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戦国異伝供書

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第七十一話 黄色から紺色へその九

 猿夜叉は実際に天下の趨勢も聞いてそのうえで近江のことも考えていく様になった、久政はその彼にこう言った。
「お主の言うことはな」
「なりませんか」
「そうは思わぬが」
 それでもとだ、我が子に苦い顔で言うのだった。
「大き過ぎぬか」
「近江のことを考えるには」
「そうじゃ、我等の領土は近江の北じゃな」
「そこから大きくすることはです」
「お主も考えておらぬな」
「浅井家は今で充分です」
 近江の北、四十万石でというのだ。
「天下どころかです」
「近江一国もじゃな」
「過ぎるかと」
「わしもそう思う、しかしか」
「浅井家が生きるには」
 その為にはというのだ。
「やはりです」
「天下を広く見てか」
「そのうえで、です」
「考えていきか」
「動いていくべきかと」
「そう思うか。わしはな」
 久政は己の服の袖の中で腕を組みつつ我が子に話した。
「そこまではな」
「いらぬとですか」
「思うがのう。甲斐や越後ではかなり動いておるそうじゃな」
「武田殿も長尾殿も」
「それは聞くが」
 それでもと言うのだった。
「やはりな」
「この近江には関わりがない」
「直接はな、だからな」
 それ故にというのだ。
「そこまではと思うが。まさか安芸の毛利家のことも」
「聞いておりまする」
「そうなのか」
「あの御仁、ここには来ないでしょうが」
 それでもというのだ。
「あの奸悪は松永殿や斎藤殿よりも」
「非道か」
「あの様なことを続けてな」
 毛利元就の様な所業をというのだ。
「天下は大変なことになりまする」
「そこまで酷いのか」
「毒殺、騙し討ちは常で」
 それでというのだ。
「何事にも手段を選ばぬ」
「そうした御仁であってか」
「それがし元から真似は出来ませんが」
 それ以上にというのだ。
「してはならぬとです」
「その様に思っておるか」
「はい、まことに奸悪無限の方であり」
 それでというのだ。
「手本になぞ決してです」
「してはならぬか」
「はい、そうした御仁です」
「そうなのか」
「そして九州では」
 猿夜叉はこちらの話もした。
「島津家がです」
「確か薩摩と大隅の守護であられる」
「あのお家がです」
「大きくなっておるのか」
「はい」
 まさにというのだ。
「次第に力をつけ鉄砲も揃えて」
「鉄砲か」
「そうです」
「あれは高い、そして役に立つのか」
「その様です」
「ではお主は鉄砲もか」
「出来るだけです」
 猿夜叉は父にこちらの話もした。 
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