戦国異伝供書
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第七十五話 逐一その十二
「この越前や加賀でじゃ」
「民百姓が鉄砲を持っている」
「まずありませぬな」
「上杉家は少し持っているそうですが」
「当家はあまり、ですし」
「そのことを考えますと」
「おかしいな」
そう思うしかないというのだ。
「左様じゃな」
「全く以て」
「一体どういうことでしょうか」
「一向一揆に闇の旗があり」
「武具のよい者がいて」
「しかも鉄砲まで持っておるなぞ」
「そしてわしの場所を知っている様にじゃ」
宗滴の話すことはまだあった。
「向かってきた」
「殿のですか」
「おられる場所を知っている様に」
「そうしてですか」
「まるで軍勢の采配の様にじゃ」
その動きの話もした。
「見事に動いてきた」
「それも妙ですな」
「一向一揆は所詮民百姓です」
「坊主も坊主です」
「兵法を知っていても」
そちらの書を読んでいてもというのだ。
「それが生業ではありませぬ」
「やはり戦の采配は落ちます」
「どうしても」
「だからあの者達は数が多くとも戦い勝ってきた」
烏合の衆だからだとだ、宗滴は言い切った。
「これまでな」
「左様でしたな」
「一向一揆については」
「数が多いだけで」
「持っている武器は粗末で具足も碌に付けていない」
「采配も拙い」
「そうした者達でしたが」
家臣達も口々に話した。
「それが、ですな」
「的確な動きをして殿の本陣に向かってきた」
「そうした者達がいましたか」
「その者達にすぐに精兵を向けて倒したが」
宗滴はこれまでの戦の経験から素早くそうして対したのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「殿としてはですな」
「今も妙なものを感じられていますか」
「しかも戦の場に闇の旗は転がっておらんかった」
戦の場で確かに見たそれをというのだ。
「探せどな」
「倒してもですか」
「旗は転がっていなかった」
「そうなのですか」
「倒した者達もな」
闇の具足を着た彼等もというのだ。
「おらなかった」
「骸がない」
「それはまたです」
「実に面妖ですな」
「このことも」
「おかしなことばかりでじゃ」
それでというのだ。
「わしもじゃ」
「我等もお話を聞きますと」
「奇怪に思いまする」
「一体これはどういうことか」
「謎ですな」
「全くじゃ、一向宗におっても」
その中にあってもというのだ。
「考えれば考える程一向宗には思えぬ」
「ですな、どうも」
「その者達が一向宗には思えませぬ」
「灰色の旗も立てておらず」
一向宗の色であるその旗もというのだ。
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