戦国異伝供書
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第六十八話 上洛に向けてその五
「今川家の方がどなたか残られればな」
「その方が駿河に戻られれば」
「後は何とかなる」
「今川家は残りますな」
「一万五千の兵と今川家の方と」
それにというんだ。
「朝比奈殿か我等のいずれかがいれば」
「今川家は大丈夫ですか」
「逆に言えば今川家の方に全て何かあれば」
その時のこともだ、雪斎はあえて話した。
「残っておられるのは寿桂尼様だけとなってしまう」
「今川家の方は」
「あの方だけとなる」
義元の母である、義元も今川家も陰で支えている聡明な尼僧である。
「それではな」
「最早ですか」
「当家は終わりとなる」
「それがこの度の上洛ですか」
「そうじゃ、だから本陣の守りもな」
それもというのだ。
「固めておこうぞ」
「それでは」
元康も応えた。
「その時は」
「ではな」
「その様に」
「とかく織田家は恐ろしい家になった」
これが雪斎の織田家の見立てだった。
「今の弾正殿の代になってからな」
「左様ですな、当家は相当頑張らねば」
それこそというのだ。
「勝てませぬな」
「このまま放っておくことも出来ぬ」
信長、彼はというのだ。
「放っておくとな」
「尾張一国からですな」
「伊勢や美濃を手に入れていき」
そうしてというのだ。
「瞬く間に恐ろしい勢力となる」
「はい、それこそ上洛するのは」
「織田家となるな」
「そうもなりますので」
だからだというのだ。
「和上は、ですな」
「織田家をな」
是非にと言うのだった。
「この度の上洛を抜きにしてもじゃ」
「放っておけませぬか」
「尾張一国で済む家ではなくなっておる」
「若しです」
酒井が言ってきた。
「織田家を放っておくと伊勢、美濃と勢力を拡げるのですな」
「そうなるであろう」
「では」
尾張に加えこの二国を手に入れると、というのだ。
「二百万石を超える」
「他の家を圧倒するまでにな」
「なりますか」
「だからじゃ」
「織田家は放っておけませぬか」
「あの家はな」
「勘十郎殿の件で織田家は完全に一枚岩になりました」
服部がここのことを話した。
「そのこともあり」
「うむ、強い家になったな」
雪斎は服部にも応えた。
「これまで以上に」
「どの城も守りは固く」
「清州城だけでなくか」
「丸根や鷲津の砦も」
三河との境に近いこの二つの砦もというのだ。
「おいそれとはです」
「攻め落とせぬな」
「そう思います、確かに織田家の兵は弱いですが」
このことでは定評がある、とかく尾張の兵は弱い。このことは常に天下で言われていることなのだ。
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