舌と心臓
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第一章
心臓と舌
ルクマーン=イブン=アードはまたの名をムアンマルという。これは長寿という意味であり実際に彼は極めて長生きだった。
外見は分厚い唇をしたガニ股の男で冴えない外見だった。黒人だが体格もなくそうした外見であった。だがそれでも彼は長寿に深い叡智を持っていた。
ある家に奴隷として仕えていた時に主にこう言われた。
「客に最上の料理を出せ」
「わかりました」
ルクマーンはこう答えて羊の心臓と舌の料理を出した。そしてある時は主にこう言われた。
「客に最悪のの料理を出せ」
「わかりました」
今度出したのも羊の心臓と舌の料理だった、それで主はいぶかしんで彼に問うた。
「そなた最上の料理を出せと言ってだ」
「はい、羊の心臓と舌の料理を出しました」
ルクマーンは素直に答えた。
「そうしました」
「そうだったな」
「確かに」
ルクマーンもその通りだと答えた。
「このことは」
「それでまたか」
「はい、最悪の料理にもです」
「羊の心臓と舌の料理だな」
「そうしました」
「それは何故だ」
「世の中にあるもので最上のものは善の心と言葉です」
この二つだというのだ。
「紛れもなく」
「心と言葉か」
「心は心臓から言葉は舌から出ます」
「だから心臓と舌を使った料理がか」
「最上のものです、ですが」
それでもとだ、ルクマーンは主にさらに話した。
「この世で最悪のものは悪の心と言葉です」
「それはその通りだな」
主も頷くことだった。
そしてここで主ははっとなってルクマーンに問うた。
「それで最悪のものはか」
「その二つを出す心臓と舌なので」
「だからだな」
「出した次第です」
「成程な。見事な知恵だ」
主はルクマーンのその言葉に感心して述べた。
「その知恵は異教徒でだ」
「奴隷のままではですか」
「勿体ない、すぐにムスリムになるのだ」
「そうしてよいのですか」
「イスラムは来る者を拒まない」
一切という言葉だった。
「すぐにモスクに行ってだ」
「そのうえで、ですね」
「改宗してくるのだ。改宗すれば」
その時のことも話すのだった。
「そなたを王に紹介したい」
「ダーヴド王にですか」
「そなたの知恵、国とイスラムの為に役立ててくれ」
こう言ってだった、主はルクマーンをすぐに改宗させてだった。
そうしてダーヴド王に紹介した、すると王は彼を試す為にこう言った。
「海の水を全て飲み干せるか」
「ではです」
ルクマーンは王にすぐに答えた。
「そなた海の水がどれだけあるか」
「そのことを知る為にか」
「チグリスとユーフラテスの川から海に流れ込む川の水の流れを全て堰き止めてくれるか」
「そうしてからです」
「飲み干すか」
「川から水が海に果てしなく流れ込んでくるので」
だからだというのだ。
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