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戦国異伝供書

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第六十九話 善徳寺にてその七

「あらためてとなりましたが」
「北条殿じゃな」
「はい、武田殿とはまた違う」
「凄味があるな」
「一見すると細いですが」
 それがというのだ。
「果敢な」
「うむ、北条殿は戦の場では敵に背を向けずな」
「受けられた傷は全て向こう傷ですな」
「そうした方でな」
「戦だけでなく政もですな」
「よくされる方でな」
「領内もよくまとまっていると聞いていましたが」
 それがというのだ。
「よくです」
「わかったか」
「はい」
 氏康を見てだ、それがわかったというのだ。
「それがしも」
「そうであるな、そしてじゃな」
「幻庵殿は」
 彼の話もするのだった。
「ご高齢で」
「それだけにであるな」
「多くのことをご存知で」
 そうしてというのだ。
「何かと手練れの」
「そうしたものがおありじゃな」
「そう感じました」
「あの御仁の政、特に外のそれは拙僧より上じゃ」
「そう言われますか」
「拙僧よりも遥かに長生きなのじゃ」
 それだけにというのだ。
「何しろあの早雲殿のご子息のお一人じゃ」
「今の北条氏の祖であられる」
「元は伊勢新九郎殿といったな」
「あの方のですな」
「そのことはお主も知っていたな」
「はい、そのことは」
 元康は実際に知っていた、それでこう答えた。
「承知しておりまする」
「そうじゃな、その早雲殿の政をじゃ」
「最も受け次いでおられるのがですか」
「あの方じゃ」
 幻庵だというのだ。
「そのうえでじゃ」
「長生きをされて」
「多くの書を読まれてな」
「人生からですな」
「経験も積まれてな」
 そうしてというのだ。
「あそこまでなれるのじゃ」
「長生きもですね、人には」
「必要じゃ、神童だの早熟だのという言葉もあるが」
「人は、ですな」
「やはり歳を重ねてな」
 そうしてというのだ。
「経験を積んでな」
「よりよくですな」
「なっていく、お主は若くして出来物であるが」
「歳を重ねると」
「よりよくなる、だからな」
「幻庵殿の様に」
「なるのじゃ、よいな」
 こう元康に言うのだった。
「その様にな」
「それでは」
「現に武田家でも山本殿は結構なお歳であるな」
「各国を回ってこられたとか」
「軍師としては用いられずともな」
「戦の場も巡られて」
「あそこまでなられた、長尾家にしても織田家にしても」 
 この二つの家もというのだ。 
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