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Twitterログ(オルぐだ♀)

作者:秌薊
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瞼に敬愛

 
前書き
サポートから帰還した彼を労りたい話(2,000文字程度)
少しぐださんの弱い一面の描写があります
最終的にぬくぬく添い寝
  

 

「バーサーカー、おかえり!」

 種火集めだけでなく、特異点修復でも活躍してくれているサーヴァント――クー・フーリン・オルタだ――がサポートから帰還した。丁度空き時間だったところだし、お出迎えしよう。お疲れ様、そう声を掛け、当然ながら傷一つない姿を視界に収める。でも何だろう、この感じは。じっと見つめても口数は決して多くない英霊の一人だけに、凪いだ深緋はただ私を映しただけだった。

「オルタ、暇ならちょっと付き合ってくれるかな……時間ある?」
「構わん」

 このまま別れてはいけない、そんな警告にも似た思いに突き動かされ、先刻まで槍を握っていた英霊の手を取った。恐恐と言ったところか、ほんの少しだけわたしの指を包む力が強くなる。身長差がある分、歩くペースも彼にとっては遅いだろうに、黙ってついて来てくれている。そんな小さなことではあったが、胸の内を温めるには十分だった。可能であれば振り返ってみたり、腕を揺らしてみたいが今度こそ逃げられてしまう。それは是非とも避けたい。

「到着ー。さあオルタ、トゲとかマントとかフードとか解いてー」
「何故だ」
「いいから、ね?」

 自室にて早速お願いをしてみるが予想通りである。表情に変化はないが、渋るというより理解できない、そう顔に書いてあった。うん、気持ちは分かるけど、了承しない限りこの手を離すつもりはないよ。声に出さず骨張った指へ自分のそれを絡めて笑顔を向ければ、通じたのか諦めたのか、彼を形作るものの一部が虚空へ溶けていった。これでよし。

「それじゃあ、一名様ご案内ー」

 やや巫山戯ながら移動する先は、何を隠そうベッドである。掛け布団は足元側に畳んでいるため、靴さえ脱げばすぐに寝転がることが出来るのだ。事をスムーズに進めるにはまず、わたしがお手本を見せるべきだろう。さっさとブーツから脚を抜き取り、幾らか皺が残るシーツの上へ腰を下ろす。そこでようやく、繋いだままだった手を引く――が、やはりトントン拍子にとはいかないものだ。元より大した力を入れていなかった指をほどけば、呆気なく掌の温度は冷めていった。二人の間に広がった僅かな空間が、サーヴァントと人間の決して超えられはしない境界を突きつけてくる。
 先程までの幸せな気分は寂しさで覆われ、消えてしまった。けれど、このままという訳にもいかない。こちらが座り込んでいるため、普段より高い位置にある二つの深緋を見上げて口を開く。うまく、笑えているだろうか。

「ごめんごめん、昼寝したくてさ。一緒にどうかなっていうお誘いだったんだ」

 駄目だ、少し声が裏返ってしまった。情けない。強引に道連れにすることも、素直に謝ることも、遠慮なく断ってくれていいのだと言うことも出来なかった。悔しくて、涙が零れそうになるのを隠そうと項垂れた頭に、温度こそ感じなかったが確かに重みが加わる。反射的に顔を上げれば、薄らと呆れたような諦めたような感情を滲ませた男が鼻で笑っていた。

「オル、タ……?」
「寝るんだろう」

 乗せられていた手がそっと離れ静かな声が降ってくるのを、どこか遠い気持ちで聞きながら彼の行動を目で追いかける。一人分のスペースを空け、横向きに寝そべる様はまるで、隣に並ぶ誰かを寝かしつけるためのような。そんなことをぼんやりと考えた次の瞬間、わたしはいつの間にか寝る体勢になっていた。何が起きた? パチパチと瞬きを繰り返している内に、ふんわりと布団が掛けられる。どうやらこの状態はオルタの尾によるものらしい、便利なものだ。彼の真似をして仰向けから向かい合うよう身体を捩れば、あの瞳が随分と近くにあるのだと気付く。
 不思議と恐怖心はなかった。手を伸ばし同意を得ぬまま頬に触れ、特徴的な神性の証をなぞってゆく。無遠慮に撫で回しているにも関わらず、抵抗らしい反応はないどころか、彼は目を閉じたまま好きにさせてくれた。何故だろう、それこそ噛み付かれたって可笑しくはないのに。

「気は済んだか」

 シーツに腕を下ろせば、気だるげな相貌が覗いた。うん、と自然に顔が緩んでいる自分に気付く。気が抜けたのだと自覚してしまうと、現金なもので新たな欲が湧いてくる。――ごめん、もう少しだけ。心の中でそう呟いて、彼の頭を抱きこんだ。

「……おい」
「ん」
「離せ」
「わたしが眠ったら、好きにしていいから」

 目を瞑れば二人分の体温でいい具合に温まった空気により、眠気が一気に加速してゆく。胸元で聞こえた長めの溜息に、ふふ、と夢心地の笑みが漏れた。ああそうだ、言いたいことがあったんだ。

「おるたー……、くー、」

 ねえ、ちょっと目閉じて。ちゃんと言えているのか自分でも分からないくらい、ふわふわしている。完全にくっ付いてしまいそうな視界をこじ開けて、確かに伏せられている瞼へ、唇を寄せた。

『オルタ、いつもありがとう。作戦とか苦手で、ついバーサーカー! って頼ってばかりだけど。でも、これからも頼りにしてる。あとね、クー。必要ないのかもしれないけど、たまにはこうやって休んでほしいなあ』

 果たして何処まで言葉に出来たのだろうか。届いているといいな、そう願ったのを最後にわたしの意識は落ちた。
 根拠はないが、彼には伝わっている予感がした。なぜならば。眠りの淵で拾った音は、これまで会話してきた中で一度も耳にしたことがないくらい優しいものだったから。きっとこの夢から覚めても、貴方が傍に居てくれる。それは、確かな未来なのだと。



 
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