戦国異伝供書
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第七十二話 六角家からの話その二
「構わぬ、ただ民達にはな」
「迷惑はかけぬ」
「民達に迷惑をかけてはな」
それこそとだ、猿夜叉は雨森に話した。
「何もならぬであろう」
「はい、それは」
その通りだとだ、磯野は答えた。
「武士ならばです」
「あってはならぬな」
「それは最早武士ではありませぬ」
民に迷惑をかけてはというのだ。
「到底」
「そうであるな」
「それは野盗と変わりませぬ」
「そうじゃ、だからな」
「民にはですな」
「決して迷惑はかけぬ」
六角家との戦になろうともというのだ。
「その様にする」
「そうせねばですな」
「当家がおる意味もないわ」
「だから近江の北の民達には」
「迷惑はかけぬ、例え二万の軍勢と戦おうとも」
六角家の軍勢の数の話もした。
「それでもな」
「民に迷惑をかけず」
「そのうえで勝つ」
「その戦の仕方は既に、ですな」
遠藤は若き主の顔を見て問うた。
「若殿の中に」
「出来てきておる、六角家のこともな」
「聞いておりまするな」
「確かに勢力は大きいが」
浅井家と比べればというのだ。
「しかしじゃ」
「勝つ様にですな」
「色々練っておる、そのうえで戦になれば」
「勝ってそして」
「独立じゃ、あと六角家からじゃ」
相手となるこの家の話もした。
「わしに縁組の話を出すつもりじゃな」
「はい、六角家の姫君をです」
まさにとだ、遠藤は猿夜叉に話した。
「若殿の奥方にと」
「敵の妻はもらえぬ」
一言でだ、猿夜叉は己の考えを述べた。
「到底な」
「では」
「奥を迎える前にな」
六角家から妻をというのだ。
「わしは元服したい」
「そして家督を継がれ」
「そうしてな」
「独立ですな」
「そうしたものじゃ、一度夫婦となって敵となるから別れるということもな」
どうかとだ、猿夜叉は生真面目な顔で述べた。
「よくはない」
「そうしたことは」
「相手はどう思うか、そう考えるとな」
「それは、ですな」
「してはならぬ」
「それが人の道ですな」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「それはせぬ」
「ですな、敵味方になることは戦国の世の常でも」
それでもとだ、新庄が猿夜叉のその言葉に応えた。
「流石においそれと別れることは」
「よくはないな」
「ましてや最初から敵になる覚悟なら」
「尚更な」
「最初からです」
「夫婦になるべきではない」
猿夜叉ははっきりと述べた。
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