クーぐだ♀ワンライまとめ
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第2回 花火(プニぐだ♀)
前書き
旧と二人だけで花火大会をする話(900文字程度)
キャスターの(ほぼ名前だけ)描写があります
「それじゃあ、」
「始めるとしようや」
サーヴァントとマスターは揃って腕を捲り――英霊クー・フーリン[プロトタイプ]にその動作は不要では、といった指摘は野暮だ――、見交わした両者の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。頷きあった彼らは地面に頼りなく立っている蝋燭の先端へ、手にした夏の風物詩を融かしてゆく。
「よし!」
「おっ点いたな」
ぼう、と炎が揺らめいた数拍後、暗闇に眩い光が勢いよく放たれた。自然と距離が開いた二人の間では、しゅるしゅると火花が散っている。思いの外心地のよい沈黙を破ったのは、主人の方だった。
「クー、みてて!」
それまで斜め下へと向けていた花火を摘み上げるように持ち直した彼女は、楽しげな表情から一変、凛々しい顔付きになったかと思えば虚空へ煌めきを振りあげる。ただ一人の観客として指名されたランサーは、描き出された見覚えのある軌跡を目で追い、それが何かを掴む直前――、
「アンサズ!」
「ぶはっ」
少女が叫んだのはとあるサーヴァントの技であり、青年が思い浮かべた答えでもあった。男と女、声の高さが違えば同じ言葉を発そうと、異なって聞こえるものなのだが。しかし、長い旅路を共にした仲だからだろうか、先程の一言は確かに少女の声でありながら、マスターを導こうとドルイドの真似事を自責しているらしいキャスターのそれで。
「どう? 結構似てたでしょ」
「急に何をやり始めんのかと思ったぜ。ああ、笑った笑った」
あっという間に燃え尽きてしまった棒切れをバケツの水に浸し、それぞれ新しい花を咲かせにかかる。次は一緒にと、今度は横に並んだ二人が各々のポーズと共に呪文を口にすれば、プロトタイプが構えていた火花は炎へと成長し、暗がりだった周囲が明るく照らされていく。
「うわっ、プロト危ない! 燃えてる燃えてる!」
「あー、意識してなかったんだが。悪い、すぐ消す」
至って軽く音にしたことが良かったのか、そうでなかったのか。やはり呪とは、易々と唱えるべきではない。そんな考えが一致したのか、消火した直後に溢れた二つの溜息が重なり一つになる。
「っ、花火なのに、ただの火だった、ふ、ふ」
「いやー、まさかだった、っく、くく」
小さな吐息はからりとした笑声へ、一瞬の無音を空けた後に爆笑へ転じてゆく。再び影を飲み込むほどの闇が広がっても、青年と少女、二人の響きはしばらくの間続いていたそうな。
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