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戦国異伝供書

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第六十六話 婚姻と元服その九

「出陣するでおじゃる」
「さすれば」
「無論軍勢の衣も具足も旗もな」
「松平家の色の」
「黄色で出陣するでおじゃる」
「そうですか、ですが」
 元康は今川家の家臣として義元に言った。
「今川家は」
「色はないでおじゃるな」
「それでも当家が色があるのは」
「ほっほっほ、色がないのも色でおじゃる」
 義元は元康の謙遜する言葉に余裕を以て返した。
「だからでおじゃる」
「よいのですか」
「そうでおじゃる」
 まさにという返事だった。
「麿も家の他の者達もでおじゃる」
「よいですか」
「そうでおじゃる」
「当家の黄色のままでも」
「現に今もおじゃろう」
 義元の余裕のある言葉は変わらない、その言葉のまま言うのだった。
「そなたが駿府に来てからも」
「黄色の衣であったと」
「そなたの家臣達もな」
 彼等も含めてというのだ。
「だからでおじゃる」
「それで、ですか」
「戦の場でもでおじゃる」
「我等は黄色ですか」
「むしろ黄備えの家としてでおじゃる」
 その立場でというのだ。
「武名も馳せるでおじゃる」
「それでは」
 元康は義元の言葉に頷いた、そうしてだった。
 初陣の用意にかかった、すると彼の元服と婚姻に大喜びだった松平家の家臣達が今度は祭りの様になってだった。
 戦の用意にかかった、そして彼に泣きつつ言うのだった。
「まさにです」
「遂にこの時が来ましたな」
「殿の初陣の時が」
「我等一日千秋の思いで待っていましたが」
「その時がです」
「ようやくですな」
「そなた達、そこまで嬉しいか」
 元康は彼等の言葉を聞いて彼自身泣きそうになって応えた。
「わしの初陣が」
「初陣こそ武士の誉れ」
「まさに一生で最もよきこと」
「殿がその時を迎えられたのです」
「嬉しくない筈がありませぬ」
「では殿」
「この度の初陣ですが」
 家臣達は元康に泣きつつ言ってきた。
「我等がおります」
「我等が殿の初陣を飾ります」
「必ずそうしますので」
「ご安心を」
「殿は采配に専念して下され」
「槍や弓矢のことはお任せを」
「そして御身のことを」
 こう言う、そしてだった。
 彼等の言葉を受けてだった、元康は感極まった顔になって述べた。
「やはりわしは果報者じゃ、そなた達がいてくれてな」
「そう言って下さいますか」
「我等がいて」
「その様に」
「うむ、忠義と武勇を兼ね備えた」
 まさにというのだ。
「そうした者達がおってな」
「左様ですか」
「殿のそのお言葉心に滲みまする」
「これ以上はなきまでに嬉しきお言葉」
「ではそのお言葉を胸に」
「我等はです」 
 家臣達はさらに話した。
「戦いまする」
「この度の戦においても」
「殿の手足となり」
「殿に武勲を捧げまする」
「いや、わしの武勲よりもな」
 元康は彼等に笑って話した。 
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