酔詩人
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第四章
「その機知によってもだ」
「そうですか、では後世の私がどうなっているか」
「楽しみか」
「実に。ただそれは見ることが出来ないので」
後世に語り継がれている自分の姿はというのだ。
「これからもです」
「酒と色をか」
「そうしたものを思いつつままです」
「詠っていくか」
「心の赴くままに」
ヌワースはハールーンに笑って話した、そしてだった。
彼は諸説ある彼の人生の結末まで酒を飲み色を愛しそうして時には機知を出しつつ詩を詠い続けた、彼はそのことにより実際に後世に名を残した。
アラビアンナイトにも出て来ればアラブ文学の中にも名前を出してくる、そうした道化でありかつ偉大な詩人として語り継がれているが。
彼は死んでからイスラムの天国で酒を飲みつつ自分のその姿を見てやはり天国にいるハールーンに話した。ジャアファルとマスルールも一緒だ。それぞれ死んだ時は色々あったが無事に和解を果たしている様である。
「いや、実にです」
「面白いですか」
「はい、後世で語られている私の姿は」
葡萄の酒をしこたま飲みつつ語った。
「よいですな」
「余はかなりな」
ハールーンも言うことだった。
「美化されていないか」
「私はそこまで美男子だったか」
「拙者は真面目であったか」
ジャアファルもマスルールも言う。
「果たして」
「どうかと思いますが」
「いやいや、後世では我等を直接見ていません」
ヌワースは二人に笑って話した。
「ですから」
「ああしてなのか」
「言われているのか」
「そうです、見ていないと何とでも言えて」
そしてというのだ。
「何とでもなります」
「それで余もだな」
「あの様かと、そして私は」
語られている自分はとだ、ヌワースは話した。
「随分面白く見がいがありますな」
「そう思うか」
「はい、ですから」
それでと言ってだ、早速だった。
飲みつつもインクと鳥の羽根そして紙を出してだった。カリフに話した。
「思うところがあれば」
「それをだな」
「詩にしましょう」
「そうするか」
「私は死んでも私であるので」
「詩人であるからだな」
「書きましょう」
こう言って実際にだった。
ヌワースは詩を書いた、そうしてその詩をカリフに見せて彼を喜ばせた。彼は死んでも酒を愛し詩人であった。
酔詩人 完
2019・6・13
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