戦国異伝供書
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第七十五話 逐一その一
第七十五話 逐一
新九郎は六角家から送られた諱も正室も断り送り返した、それと共に小谷城だけでなく他の城や砦にも兵を集めた。
そして兵糧や塩も入れたが家臣達はこの時に彼に話した。
「塩も手に入れておきます」
「これはよいことですな」
「実にですな」
「うむ、塩がないとな」
さもないと、というのだ。
「人は動けぬからな」
「全くです」
「近江は水は豊富ですが」
琵琶湖の為であることは言うまでもない。
「しかしです」
「海に面してはおりませぬ」
「その為塩は手に入りませぬ」
「ですが塩はです」
「越前から手に入る」
この国からだというのだ。
「有り難いことにな」
「朝倉殿が安く売ってくれます」
「これもまた有り難いことです」
「実に」
「朝倉家に頼らぬが」
それでもとだ、新九郎は広い視野に立って話した。
「やはりな」
「朝倉家とはですな」
「これからも親しくしていきますな」
「そのことは変わりませぬな」
「うむ、頼らぬにしても」
それでもとだ、新九郎はさらに話した。
「絆はおろそかにせぬ」
「それはありませぬな」
「塩のことを考えましても」
「当家は近江に領地があります故」
「そこはどうしてもですな」
「塩を自分達で手に入れることが出来ませぬ」
「そこが当家の弱みである」
はっきりとだ、新九郎は話した。
「海に面しておらぬことがな」
「ですな、どうしても」
「そこが当家の弱みです」
「人は塩がなくては生きていられませぬ」
「ですからどうしても塩が必要ですが」
「海がなくては」
「海がある国とは仲良くしていかねばばらぬ」
このことはどうしてもというのだ。
「六角家にしてもそうじゃ」
「伊勢の方からも買っていますな」
「そして三好家からも」
「そうして塩を手に入れておりまする」
「生きる為に」
「だからじゃ」
だからだとだ、新九郎はさらに話した。
「当家にしてもな」
「塩は朝倉家から買っていました」
「若狭からも買えますが」
「若狭から近江までは越前の金ヶ崎を通らねばなりませぬ」
「どうしても当家は朝倉家と親しくせねばなりませぬ」
「そういうことじゃ、そしてな」
さらに言うのだった。
「その塩も充分手に入れてな」
「蓄えておりますな」
「六角家との戦に備えて」
「それが出来ておりますな」
「うむ、兵糧に塩に」
それにとだ、新九郎はさらに話した。
「武具も蓄えておる」
「鉄砲も」
「そして弾や硝石も」
「全て充分な蓄えが備わってきましたな」
「いいことじゃ、それでじゃが」
新九郎はこれまでの満足している顔を一変させた、鋭い顔になりそのうえでこう言ったのだった。
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