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戦国異伝供書

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第六十四話 婚礼の話その十

「多くの兵を擁しておりまする」
「確かな戦力でおじゃるな」
「はい、そして観音寺城も」
 六角家の本城であるこの城もというのだ。
「堅固なので」
「難敵でおじゃるな」
「そうです、そして特に」
「特に?」
「尾張です」
 今川家から見ればすぐに攻めるべきこの国はというのだ。
「織田家ですが」
「弾正殿でおじゃるな」
「あの方も問題ですが」
 それだけでなく、というのだ。
「問題はです」
「というと」
「その後です」
 弾正即ち信秀のというのだ。
「跡継ぎの吉法師殿です」
「大うつけと聞いているでおじゃるが」
「それは間違いです」
 雪斎は真剣な顔で義元に答えた。
「大きな」
「まさか」
「いえ、そのまさかです」
 義元、彼はというのだ。
「あの御仁は」
「そうでおじゃるか?」
「確かに奇矯な御仁ですが」
 それでもというのだ。
「恐ろしいまでの器です」
「そうでおじゃるか」
「はい、そして」
 それにと言うのだった。
「弾正家を継げば」
「その時はでおじゃるか」
「必ず織田家の主となり」
「そしてでおじゃるか」
「尾張もです」
 この国もというのだ。
「一手に握られ」
「当家の前にでおじゃるか」
「立ちはだかります」
「まさかと思うでおじゃるが」
「拙僧が見ますに」
「和上の言うことに間違いはないでおじゃるが」
 それでもとだ、義元は信じられないといった顔で言うのだった。
「あの御仁は」
「うつけ殿とですか」
「そうとしか思えないでおじゃるが」
「奇矯であろうとも」
「器はでおじゃるか」
「政も戦も」
 その両方でというのだ。
「恐ろしい方、それは」
「それはというよ」
「甲斐の武田殿や越後の長尾殿ともです」
「肩を並べるでおじゃるか」
「若しくはそれ以上の」
「そこまでの御仁でおじゃるか」
「間違いなく」
 断言での返事だった。
「あの御仁は」
「では」
「はい、敵となったなら」
 その時はというのだ。
「当家最大の敵となります」
「武田殿以上にも」
「なり得ますので」
 それだけにというのだ。
 
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