戦国異伝供書
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第六十六話 婚姻と元服その十二
「名を変えたやも知れぬが」
「それでもですか」
「織田家に急に来てか」
「弾正家のです」
「弟君の重臣になったか」
「片腕だとか」
「ふむ」
ここまで聞いてだ、雪斎は元康に述べた。
「では竹千代、出陣前であるが」
「はい、半蔵にですな」
「その津々木殿を調べる様にな」
「命じます」
「拙僧も僧のつてからな」
「調べて頂けますか」
「うむ、若しそれなりに才がある者なら」
そうした者ならとだ、雪斎は元康にこうも話した。
「幾ら名を変えていてもな」
「その素性はですか」
「拙僧も知っておる」
軍師として天下の才ある者を調べて頭に入れているからだ、それで雪斎も今元康にこう言うのである。
「それはな」
「左様ですか」
「そしてな」
「その者が何者かですか」
「調べよう、この度はその勘十郎殿の兵がじゃな」
「その様です」
「ならその津々木という御仁も出ておるやも知れぬ」
それでというのだ。
「ではな」
「はい、敵を知ることは」
「戦に勝つ第一歩じゃ」
それ故にというのだ。
「ここはな」
「そうしますな」
「出来れば三河に入るまでにな」
「調べて」
「どうするか考えようぞ」
「さすれば」
「さて、津々木蔵人とな」
義元もその名を聞いて首を傾げさせた、見れば氏真もそうなっている。
「聞いたことがないでおじゃるな」
「どうも」
親子で言うのだった。
「その名を聞いても」
「そうでおじゃるな」
「麿は知らぬだけでおじゃるか」
氏真もこう言った。
「その者の名を」
「いや、そなたどころか麿もでじゃ」
「和上もでおじゃるな」
「拙僧も不見識ということかと」
「いや、和上が不見識というのなら」
義元は雪斎の今の言葉にすぐに返した。
「天下は不見識な者しかおらぬでおじゃる」
「そう言って頂けますか」
「和上は天下でも屈指の名僧でおじゃるぞ」
このことは本当に言われている、雪斎の見識と学識の深さと広さは天下に知られていることであるのだ。
その雪斎がとだ、義元は言うのだ。
「それならでおじゃる」
「全くでおじゃる、しかし知らぬなら知ればいいこと」
氏真は己の考えを述べた。
「麿からの頼むでおじゃる」
「はい、その御仁のことを」
「和上は僧のつてから調べ竹千代は」
「忍から」
その元康が応えた。
「調べる」
「そうするでおじゃる、では出陣でおじゃる」
氏真も出陣する、それで言うのだった。こうして元康は義元達と共に三河に入ろうとしている織田家の軍勢を迎え撃つ戦で初陣を飾るのだった。
第六十六話 完
2019・9・15
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