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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep34信じがたきもの~Last interval~

「――ということで、時空管理局より私たちテスタメントとの協力関係を築きたい、との提案がされました」

13脚の幹部椅子に座っているハーデが、目前に展開された11枚のモニターに向かってそう告げる。それらに映るのは、マルフィール・イスキエルドを除く謹慎中の幹部たちと、今の今まで眠りについていたトパーシオだ。

「返答に関しては時間をもらっています」

『待ってもらっている、ということは、マスター・ハーデは迷っているということですか?』

ディアマンテが怪訝そうに尋ねると、ハーデは「私が管理局の申し出に応じるとでも?」と聞き返す。彼女の表情は目深に被られたフードで窺い知れないが、声色が不機嫌一色というのは誰が聞いても明らか。ディアマンテが居住まいを直し、コホン、と咳払いを1回。

『そうではありません。その提示に対しての答えは1つのみです。だというのに猶予を貰う必要があるのか、ということです。わざわざ我々に報告せずともマスター・ハーデの意思のままに“拒否する”でいいではありませんか』

『随分と突っかかってきますね、ディアマンテ。猶予をもらうそれの何が不満なんですか?』

1番小柄な少女、トパーシオがそう言うと、ディアマンテは『不満ではなく不安なんだ』と返した。彼にとっても管理局は敵、絶対の仇でしかない。だというのに協力体制となると、彼が再び手にした時間の中で組み上げた予定が全て崩れさる。それだけは何としても避けたかった。だから、彼は・・・。

『(ここまでだな。ハーデは確かに提案を拒否するだろうが、ここは完全に管理局と決別させるのが1番だ)・・・では、最後に1つだけ言わせてもらいます。我々の復讐(ねがい)を裏切らないでほしい、と』

幹部たちの会議は、ディアマンテのその言葉に対するハーデの「判っています。私がこの組織を作った理由、あなたも知っていますよね」という静かな返答によって終わった。会議が終わり、ディアマンテは自身の部屋でコンソールを操作していた。誰にも悟られぬよう、ある情報を纏め、とある場所に送信しようとしている。

(失敗だったな。ノーチェブエナが残っていれば、もう少しやり方があったが)

情報を纏め終え、ディアマンテは時期を見て送信しようとそのデータを保存した。管理局内部に居る彼独自の内通者への連絡も視野に入れる。そのデータがとある場所。そう、時空管理局に送られた時、そしてその内通者に連絡を入れた時、全ての歯車が彼の思惑のままに回り始める。

†††Sideシャルロッテ†††

私とクロノの居る“六課”に用意された会議室に、なのはとフェイトが呼ばれた。はやては未だに深い眠りの中。当然のことながらここには来られない。

「休んでいるときにすまない。局とテスタメントの状況が変わりつつある」

「何かあったの、クロノ君?」

「・・・ああ。上層部がテスタメントと保有技術力に恐れをなして、と言うよりは技術力に目がくらんで、テスタメントと協定を結ぼうと考えている」

なのはの問いにクロノが苦々しくそう答えた。なのはとフェイトの顔が信じられないといった驚愕の色に染まる。リンディさんから聞いた話だと、上層部は“テスタメント”の持つ技術力に、特に“女帝の洗礼”に目を付けてるって話だ。
管理局艦の魔導炉を一撃で再起不能に出来て、次元跳躍も行えるという技術。その技術を管理局に取り入れることが出来れば、今後の危険地域での制圧も簡単になるだろうね。ま、世論がどうなるか知らないけど。

「そ、そんな! だって、そんなことになったら――」

「落ち着け、フェイト。まだそうと決まったわけじゃない。向こうからの返答がまだだからな。だが、おそらく答えは・・・」

「突っぱねる・・・と、私とクロノは思ってる」

何せアイツらは改革と復讐という目的を持った、管理局の現体制と過去に怨みを持った集団だ。そんな連中が管理局と協力体制をとるなんて考えられない。だから間違いなくそんな提案を突っぱねる。

「だが上層部はそう思ってはいないだろう。僕たちしか知らない情報があるからな。・・・で、だ。そういうわけで君たち特務六課に、無期限の活動休止命令を下した」

「「無期限の活動休止!?」」

「テスタメントからの返答が来る前に、これ以上の関係悪化を望まない・・・ということだよ、なのは、フェイト」

少々熱くなり始めた2人を宥めるように、上層部の思惑を私なりに考えて言う。私が冷静でいることがなのはとフェイトには効いているのか、2人は椅子に座り直した。重い静寂が流れる。私ひとり動こうにも、前と違って独りで解決できるような問題じゃないのは判ってる。まさかここまで大事になるなんて予想できなかった。

「僕に出来ることがあれば何だってやりたいが、今は上層部に従うしかない。要件は以上だ。3人とも待機しておいてくれ。事態が動けばその時に呼び出す」

ここは従うしかない。私たちは「了解」と応えて、このことを他のメンバーに伝えるために“六課”のオフィスに戻ることにした。
そしてこの数日後、12月2日。事態は大きく動く。

†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††

夢を見る。以前にも似たような感じのもんを見たことがある。雪に染まる空と、私が今立っとる公園。“テスタメント”が動き出した日に見た夢と同じやつ・・・。

「主はやて」

「リインフォース!?」

声がする。リインフォースの声や。公園のどこを見回しても姿が見えへん。何度も「リインフォース!!」って呼びかけるんやけど、声がするだけで見つけられへん。

「リインフォース! どこに居るん!? 返事して!」

会って謝りたい。助けられなくてごめん、って。リインフォースに名前を呼ばれ、私も呼び返して捜す。それからどれだけ走り回って捜したやろう。変に疲労を感じながら、1本の木に手を付いて少し休む。夢やというのに妙に意識がハッキリとあるし、普通の夢やないことは薄々気付き始めた。

「主はやて」

「どこなん!? リインフォース!」

何度目かの叫び。それでも聞こえるんは「主はやて」ゆうリインフォースの声。今度は闇雲やなくて、声のする方をここで判断することにした。

「主はやて」

目を閉じて、しっかりと耳を傾けて、「主はやて」を聞いて・・・

「っ! リインフォース!」

今度こそ声の出所を聞き分ける。今まで以上の速さで声のする場所を目指して走る。少し走ってたどり着いたんは、木々に囲まれた噴水のある小さな広場。噴水の縁に座って俯いとるリインフォースを見つけた。

「リインフォース・・・」

ゆっくりと歩み寄って、目の前にまで近付く。するとリインフォースは私を見て立ち上がった。

「リインフォース・・・その、ごめんな! 私、リインフォースを守れへんかった! 今度こそ一緒に生きようって思っとったのに! それやのに、私は・・・私は・・・っ!?」

リインフォースは右の人差し指を私の唇に当ててきた。そして首を横に振って、見惚れてしまうほどの笑みを浮かべてきた。そんなリインフォースの笑みにボケーっとしとると・・・。

「主はやて。さぁ、起きてください。皆が待っています。そして私も、あなたを待っています」

「・・・私も? どういうことや!? リインフォースはもう居らへんのやろ!?」

夢やからかもしれへんけど、そんな期待させられるようなことをリインフォースは言うてきた。だから聞き返してみるんやけど、リインフォースは笑みを浮かべたまんまで何も答えてくれへん。

「我ら、美しきあなた(夜天)の下に集いし騎士。いつも貴女の側に・・・」

「リインフォース・・・?」

それと同時にものすごい吹雪が吹き荒れて、視界を完全に閉ざされてしまう。意識が遠のく――とゆうよりは、私が目を覚まそうとしとる。全てが白になる世界に向けて「リインフォース!」と呼びかけ続ける。

――また逢えますよ、“我が主”はやて――

最後に聞こえたんは、リインフォースの優しく穏やかな声やった。

「・・・ん・・・?」

目を開ける。最初に視界に入るんは白い天井。何度かお世話になっとる医務局の天井やというんはすぐに判った。首を動かすと、ベッドの側に置かれとる椅子に座って、ベッドにうつ伏せで眠る頭頂部が2つ見えた。

「ヴィータ、リイン・・・」

私は体を起こして、2人の頭を優しく撫でながら「ごめんな」って謝る。日時表を確認すると、時刻は8時過ぎ、日にちは11月やなくて12月になっとった。4日も眠っとったらしい。これはさすがに眠り過ぎやと思って、2人を起こさんように気を付けてベッドから出ようとしたんやけど・・・。

「・・・ん・・・ぅあ? はやて・・・? はやて!」

「ほぇ? どうしたですか、ヴィータちゃん・・・って、はやてちゃん!!」

起こしてしもうた。口元によだれを垂らした跡のある2人が勢いよく起き上がって、それはもう体当たりと言わんばかりの抱きつきをしてきた。何度も何度も私の名前を呼んでくれる愛おしい家族。私はそれに「ごめんな」って謝ることしか出来ひん。それから頭を撫でていると、ようやく2人も落ち着いてきた。

「はやてちゃんが全然起きないですから、リイン達は本当に心配したんですよ」

最後にリインがみんなの気持ちを代弁するように言うて、私は何度も「ごめんな」とか「ありがとな」を繰り返して、ようやくこのやり取りも終わった。
それからすぐに制服に着替えて、“六課”のオフィスに向かう。眠ってしもうてた時間を少しでも早く取り戻さなあかんからな。

†††Sideはやて⇒なのは†††

はやてちゃんがオフィスに顔を出した。もちろん隊は歓迎ムード一直線。4日間も眠っていた以上は仕方ない。

「みんなに心配かけてしまったことはホンマにごめん。でも私はもう大丈夫やから。これからもよろしくお願いします」

そしてはやてちゃんは、取り囲んでいるみんなに向かって勢いよく頭を下げてから敬礼した。私たちも「お願いします!」と敬礼、微笑みをみんなで交わす。はやてちゃんは一直線に部隊長の執務デスクに向かった。

「・・・ふぅ、ここに来るまでにヴィータとリインに聞いた。管理局がテスタメントに協力を求めとることも、六課が現在活動休止命令を受けとることも。そやけど・・・」

椅子に腰かけて、神妙な面持ちでそう切り出した。私たち隊長陣がはやてちゃんのデスクの前に集まる。

「うん。シャルちゃんとクロノ君も言っているし、私たちもそう思ってる。テスタメントはその提案を絶対に呑まない。それは、今私たちが判ってる彼らの目的に沿わないから」

「復讐と改革。そこに協力するという選択肢はない、とゆうことやな」

シャルちゃんに視線が集まると、シャルちゃんは「上層部は楽観してるけどね」と苦笑。そう、上層部はそうは考えていないようで、何度も“テスタメント”に協定を結びたいと提案しているとリンディさんから報告を受けてる。“テスタメント”からの返答は未だに無いようで、だからこそ私たち“六課”は動けない。

「起きても何も出来ひんとゆうことか。でも、なのはちゃん達は何か掴んどるんとちゃうか? まさか、ずっと何もせえへんと待機しとった、なんてことはないんやろ?」

はやてちゃんは、私たちを信じている、という笑みを見せる。確かにはやてちゃんの言う通り、私たちは何もせずに黙っていたわけじゃない。

「・・・うん、活動休止命令を受けたこの数日、私たちはひたすら情報を集めた。そして、信じたくない情報にたどり着いたよ」

フェイトちゃんがあるデータをデスク上に表示させる。はやてちゃんがそのデータを見終わるまで私たちは一言も話さなかった。どれくらいの時間が経っただろう。はやてちゃんは「ふぅ」と一息ついた。

「そうか・・・。これが真実なら・・・私は・・・」

はやてちゃんが両腕で顔を隠して、とても辛そうにそう呟いた。私たちだってこれが真実であってほしくない。何かの間違い、ただの偶然だと思いたい。
いろんな人たちの協力のもと、上層部に感付かれないように私たちが全力を以って調べ上げた情報。その内の1つが嘘だと思いたい悪夢のようなものだった。

まず1つは、復讐を目的としている幹部たちの死因の真実。
グラナードことメルセデス・シュトゥットガルト元三等空佐。彼はとても優秀な魔導師で、平和を愛し、管理局を信じていた。でも、当時の本局少将、現スチュード・ベーカー中将の犯罪組織との癒着を知った。それを公にしようとして、彼は謀殺された。

マルフィール隊ことデミオ・アレッタ元三等空佐、エスティ・マルシーダ元二等空尉、ヴィオラ・オデッセイ元二等空尉のアレッタ隊。
天然のAMFによる墜落事故死。それがアレッタ三佐たちの死因と公表されている。でも、それも違った。偶然の事故を装った必然の事件。彼らもまた上層部の一部の将校の不正を知り、それの口封じとして謀殺されてしまった。

「おそらく未だに正体の掴めないディアマンテとトパーシオも、これに準ずる殉職者で違いないかと」

「ベーカー中将。裏で結構ヤバいことやってるって、昔から囁かれてたよな」

シグナムさんとヴィータちゃんがそう付け加えた。私もベーカー中将の後ろ暗い噂話は何度か聞いたことがある。そしてトパーシオ。彼女の正体に関してはある程度判明していた。私たちが調べ上げた情報が確かなら、だけど。

「でもこれ以上の正確な真実は調べられない。下手をしたら首が飛ぶから」

フェイトちゃんの言葉に、はやてちゃんは「そうやな」と返す。クビを覚悟でいけばいいんだろうけど、今はまだここで脱落するわけにはいかない。時期を見てクロノ君たちの協力を確かにしてから動かないといけない。悔しいけど、悲しいけど、今はそれが最善だと思う。

「完全に隠蔽されていると見て違いないから、もうこの話は私たちには手に負えない」

でもこれは、あくまで噂などの確証の無い情報から立てた推測。証拠を掴もうにも、これ以上は越権行為になって追われる羽目になる。ううん、もしかしたらアレッタ三佐たちのように謀殺される可能性だってある。こういうのを危惧して、クイント准尉やティーダ一尉が“テスタメント”として存在している。

そしてもう1つ。前々から手を回して捜査していた“ミュンスター・コンツェルン”と“テスタメント”の関係。これはもう間違いなかく黒。管理局に協力的な内部協力者から、ここ3年の間に“オムニシエンス”への物資搬送が多くあったとのこと。あの砲塔群を造るための物資で違いない。設計図とかもあればと思ったけど、これ以上は協力者にも迷惑が掛かるために断念。

「アギラスもレジスタンスの武装も、ミュンスター・コンツェルンの作品のようやな」

はやてちゃんが“ミュンスター・コンツェルン”の捜査資料を見て苦々しく告げる。

「アギラス開発の確証はないけど、開発部が秘密裏に何か造ってたって話は出てる」

「レジスタンスの武装についても確証ではありませんが、そういう動きがあったそうです」

正直たった3日の間にここまで情報が集まるとは思ってもみなかった。巨大過ぎる大財閥“ミュンスター・コンツェルン”もまた一枚岩じゃない、ということだった。

「管理局への出資者が、テスタメントの後ろに付いとるとは、な。予想はしとったけど、ホンマに最悪としか言いようがあらへん」

重い空気の中、次の捜査資料の話へと進む。これが最も重要で、信じたくなくて、嘘であってほしいデータ。それが、“テスタメント”に漏れていた、公にされていない事件の捜査資料の数々。
管理している部署、局員はもちろんそれぞれ違う。でも、許可さえ取れればその捜査資料を閲覧することも可能だったりする。そして、“テスタメント”に漏れていた捜査資料を担当部署・局員以外で閲覧した局員を調べ上げた。

それぞれ全く関連性の無い局員ばかりで、それぞれの上官から頼まれて閲覧したのだという。その上官たちもまた、あまり互いの関係が少ない局員ばかり。さらにまた、その上官の上官という局員に頼まれた、と繰り返す。明らかに意図的に複雑化して辿られないようにしてある感じ。でも私たちは最後にまで辿り着いた。ゴールにあったある局員の名前。それが私たちが信じたくないという情報だった。

「・・・セレス・カローラ一等空佐・・・」

はやてちゃんの呟きに、私たちはまた黙りこむ。セレスさんは、JS事件が始まる前からの友人のような先輩だ。シャルちゃんのように明るく、誰とでも気兼ねなく接することで、その人の深いところまで入り込む。とても優しい先輩だった。それは今でも同じだ。

「正直あたしは信じたくねぇ。だってセレスはすごく良い奴なんだ。だから、これもなんかの間違いに違いねぇんだ。だってアイツ、あたしらの今住んでる家をくれたんだ。シャマルがいつまで経っても見つけられなかった家を、アイツは快くさ」

ヴィータちゃんの気持ちも解かる。誰だって信じたくなんかない、こんなこと。

「でも、これ・・・」

もう1つの捜査資料。それには今まで殉職してきた局員の名前が記されている。その中にはもちろんアレッタ三佐たちの名前を載っている。そしてその内の1つに、セレスさんが“テスタメント”との関係を思わせる名前がある。

「フィレス・カローラ三等空士。殉職。享年11歳・・・」

11歳。トパーシオの身長からして大体同じくらいの歳だ。改革と復讐を目的とした“テスタメント”。設立者がもしセレスさんなら、フィレス元三等空士を死に負いやった管理局を恨んでる、憎んでる・・・かもしれない。そうだった場合は動機としては十分だ。

「・・・シャルちゃん。1つええか?」

「どうぞ。私に言えること、出来ることなら何でも」

「セレスがホンマにテスタメントと通じとると思うか? そして、セレスが魔術師やと思うか?」

はやてちゃんは真っ直ぐシャルちゃんを見詰めて、そう聞いた。

「5年前まではただの魔導師だったのは間違いない。けど、もし彼女がヨツンヘイムの血を受け継ぎ、ギンヌンガガブの発見、ディオサの魔道書の入手によってその血が目覚めたのだとしたら・・・。あとは、判るでしょ」

はやてちゃんはデスク上に展開されているモニター群を消して、おもむろに通信端末を開いた。

「ここからは私の独断や。みんなに責任はない」

私たちがはやてちゃんのその発言に何か言おうとしたら、シャルちゃんが、任せよう、って視線を送ってきた。迷ったけど、私たちはそれに頷いて、私たちの隊長はやてちゃんのことを信じるために黙った。 
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