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戦国異伝供書

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第六十三話 成長その十三

「聞かれぬことです」
「それがよいでおじゃるな」
「目を見ればおおよそわかりまする」
「よき者か悪い者かは」
「よき者の目は澄んでおり悪き者の目は濁っておりまする」
「それは」
「孟子にもありますな」
 この書の話もするのだった。
「その通りにです」
「悪しき者はでおじゃるか」
「目が濁っていて顔の相も」
 これもというのだ。
「醜いものです」
「そうでおじゃるな」
「歪んでいたりしまする」
「そして目もでおじゃるか」
「濁っておりまする、異朝に趙高や王莽という者達がいましたが」
 雪斎はこうした者達の名も出した。
「平家物語にもありますな」
「最初の文でおじゃるな」
「あちらにある様にです」
「異朝の賊達でおじゃるな」
「それも只の賊ではなく」
 それこそというのだ。
「天下を乗っ取り乱そうとした」
「大悪人達でおじゃるな」
「これは安禄山も然りです」
 同じく平家物語の序文に出て来たこの者もというのだ。
「やはりです」
「賊でおじゃるか」
「はい、そしてこうした者達は」
 まさにというのだ。
「目は濁り顔の相もです」
「醜いでおじゃるか」
「悪しき生き様が目や顔に出て」
 そうしてというのだ。
「そうなりますので」
「そうした者達はでおじゃるか」
「決してです」
「話を聞かぬことでおじゃるな」
「そうして下さい」
 こう言うのだった。
「当家の為にも」
「さすれば」
「そして心ある者達の言葉は」
「聞くべきでおじゃるな」
「是非そうされて下さい」
「わかったでおじゃる」
「そうして頂ければ」
 まさにという言葉だった。
「当家は安泰です」
「それでは」
「そのうえでしかと政を行い」
「民を安らかにし」
「兵を整え」
「やがては」
 助五郎、北条家の者もいるのでそこからはあえて言わなかった。そうしてだった。
 雪斎はその助五郎にも穏やかな声で話した。
「助五郎殿、鯛は如何でしょうか」
「いや、刺身だけでなく」
「こちらもですな」
「実によいので」
 美味い、だからというのだ。
「それで相模に帰っても」
「食されたいですか」
「父上にも兄上達にも」 
 是非にという言葉だった。 
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