戦国異伝供書
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第六十九話 善徳寺にてその三
「越後をよく治めておられる」
「だからですな」
「あの方は霍去病将軍の強さにな」
「御仏の如きお心もお持ちの」
「そうした方じゃ、このお二方はな」
「何があろうとも敵に回さず」
「若しそうなっても」
その時のこともだ、雪斎はこの時も話した。
「よいな」
「生きることですな」
「お二方には互角の兵ではお主でも勝てぬ」
雪斎は言い切った。
「無論拙僧もじゃ」
「倍以上の兵がなくば」
「勝てぬ、ましてやこちらが少なければ」
「尚更ですな」
「勝てる筈がない、だからな」
「戦になった時は」
「逃げよ」
何としてもというのだ。
「よいな」
「それでは」
「お主達もしかとな」
雪斎は酒井達にも話した。
「お主達の主君を護るのじゃ」
「承知しております」
「我等が命にかえてもです」
「その時は竹千代様をお護りします」
「そのうえで我等もですな」
「生きよ、とはいっても武田殿か長尾殿と戦えば」
敗れそうしてというのだ。
「三河者も多く倒れる」
「そのことは避けられぬ」
「竹千代様をお護りし」
「そのうえで」
「そうなる、お主達も死ぬべきではないが」
それでもというのだ。
「死ぬ者が出てもおかしくないわ、特に真田殿には気をつけよ」
「そういえば」
ここで元康は武田家の本陣にいた六文銭の旗の下にいたある若武者を思い出した、誰よりも澄んだ目を持った彼のことを。
「真田源次郎殿は」
「あの御仁を見たな」
「あの御仁、まだ若いですが」
「かなりの器であるな」
「ただ武芸が立つだけでなく」
「攻めるも知略も退くもな」
「どれもですか」
「見事であろう、しかも十勇士という家臣達もおる」
彼等のことも話すのだった。
「ならばな」
「あの御仁は武田家の中でも」
「お主は最も気をつけよ、他の御仁もかなりじゃが」
「真田源次郎殿は」
「特に強い、だからな」
それ故にというのだ。
「気をつけよ、あの御仁が攻めてきて退くならば」
その時はというのだ。
「お主も忍の者の力を使うのじゃ」
「半蔵の」
「他の者の力もあればな」
「その者の力も使い」
「何とか逃げよ、どうもお主はあの御仁には勝てぬ様じゃ」
幸村、彼にはというのだ。
「あの御仁とは出来るだけ戦うではない」
「真田源次郎殿の忍の者の力量ですが」
服部がこの話をしてきた。
「それがしが見ましても」
「恐ろしいまでであるな」
「はい、それがし以上です」
「天下でもそうはじゃな」
「おらぬまでの」
「忍の腕の持ち主じゃな」
「あの御仁と戦うとなると」
それこそとだ、服部はさらに話した。
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