに答えた。
母親はその様子をしばらく微笑みながら見つめ、それから天田にそっと告げた。
「それじゃあ、そろそろ帰るわね。きっと、お父さんが菜々子に会いたくて首を長くしてるわ。」
それまでコロマルにじゃれついていた菜々子は、顔を上げると「ななこ もおとうさんにあいたい。」と言った。
「じゃあ、菜々子ちゃん、元気でね。」
天田が声をかけると、菜々子は急に赤くなってもじもじとし、それから足元まで近づいて内緒話をするように口に手を添えた。
天田がしゃがむと菜々子はその耳元で、大事な秘密を打ち明けるようにひそひそと言った。
「あまだくんが、ななこ のおにいちゃんだったらいいのに。」
天田はにっこり笑うと、今度は菜々子の耳元で小さく「僕も菜々子ちゃんみたいな妹がいたらいいな。」と言った。
菜々子は嬉しそうに笑って立ち上がると、今度は大きな声で「また、あそんでね。ばいばい」と言って手を振った。それからコロマルにも「ばいばい」と声をかけると、ドアに向かって歩きだした。
ドアの前で振り返って頭を下げる母親の姿に、天田はまた亡き母の面影を見た。
そしてその後ろ姿を見送りながら小さくつぶやいた。
「さよなら・・・お母さん。」 
 

 
後書き
今回はこれにて終了です。ありがとうございました。
基本的に短編漫画一本分くらいのつもりで話を作ってますので、戦闘はあっさり目です。
今回は普通のシャドウ1体が相手なので、逆に天田君を武器無しの状態に弱体化してバランスを取ってみましたが、いかがでしたでしょうか。
それにしても、勝手に菜々子ちゃんのお母さんを書いてしまいましたが、この後の出来事を思うと辛いですねー。
次回はゆかりを主人公にしたコメディーを考えています。
 
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