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久し振りに一緒に

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第六章

「ずっと一緒にね」
「それどういうこと?」
「言ったままよ、機会がある限りまた一緒にね」
 こう言ってだった、美樹は一誠に手を振ってから自分の家の玄関に入った。一誠はその彼女と呆然とした顔で見送った。
 そうしてだ、どういうことかと考えていたが丁度下校してきた小学生の妹に声をかけられた。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「あっ、穂香」
 可愛らしい顔立ちでピンクの髪飾りを着けた小学生の娘だ。制服の色は紺と白であるがランドセルもピンクだ。一誠はその妹に顔を向けて応えた。
「いや、ちょっと」
「ちょっとって?」
「まあ何ていうか」
「何ていうかじゃわからないよ」
 穂香は兄にこう返した、大きな目を向けて。
「それじゃあ」
「そうだよな」
「ここにいても仕方ないよ」
 妹は兄にもこうも言った。
「お家入ろう」
「そうだよな、じゃあお家に帰って」
 一誠は日常に戻って妹に応えた。
「宿題しないと」
「そうそう、やることはちゃんとしてから遊べって」
 穂香は兄に再び応えた。
「お母さんも言ってるし」
「そうするか」
「それから遊ぼうね」
「それじゃあな」
 一誠は妹の言葉に頷いてだった。
 妹と一緒に家に入って日常に戻った、家に入るとすぐに自分の部屋で宿題をした。
 この日はずっと美樹の最後の言葉の意味がわからなかったが次第に日常の中に忘れ考えなくなった。だが。
 美樹と同じ高校に進むことが出来て同じ大学に入ってだ、美樹に自分の部屋に今家族誰もいないからと言われて入れられた時にわかった。
「まさか中一の時に一緒に帰った時の言葉って」
「お互い部活なかった時よね」
 美樹もこう返した、大学生になってもまだ中学時代のあどけなさが僅かだが残っている。尚彼女の兄は就職したがまだ家にいる。
「あの時のことね」
「ずっと一緒にって言ったけれど」
「そういうことよ、じゃあね」
「うん、じゃあ」
「優しくしてね」
 美樹はにこりと微笑んで一誠の手を取った、そうして彼を部屋に入れた。一誠も彼女に応えて足を進ませた。あの時とは違うがあの時から時間を続けて。


久し振りに一緒に   完


                   2019・8・16 
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