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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第二十一話 フラグは立てて回収するもの(時たま忘れる)

 
前書き
閑話含めると二話連続更新なので注意してください。 

 
―――同時刻・タワー―――

「どうやら外れらしいな。ッたく時間食ってる暇はねえってのに」

司狼とティトゥスは残っている二つの片方であるタワーまで来ていた。病院にいた香純を連れてマンションまで運んだためより近いほうであるタワーを選んだのだが失敗だったようだ。司狼はこういった当が今まで外れたことはほとんど無いはずなのだが珍しく当ての外れが多い。まあ、理由も多分だが分かっているといえば分かっている。

「お前ってさぁ~、マジで疫病神に知り合いでも居るんじゃねえ?」

「ハハハ、何を言っているんだい。そういった類の知り合いは精々豹に姿を変えれる蠅ぐらいだよ。寧ろ君が奪ったロリババアの持ってた魂の中にでもあるんじゃないの?」

「それすっげー分かりにくい例えだな。っていうかロリババアって……まあ、同意はするが」

苦笑しながら煙草を咥え火をつける。そして一服し、

「如何する気だ。殺るのか?」

「俺としてはチャッチャと斃したいんだけどねえ。吸血鬼だなんだ言っても屍骸(ゾンビ)が這い回ってる町なんて歩きたくないし」

「オウオウ、随分と威勢がいいじゃねえか。まあ、テメエ等がこっち来たのは幸いだがよ。実際のところ如何だ?ちったァねえ頭ひねって対策考えてきたかァ?」

タワーの展望部の上で足を組んで佇むヴィルヘルム。その様子を見て司狼は面倒だと思う。前回、決着が次に持ち越された以上、今回の戦いを避けられないのは自明の理である。だが、司狼もティトゥスも出来ればここで戦うのを遠慮したい。負ける気は無いが勝っても負けても問題だ。唯でさえ残り二つしかないスワスチカ。その上、こっちに他の敵や味方が来ていない以上、他の面子はおそらく学校で戦っている。となれば此処を開かせるのは自分の首を絞めるだけの話だ。

「ッたく、儘なんねえな」

ヴィルヘルムはタワーから飛び降り直接地面に足をつく。その程度のことなら今の司狼にも出来るだろうが飛び降り自殺みたいであんまりしたいとは思わない。

「厄介だな~。見た所、前より数段強化されてるよ。アレだね、シュライバーを斃したからだね、きっと」

「じゃあまあ、さっさと動けなくするなり何なりして学校の方に向かうとするか?」

「教会の可能性も捨てがたいけど如何する?」

「どっちにしろ数で追い込まれてんだから学校に向かうべきだろ」

「それもそうだね。じゃあ方針はそれでいこう」

そういって互いに此処から退却することを決定するが当然それをさせようとしないヴィルヘルムがこの場にはいる。

「んだよっ、結局何も考えてねえのか、オイッ。サルがキーキー喚くだけじゃつまんねえだろ。少しは俺を楽しませろよォ。じゃねえと―――死ぬぞ―――」

最後に呟くように言ったその言葉と共に右手を突き出し、司狼とティトゥスを貫こうとする。二人ともすぐさま拳銃を構え左右に分かれる。ヴィルヘルムは突き出した右手を引っ掻くように右に振り回す。ティトゥスはそれを受け吹き飛ばされる。と同時に瓶をヴィルヘルムに向かって投げつける。
ヴィルヘルムはそれを避けようと首をずらすが司狼はそれが何なのか理解して銃でそれを撃ち抜く。

「一人でトチ狂ってんじゃねえよな」

「勝手に俺らみたいな他人を測ろうとするなよ。他人に対して期待はずれだと思うなら一人でオナニーでもしていなよ」

「―――あァ?」

突如広がる爆風。炎の熱気と共に広がるのはアルコールの匂い。それはガソリン或いは灯油を瓶に入れて瓶の中身を引火させるだけで燃え上がる火炎瓶だ。ヴィルヘルムが吸血鬼特有の弱点を持っていることから手榴弾よりも威力では劣るが火力という面で勝る火炎瓶を投げつけた。無論、この程度で終わるとは誰も思っていない。ティトゥスは更なる反撃を行うために「ワルサーカンプピストル」を構える。元々は信号弾を発射する拳銃に単発のグレネード弾を取り付けた銃であり『物質生成(Die Generation des Materials)』によってリロードを行う必要の無い彼に取って相性の良い武器だ。当然、ヴィルヘルムを相手取るために使っている弾は火炎グレネードだ。

「そこで埋まっていな」

マシンガンのように連続して放たれる弾丸。爆風によって見えない上に炎上しているその場所は既に人が耐えて入れるような場所ではなかった。だが、それはあくまで唯の人に限った話だが。

「なあ、何勘違いしてるんだ?」

「グッ!?」

炎の中から現れたヴィルヘルムに首を絞められる。その体は火傷の跡など一切無く、少なくとも見た目では全く傷ついているようには見えなかった。

「テメエのそのバカスカ撃つことしか考えねえ頭にも分かるように言うとよォ、俺が吸血鬼になるのは創造のときだけだ」

彼は未だに創造を行っていないどころか杭すらだしていない以上、吸血鬼の弱点が現れることは無い。しかし、ティトゥスは首を掴んだヴィルヘルムに対して笑みを浮かべる。

「知ってるよ。俺の目的は君のその矮小な視野をさらに狭めることなんだから」

「ぶっ飛べエェッ―――!!!」

横から現れた司狼の拳銃から放たれる銃弾に吹き飛ばされるヴィルヘルム。ティトゥスも共に吹き飛ばされるが作戦通りだ。ティトゥスが相手の目を精一杯引き付けその隙を狙って溜めた一撃を放つ。単純だがその策が成功したことを確信する。斃してスワスチカが開くことは痛いが、どちらにせよいつかは斃さねばならない敵。であれば少しでも速いうちに一人でも多く斃すのが正解だと司狼は確信している。
最初の会話もプラフ、勿論逃げれるなら逃げるが斃せたほうが利点が大きいのだ。やってみて無理ならそのときにでも逃げればいいだけの話だった。

「やったか、とでも言って負けフラグでも確立させとく?」

「いや、やる必要ねえだろ。どっちにしろ今ので決着がつくなら前の時に斃してるっての」

司狼の発言どおり、吹き飛ばされ倒れていたヴィルヘルムは傷一つ無くあっさりと立ち上がる。

「んだよテメエ等、不意を突いてこの程度かよ。期待はずれもいいとこだなァ」

「そんな勝手に期待されてもね」

「まあ、それでもぶっ飛ばされるってことは効いてないわけじゃねえだろ。だったら何とかなるさ」

そういって再び銃を構えて撃ち出す二人とそれを薙ぎ払うヴィルヘルム。どうやら彼らの戦いはまだまだ続くのだろう。



******



―――教会―――

加速した―――正確には時間を引き延ばした―――蓮と集中して自己の能力を限界値まで高めたアウグストゥスが戦っている最中、一人の女性がその光景を眺めていた。その女性とはパシアスだ。ルサルカの血肉、魂、聖遺物の残滓を喰べた分体の一人。
彼女が戦いに介入しない理由は一対一の決闘に無粋だといったものではなく、ただ単に面倒なだけだ。彼女にとっての優先順位はアルフレートが一番であり、彼からの命であるテレジアの守護を全うしているだけの話なのだ。アウグストゥスが勝てばそれで良し。たとえ藤井蓮が勝利しようとも消耗した敵を相手に務めを果たせないほど今の彼女は弱くは無い。その上、今更(・・)彼が勝っても何一つ問題は無かった。

「グッ、まだだ!お前をここで仕留めてみせる!!」

「ウオォォッ―――!!」

既に血まみれのアウグストゥスと疲労の色を隠しきれて居ない蓮。どちらが不利かと問われれば、当然アウグストゥスと答えるがこの戦いは局面的なものとしては全くと言っていいほど不毛だ。意味は無いという訳ではないだろうが同時に意味のある戦いでもない。此処のスワスチカが開いている以上こちら側に此処で戦う意味は無い、一方で向こう側もテレジアを救うために教会に仕掛けて来たのはいいが、無理に斃さず突破できるように作戦を立てたほうがまだ現実的だろうし、仮に斃しても次はパシアス自身が待ち受けている。

「まあ、不毛な決闘というべきなんでしょうね。そもそもアウグストゥスが彼の力を好き勝手してるのが気に入らないのよ」

現状で彼らは互角とまでは言わずとも同じ土俵で戦えている。それは何故か?普通に考えれば良くて平団員と対等程度のアウグストゥスに蓮と対等に戦える道理はない。だがそれを可能にする術式をアルフレートは当然のように保持していた。

「でももう無理ね。あそこまで死に体じゃもう何も出来ないわよね」

必死に倒れるのを抑えるも既にアウグストゥスに戦い続ける余力は無い。どの道アルフレートも時間稼ぎぐらいにしか思っていないのだ。そうなれば術式もタダではない必要以上の力など与えるはずも無い。そして今、パシアスの目の前で首を断ち切られるアウグストゥスを見て呟く。

「残念ねアウグストゥス。彼から力を譲渡してもらっといて役目を果たしきれなかったんだから。まあ、後は私に任せればいいわ」

目の前で構え突き進もうとする蓮を見て微かに口元に笑みを浮かべながら着ているスカートをたなびかせる。

「どけよ。これ以上時間掛けるわけにはいかないんだ。退かないって言うなら今の奴みたいに斃して進むだけだぞ」

「もしかしなくてもアレと私が同じ程度の実力だと思っているの?そう思ってるなら貴方は私には勝てないわよ」

「どうでもいいんだよ。テメエの実力が如何とか他の奴らより強いとか関係無いんだよ。もう一度だけ言う。退け。どかないなら此処でアンタも斃していくぞ」

「どうぞご自由に。私を倒すのも突破するのも出来るというのならしても構わないわよ」

二戦連続だが蓮に余裕など無く泥沼に嵌った戦いを続けることになる。




******



―――学校―――

ヴァレリアとマキナを含んだ数人が屋上で戦っている最中、その様子を一人校庭の端で呆けるように眺めている人物が居た。櫻井螢である。彼女は自分の望みが叶わないと知っても、櫻井戒という人物を助けれないことを知っても諦め切れなかった。
手元で握った剣、緋々色金に力が籠もる。戒、カインを奪ったアルフレートが憎かった。これまでだましていた神父に腹が立った。黙っていた団員全員に対して怒りが込み上げた。自分の理想を突き進み続ける藤井蓮が妬ましかった。そして、そんな風に見ているだけで結果を残せていない自分自身に憎悪した。
腰に差してある軍刀であり、聖剣でもあるベアトリスの剣を見ながら何も出来ない自分の今の状況に耐え切れず涙を流しながら呟く。

「助けてよ……兄さん、ベアトリス……」

「誰かと思えば貴様か、小娘」

突然上から声を掛けられ見上げる螢。

「ザ、ザミエル卿……」

「フン、コソコソと蟲のように何をしているのかと思ったがまあいい。貴様の腰に差しているその剣、何故、貴様がそれを持っている?」

そう問いかけられるのは当然。だがその言葉には怒りに満ちていた。ベアトリスはザミエルの部下であり、死ぬというのならせめて自分の手で介錯をしてやりたいと思っていたほどだ。その彼女が持っていた聖遺物を何も知らないであろう小娘ごときが持っているだけでなく、あろうことか腰に差しているのだ。唯持っているだけならばザミエルも気分を害することは無かっただろう。だが、腰に差すということはすなわちその剣は自分の物なのだという証明に他ならない。
名誉アーリア人ですらない極東の猿に自分の最愛の部下が持っていた剣をもたれるのは我慢なら無いのだろう。

「うぁ……ぁあ……」

別段その怒りを隠す様子も無いザミエルに螢は飲み込まれてしまう。圧倒的なまでの差。感じるのはただ恐怖のみ。逆らおうなどという反骨心すら沸き起こらず、改めて自分は凡俗でしかないのだと認識させられる。そして、その恐怖から少しでも遠ざかりたいがために縋る様に腰に差した剣に触れる。しかし、それは目の前にいる相手にとって逆鱗だったらしい。

「誰の許可を得てそれに触れているのだ!小娘ッ!!」

その怒声に竦み上がる螢、その直後吹き飛ばされる。頬に激痛を感じたことから打たれたのだと遅まきながらに気が付く。ただ叩かれただけで吹き飛ばされるほどの実力差にも、すぐさま腰に差した剣に縋ろうとしたことも含めてますます自分の惨めさを感じてしまう。

「立て!もう一度だけ聞くぞ。貴様が何故それを持っている?」

血反吐を吐きながらも必死に起き上がろうとする螢。容赦なく蹴りを入れるザミエルだがよろめきながらも立ち上がる。

「それは本来なら私の部下の剣だ。それを名誉アーリア人ですらない極東の猿ごときが触れていいと思うなよ」

「私は……櫻井螢はレオンハルト・アウグストの称号を…聖餐杯猊下より授与されています……故に同じ団員番号である五番を預かる身として私が責任を持って所持しております」

無論、これは嘘でしかない。が彼女は今ある意味では縋ることの出来る対象である剣を失いたくなかった。

「成程、そういえば貴様、キルヒアイゼンの席に居るのだったな。あの神父が仕立てたようだが正直な話、誰も認めてはおらんぞ。しかも、アレに最早その権限は存在していない。そもそも貴様は自分の仕事すら果たしていないのだろう。ならばせめてその命をもってこの場の贄となるがいい」

炎が巻き上がり、ザミエルの頭上で燃え盛る。ルーンが刻み込まれおよそ櫻井螢が全力で放ったとしても足元にも及ばないであろう程の熱量が場を支配する。

殺される。考えるまでも無く自分はこの場で何一つ出来ずに殺されるのだろう。そう呆然と感じてしまう。

「ねえ、兄さん、ベアトリス。私もう疲れちゃったよ。いっぱいいっぱい努力したけどさ……誰にも認められなくて、そんなの出来っこないって言われて、そんなことはしちゃいけないんだって諭されてさ。挙句の果てに宙ぶらりんで仲間はずれ。いい迷惑だよ。私はただ、普通に二人と一緒に生きて居たかっただけなのに……」

諦めた。諦めたくなくて諦めたら終わりだって言い聞かせて、どんなつらい目にあっても諦めようとしなかった櫻井螢は此処で初めて現実を見つめ絶望して諦めを見せた。
だが、現実から逃避して諦めようとも目の前の現実が変わるわけではない。ルーンは完成し、ザミエルは己の(ローグ)を持ってして消し炭にしようとする。そして放たれる号砲。紅き焔は櫻井螢という人物を抹消しようとした。

『螢、諦めちゃ駄目。私も一緒に戦うから』

そんな声と共に稲妻の閃光が煌めいた。そして……

 
 

 
後書き
というわけで閑話から呼んだ人は分かるでしょうが、ええもう死亡フラグです。ティベリウスのときもそうだけど閑話は死亡フラグでしかありませんwww。それぞれの人物の印象が薄いからこういった小細工でせめてこんな奴なんだぜ。という足掻きを見せているわけです。ええ、苦しいですよね。 
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