| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

クーぐだ♀ワンライまとめ

作者:秌薊
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第7回 ポッキーの日(プニぐだ♀)

 
前書き
マイルームにて二人きりの、ポッキーの日(1,700文字程度)
キスの描写あります
 

 

 ちょっと気分転換をしよう。半ば睨めつけていた端末の画面をオフにして定位置へセットする。大きく背を伸ばしながら備え付けの冷蔵庫へ向かった。今日は特別なおやつがあるもんね。そうっと扉を開けば真っ先に目に入る金属製のバット。クッキングシートが引かれたその上には、十一月十一日に因んだお菓子がぎっしりと並んでいる。お手製だ。当然ながら自分も手伝ったが、わがままを受け入れてくれたキッチン組には感謝しかない。こうしてマイルームに一人で居られることにも一役買ってくれているのだから。
 冷たいバットごと取り出し、数あるうちの一本に齧り付きながら考える。ああそうだ、ならば彼らの強化素材を優先的に集めるのはどうだろう。だいぶ私情が入っている気がするけれども、バチは当たるまい。
 再び椅子に座りつつ、体温で溶け始めたコーティングされた部分のチョコレートごと咀嚼する。本来ならプレッツェル生地で作るところを、パフ入りの生地に替えてもらった甲斐あって、さくさくと良い音がした。

「ポッキーより少し太いし、長さも短いけど……おいしいからよし」

 独り占めするのは勿体無いと思うものの、食堂で食べようものなら――そこまで想像しかけ、慌てて頭を振る。賑わいをみせていた、あのゲームには関わりなくないのだ。
 
 
 
 二本目のおやつを口元へ運びながら、またタブレットへと手を伸ばす。キッチン組用の素材を確認しなければ。

「お、マスターそれ、何食ってんだ?」
「クー。今日だけの、特別なおやつだよ」

 きちんと飲み込み終えてから、声の主を見上げる。マイルーム待機を日頃からお願いしているプロトタイプのクー・フーリンだ。三本目を摘んで、このお菓子を用意した経緯を簡単に話し、折角二人になったのだからとお誘いの言葉をかけることする。向かい側の椅子を勧め、彼が腰を下ろしたところで振っていたおやつに口を付けた。
 
 
 
 うんうんと一人唸りつつ、何本目かのおやつを咥えたまま上下に揺らす。必要な素材がある程度、共通していれば周回が楽になるだろうか。いや、それで必要数がとんでもないことになっても困る。入手が容易なものからコツコツと集めていく方が一番堅実かな。どうしたものか、腕を組んだところで、対面の彼に動きがないことに気が付いた。
 視線を合わせれば、戦闘の最中のような赤が、真っ直ぐにわたしを見ていて、反射的に息を呑む。咄嗟に謝らなければと声を出そうとして、まだお菓子を遊ばせたままだったことを思い出した。

「ご、ごめん……行儀が悪かったね。いま食べちゃうから」

 一旦口元から離し、急ぎ断ってからチョコレートがなくなってしまった端へ齧り付く。スピードを上げるため、押し込もうと人差し指で素の生地部分に触れる、その瞬間ぱしりと手首を取られた。食べることに集中しすぎていたせいで、彼の顔がすぐ傍にまで近付いていると気付くのが遅れたのだ。何事だろうと目を瞬いていると、真正面にある双眸が瞼に隠れ、次いでさくさく、と軽やかな音が聞こえてきた。まるで焼き菓子を食べている時のような――。

「へぇ、変わった食感してんだなコレ」
「え、ああ、うん……」

 リズミカルな音が途絶え、いつの間にか柔らかく熱いものが口に触れていた。緩く押し付けられたそれは、わたしまでも摘むかのように角度を、タッチを変える。やがて濡れた感触が唇の輪郭をなぞった後、ゆっくりと遠のいていった。
 呆然とするこちらをどう思っているのか、彼は平然と別のフレーバーチョコがかかっているお菓子を食べ始めている。自分とは違い、数口で一本を口の中に収めてしまった男と目が合った途端、顔が一気に熱くなった。

「気に入ったんなら、もう一回するか?」

 にやりと不敵な笑みを浮かべ、新たな一本を差し出してくるサーヴァントにこれまた一拍遅れて、わたしは大声を上げた。

「――しませんっ! クーのばかっ!」

 無言のまま抗議の目を向けたところで、彼はどこ吹く風とおやつを頬張っている。明らかに血色が良くなっているであろう頬の熱はしばらく引かないし、まだまだ残っているお菓子達だって食べられなくなってしまった。……だって、こんなの、思い出しちゃうじゃんか。
 
 
  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧