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ソードアート・オンライン ~白の剣士~

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破壊の権能

シュタイナーとバーデンのステータスは同じようで若干の違いがある。
シュタイナーは言うなればパワーアンドスピード、ヒットアンドアウェイのスタイルを得意としている。
対して、バーデンはパワーアンドテクニック、敵の動きを読み、急所を確実に抉る。

そしてもう一つ、シュタイナーに無くてバーデンにあるもの、

それは–––––

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「シッ!」

デュエル開始から約10分、形勢は逆転し、今度はバーデンの手数が増えてきた。
的確に急所を狙ってくる攻撃にシオンは防戦を強いられた。

「オラオラァッ!さっきまでの勢いはどうした!!」

「チッ!なめんな!!」

シオンはバーデンの胸元を斬りつけ距離を取る。
先程の攻めが通じなくなってきたシオンは武器を変えて応戦する。
しかし、そのどれもがバーデンに対応されてしまっている。

「おいおい、昔より随分と鈍ったんじゃねーか?」

「ほざけ!テメェこそ体力落ちたんじゃねーのか?」

皮肉を言い合う2人を他所に、観戦している者たちはシュタイナーの身体で戦うバーデンの姿に驚きを隠せなかった。

「シュタイナーさん急に攻め方が変わりましたね」

「まるで人が変わったみたいに・・・」

「みたい、じゃなくて変わったんだよ」

「どういうこと?」

キリトの言葉に首を傾げる一同。それに対し、繰り広げられる戦いに目を向けながら答えた。

「あれはもうシュタイナーじゃない。今シオンと戦っているのは《霧のバーデン》だ」

「はぁ!?ちょっとまって!アイツは死んだはずでしょ!?」

リズは素っ頓狂な声を上げて言った。
確かにバーデンは死亡扱いとなっている、それはその場のSAOにいた者が皆知っていた。

「正確には死んでいない。ついこの間まで眠っていたってシオンが言ってた」

「眠ってたって・・・。それじゃあ、バーデンの正体はシュタイナーさんだったってことですか!?」

「それはちょっと違うかな」

シリカは混乱しながらキリトに聞くと、それをエリーシャが否定した。

「あれはシューであって、シューじゃないんだよ」

「それって、どういう?」

「解離性同一性障害、今シューの身体には《シュタイナー》と《バーデン》2つの魂が入っているの」

「多重人格ってこと?」

「簡単に言えばな」

正体を知った一同は改めて目の前で戦っているシュタイナーもとい、バーデンを見て改めてその戦闘スタイルを見て思うところがあった。

「でもよ、アイツあんなに素早かったか?」

「クラインの言う通りよ!明らかにアタシたちが見たときより早くなってない?」

クラインとリズが言うことにSAOにいた者たちは同じ反応を示した。
無論、SAO時代のバーデンも攻撃速度に定評があった。しかし、今目の前で戦っているバーデンは明らかに当時の彼を凌駕する速度にあった。

「シオンが言うには、単純に本人が強くなっただけじゃない。もっと別の要因が絡んでいると言っていた」

「別の、要因・・・?」

「シンクロ率、ね・・・」

エリーシャは目を細めながらそう答えた。

「さっきから見ていて思ったんだけど、バーデンの動きがだんだんシューの動きに近づいてきてる」

「それってバーデンがシュー兄に合わせてきてるってこと?」

「逆だ、シュタイナーがバーデンに合わせたんだ」

「何でまた?」

「さあな。ただ一つ言えるのは、それによってバーデンとシュタイナーとの間に親和性が生まれ、精神と肉体のシンクロ率が上がったとシオンは言っていた」

精神と肉体の関係性はその者のパフォーマンスに大きく関わってくる。自分のイメージした通りに身体を動かすというのは言うのは簡単だが、実際はそれを100%出来るかというと案外できないものなのだ。
長年にわたる訓練、反復練習があってようやくたどり着ける領域、そこに今バーデンたちは踏み入れようとしている。

「多分、このままいくとバーデンは今のズレを修正する」

「そうなったら、シオンはかなり不利になる」

そう言うエリーシャは下唇を噛み、左腕を強く掴んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

気にいらねぇ・・・。

それがバーデン()シオン(コイツ)に抱いている印象と言える。
実力に見合わないおめでたい理想、どんなにぶっ飛ばしても向かってくる諦めの悪さ。

そしていつまでたっても曇らねぇその眼–––––

見ていて腹が立つ。

いい加減・・・!

「消えやがれッ!!!」

大きく振りかぶった拳は地面に突き刺さり、衝撃波がシオンの身体を突き抜ける。

苦痛に顔を歪む。

HPも残り1/3に差し掛かっている。

もう息をするのもシンドくなる。

しかし、その足は止まらず前に進み続けた。

「諦めな、テメェじゃオレには勝てねぇ」

「まだ、終わってねぇ・・・」

「何故、そこまでシュタイナー(コイツ)にこだわる?」

バーデンは立ち上がろうとするシオンに問いかけた。

「コイツは死にたがっている。自分の罪を命をもって償おうとしている。何故止める?」

宿主であるシュタイナーの想いはバーデンにも伝わっていた。
今まで何人もの命を刈り取ってきた彼だからこそ理解できる《命の重さ》。
それは一人の青年が背負うには、あまりにも重すぎたのだ。
どんなに心を入れ替えても、どんなにクソ野郎の心臓を握り潰しても、どんなに心を殺しても・・・
目を閉じれば死んだ者たちの叫びが聞こえてきそうだった。

戦っている時だけが何もかも忘れられたのに・・・

「そこまでして、何の意味がある!!」

「・・・せぇ」

喉から僅かに漏れる声を吐くシオンにバーデンは再び聞き返した。

「あ?」

次の瞬間、シオンは叩きつけるかのごとく大声を吐き出した。

「うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせえ!うるせぇえええええッ!!!」

「なッ!?」

「さっきから死にたがってるだのなんだの言いやがって、命をもって罪を償う?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ!テメェが死んだところで何にもなりゃしねぇ!お前が死ねば殺した奴らは報われるのか?お前が死ねば罪は償われるのか?そんなモンあるわけねぇだろが!!」

「シオン・・・」

叫び続けるシオンに皆圧倒されて聞くしかなかった。

「人を殺した以上、その罪は死んでも付き纏う。痛ぇし、苦しいし、吐き気がするほど気持ち悪い。だがな、それでも生きていかなきゃなんねぇんだよ!殺した奴の怨念が聞こえても、どんなに後ろ指刺されても!」

俯くシオンの表情は誰にも見えない。しかしその影から数滴の滴が溢れたのをバーデンは見た。

「お前・・・」

「意味があるかと聞いたな?だったら答えてやる、それは・・・」

そう言って胸を拳で強く叩き、叫んだ。

「心臓はまだ動いてる!目も見える!足も動く!それだけでお前は!《シュー・皇》は生きる意味がある!!」

「ッ!!」

「見せてやるよ!これが、お前に勝つための《二星目》だ!!」

その時、小島の周りの湖が突如波打ちだした。
大きな水飛沫を上げる中、シオンは腕を前に突き出した。

「永遠に謳うは乙女の調、惑い憂うは湖の剣、星の調に幕を開け《セイル・スロット》!!」

水はシオンを包み、鎧となって姿を現す。
それは先程の《金剛毘沙》とは異なり、美しいを流線美纏っていた。

「さあ、切り結ぼうぜ!!」
 
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