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第二章
これで叔父が寺に入って立ち直るならいいと思った、だが叔父は寺から出るとだった。
自分にも父にも周りにもだ、修行させてもらった寺の教義やそこにいる人達のいいことは言わず。
その組織や自分を窘めた人についてあれこれ言う様になった、悠一もその宗派やそこにいる人達の世話にはなっていた。
それでだ、彼も父にどうかという顔で言った。
「俺あの宗派のことはよく知ってるからな」
「おっちゃんの言う様にはだな」
「そんなところじゃないしそこにいる人達も」
「いい人達ばかりだな」
「俺そこの宗派とは子供の頃からよくしてもらって」
その催しにはよく参加して今も付き合いがある位だ。
「おっちゃんより知ってるけれど」
「おっちゃんが言うみたいなところじゃないな」
「何か教義とかいいこと言わず」
「組織の批判ばかりするな」
「全然的外れなことばかり言ってるじゃないか」
それこそというのだ。
「あんなの本当にな」
「おかしいな」
「おっちゃんお寺で何身に着けたんだよ」
「宗派の組織を批判することを身に着けたんだ」
「そんなの身に着けない方がいいだろ」
悠一は怒って言った。
「それこそ」
「ああ、しかしな」
「そうした人なんだな」
「この前奥さんがな」
別れたその人がというのだ。
「爪切りまで持って行ったとかな」
「爪切り!?」
「ああ、爪切りまで持って行ったとか言ってたよ」
「おっちゃん奥さんに爪切りまでお世話になってたのかよ」
「それでもな」
「奥さんに世話になってもか」
「何も思わないで持って行かれたことを言ってな」
そうしてというのだ。
「それを怨んでるんだよ」
「爪切りまでお世話になっててその恩もわからないで持って行かれたとか怨んでか」
「爪切りを買う甲斐性もなくてな」
「それも何も思わないでか」
「しかもそれを人に言ったんだ」
「おっちゃんはとんでもない恩知らずで甲斐性なしで恥知らずで無神経なんだな」
「ああ、そうだ」
父は我が子の言葉に深刻な顔で頷いた。
「それがおっちゃんなんだ」
「それで偉そうなんだな」
「お前への言い方もそうだろ」
「俺は甥だけれどな」
「甥でも言い方があるんだ」
目下の存在でもというのだ。
「それで仕事もな」
「辞めたんだな」
「働いてすぐにな」
「やっぱりそうか」
「もうすぐ毎月またうちや西宮のおばちゃん達のところに来るぞ」
「おっちゃんそんな人だったんだな」
嫌なことを知った、悠一は心から思った。だがそれは序の口で。
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