黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
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第十一章
「だからなのね」
「それはどうかな、けれど僕としては止めて欲しいね」
「嫌だと言えばどうかしら」
「僕としても考えがあるよ」
「そうなのね、じゃあ」
それならとだ、紗耶香は応えてだった。
これまで原宿の各地に向かわせていた分身達を呼び寄せた、そして彼女達を自分の影に入れて一つに戻ってだった。
そうしてだ、右手の平に黒い球を出して言った。
「無理して聞きたいわ」
「実力でって言うのかな」
「そうよ、魔術師の調べ方は知的かつ静かに行うものだけれど」
それでもとだ、紗耶香は右手の平に出した黒い球を左手の平にも出し両手を自分の前で交差させた構えを取り男に告げた。
「実力行使もあるわ」
「そう来るんだ」
「そうよ、いざという時はね」
「そのいざという時が今なのかな」
「そうなるかも知れないわ、ではいいかしら」
「僕は本来戦いは趣味じゃないけれどね」
男は右手を挙げて言った、その右手の動きもだった。
やはり操られている、そうしたものであり。
紗耶香はそこに違和感を感じた、だが今はその違和感を口に出さずそのうえでだった。まずは右手に出していた黒い球を男に向けて放った。すると。
男は上に跳んでかわした、その動きは素早かった。だがその動きも奇術師や忍者というよりかはだった。
やはり操られている感じだった、自分の意志で動いてはいない。紗耶香にはそうしたことがわかった。そして。
男は着地すると右手の五本の指のそれぞれ先から糸を出した、それは只の糸ではなく鋼の様になってだった。
紗耶香が姿を消してかわしたその地面に突き刺さった、そしてその糸は瞬く間に男の指に戻った。紗耶香はそれまで自分がいて糸達が付き刺さったその場所のすぐ左に姿を現してそのうえで男に言った。
「魔術、糸のものね」
「そうなのかな」
「魔術は色々あるけれど」
それでもとだ、沙耶香は男がゆっくりと路地裏から出て来るのを見つつ言った。少し離れた場所ではパフォーマンスが行われていて人の目はそちらに集中していて紗耶香達のことは賑やかな中の死角になっている。それで誰も観ていない。
「珍しいものね」
「そうなんだ」
「ええ、そして貴方は」
男についてもだ、紗耶香は言った。
「その心得はないわね」
「そう思うんだ」
「貴方自身にはね」
こう言うのだった。
「全くないわ」
「そうなのかな」
「そうよ、私にはわかるわ」
「どうしてわかるのかな」
「見ればわかるわ、私は只の魔術師ではないわ」
紗耶香は物陰から完全に出て来て自分と対峙する形になった男に対してさらに言った。
「この東京、世界のあらゆる怪異が集まる稀代の魔都でも随一の魔術師よ」
「だからなんだ」
「そう、その私が魔術でわからないことはないわ」
こう男に言うのだった。
「だからね」
「僕のこともわかるんだ」
「そうよ、貴方が何を言わなくてもね」
それでもというのだ。
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