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戦国異伝供書

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第七十一話 黄色から紺色へその三

「頂きつつ」
「そうしてですな」
「お話をさせて頂きます」
「それでは」
「ではそれがしが幼い頃から元服し家督を継ぎ」
 そしてというのだ。
「妻を迎えるまで」
「その時までですな」
「お話させて頂きます」
 長政はその話をはじめた、今度は彼の番であった。
 長政は幼名を猿夜叉といった、この時浅井家は祖父である亮政が世を去り父の久政の代になっていたが。
 一旦独立した六角家に押され再び従う様になっていた、このことはまだ幼い猿夜叉もわかっていた。
 彼は幼い頃から大柄であった、その大きな身体で日々武芸に励みかつ学問もしながら父に対して言うのだった。
「父上、それがしはです」
「この家をか」
「はい、今の様な状況からです」
「六角家を出てか」
「再び。祖父殿の時の様に」
「大きく出る家にか」
「したいです」
 こう父に言うのだった。
「そう考えておりまする」
「朝倉家の力も借りてか」
「はい、朝倉家の宗滴殿もです」
「六角家でなくじゃな」
「当家を助けて下さると言っておられますか」
「その通りじゃ」
 久政はもう自分より大きくなろうとしている我が子に対して答えた。
「あの方はいつもそう言っておられる」
「それでは」
「しかしじゃ、六角家は大きい」
 久政は我が子、自分の後に浅井家を継ぐ彼に気弱な声で返した。
「当家は四十万石、一万程度の兵しか動かせぬのに対してじゃ」
「六角家は八十万石ですな」
「二万の兵がおる、しかも公方様からの覚えもめでたい」
「この近江の守護として」
「幕府は六角家を正しいとされる」
 近江の守護であるが故にというのだ。
「その八十万石には伊賀もあるしのう」
「倍の相手にはですか」
「戦えぬ、まして六角家の本城観音寺城は堅城じゃ」
「この小谷城の様に」
「この城も堅城じゃ」
 山全体を城とし敵にとって実に攻めにくい造りにしている、この城の堅固さも浅井家の強みであるのだ。
「確かにな」
「それでもですか」
「六角家は大きい、若し我等が下手に動けば」
「その時は攻めてきて」
「敗れる、滅ぼされずとも」
 それはなくともというのだ。
「攻められてな」
「敗れますか」
「そうなることは見えておるわ、わしは戦が弱い」
 自分のことについてもだ、久政は話した。
「だからな」
「戦になれば」
「その時はな」
 まさにというのだ。
「勝てぬ、倍の敵になぞ」
「朝倉殿のお力は、いや」
 ここで猿夜叉はわかった、それで父に言った。
「他の家の助けをあてにするなぞ」
「わかるであろう」
「それで六角家を出ても」
「若し朝倉殿がお助け出来ねばどうなる」
「朝倉殿は常に一向一揆に悩まされておりますし」
「そうじゃ、この近江にも一向宗はおる」
 それも多くだ。 
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