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曇天に哭く修羅

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第一部
  灼熱

 
前書き
_〆(。。) 

 
《橘花 翔》の左ストレートが直撃した《立華紫闇》は彼の拳から放たれる白銀の魔晄に包まれてその姿が見えなくなった。

まるで爆発しない禍孔雀(かくじゃく)のように全身を余すこと無く走り抜け、細胞の隙間を縫うようにダメージを与えていく。


「それがどうしたああああッッ!!」


紫闇は気合いで我慢。

銀光を掻き割け前へ。

踏み込んだ先に居た翔の顔目掛けて魔晄外装を纏った右手を握り込み拳を作ると全力全開の禍孔雀をぶち込む。

フルパワーのマックス。

これ以上は出せないだろう力で。

予想外だったのか翔は踏ん張れず、観客席と舞台を隔てる結界の壁面まで吹っ飛び豪快な音を立て叩き付けられた。

しかし落下した彼は平然と着地。

けろりとした顔を向ける。


「どうと言うことは無いな」


吐かれた台詞に紫闇の激情が爆発。

怒りでは無く嬉喜(きき)恍惚(こうこつ)

両者は結界の中を躍動しながら退くこと無く激突し、異能によって停止した時間の中で打撃が衝突し続けた。

紫闇の衣服が破れ血に染まる。

それでも蹴り、殴り、打ち、突く。

動きが(にぶ)っていく。


(限界が近いな)


紫闇の様子から判断した翔は止めを刺す為に今日一番の速度を出すが読まれていた。

紫闇は音隼(おとはや)で魔晄の翼を出し回避。

空振りした翔は体勢を崩していない。

しかしチャンスと紫闇のあれが出る。

音隼/双式(ふたしき)と禍孔雀を同時に発動。

翔との間合いを詰めた。

三羽鳥を同時に使うことで【打心終天(だしんしゅうてん)】をカウンターという枠から解き放ち、あらゆる状況で使えるようにしたのが彼のオリジナルだ。


「黒鋼流異形ノ一・打心終天/(かい)


相手が自身に向かって来る推進力が利用できないなら足りない推進力を自分で生む。

そういうコンセプト。

体内へ衝撃を伝える為の掌打が通常の禍孔雀と比べて数十倍の威力で翔の胸に直撃。


「敗れるのはお前だ立華紫闇」


翔は攻撃を魔晄防壁で受け切る。

彼はわざと攻撃を空振りして隙を見せ、紫闇のことを誘い込んだようだ。

紫闇の攻撃を食らう前提で。

翔は打心終天/改と同等のカウンターを返すことで紫闇を弾丸のように吹き飛ばし、先程のお返しとばかりに結界の壁面へと激突させた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の外装に変化。

青から赤のラインに戻る。

会場の人間は理解できていない。

文字通り『瞬き』の間。

それだけで舞台上は破壊された後。

紫闇が倒れていた。

そんな光景。

《クリス・ネバーエンド》もそうだ。


「い、今のは、外装の力、よね?」

「いや。規格外はゴミタイプさ。紫闇の外装に異能は宿ってなんかない」


《黒鋼焔》が否定する。


「じゃあさっきのは何なのよ!?」


この問いに《江神全司(こうがみぜんじ)》が答えた。


「あの小僧は【神が参る者(イレギュラーワン)】と言ってな。【上位存在】と融合した人間よ。先刻の力は外装でなく立華紫闇という個人に宿ったもの。そうであろう黒鋼焔?」


焔が頷く隣でクリスが驚愕。


「本人には言わないでくれ。今はまだ秘密にしてる。明かす段階じゃない」


《永遠レイア》はクリスに注意しておく。


「しかしそれにしても」


焔は熱中している。

紫闇の想定以上の力に。

今回の橘花 翔は破格の相手すぎてどうにもならなかったので仕方ないだろう。


「紫闇の力は『時間操作』の類い。今は周囲の力を数万分の一に圧縮する程度。けれども成長するなら(いず)れは[完全な時間の停止]も可能になるかもしれない」


現時点なら焔も攻略できる。

しかし将来的には未知数。


「しっかし紫闇の小僧も決勝であんなのに当たりとはのう。せっかく宿しとる上位存在が……。いや、断定するのは()しとくか」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は紫闇と融合している上位存在が誰なのか言及を避けた。

倒れていた紫闇が目を醒ます。


「強い、な橘花……。本当に、さ……。まさか外装も出さず、左腕一本で……攻める相手に。しかも……あれだけ、攻撃を当てた奴、に……。負ける、とは……思わなかった」


翔は目を合わせて告げる。


「俺は認めるぞ立華紫闇。お前は美事な男だった。本当にな。心からそう思う。今度戦う時までにもっと強くなっておけ」


古神旧印(エルダーサイン)】が翔に移ると紫闇の意識は黒一色に染まり、何も見えず、聞こえなくなった。

 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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