緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
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第1.5章(AA1巻) 切られし火蓋(リマインド)
第15弾 過去との交錯
前書き
第15話です
「……水蜜桃?」
マキが首をかしげるのも無理は無いと思う。こいつ———薄い水色の髪に幼さを残した感じの少女、水蜜桃は国家機密である『イ・ウー』の構成員なのだから。
———『イ・ウー』に関する事は迂闊に話せない。
話せば公安0課に消されるからな。
「本当に久しぶりだなぁ。最後に会ったの何年前だ?」
水蜜桃は笑いながら言う。
この態度、何処と無くイラつくな。
「……ッ。よくもまあ、ノコノコと俺の前に出てこられたな」
「知り合いなの?」
「知り合いって言えば知り合いだが———どっちかって言うと仇かな」
俺は腰のホルスターに手を伸ばしながら答えた。
「あんまり動くなよ。動くと穴だらけになるからな」
そう言った水蜜桃の手元をよく見ると、ガトリングガンが握られている。
「なっ!! どっから出しやがった!!」
「ずっと持ってたぜ」
マキの方へと軽く目を向けると、やはり俺と同じく動けないと言った感じである。
だが、あんなもの立ったまま扱える筈もない。
「お前そんなの撃ったら、反動で吹っ飛ぶんじゃねぇのか?」
「確かにそうかもな。普通のだったらな」
……普通の?
「こいつはイ・ウーの技師に改造されたやつでな。反動を抑えまくってるらしい」
……魔改造品かよ。よりにもよってガトリングガンを。
「このッ!」
俺は水蜜桃の前へと飛び出した。
水蜜桃は反射的に引き金を引いた。銃口からは無数の7.62mm弾が射出され俺の元へと向かってくる。
俺は屈んでそれらを躱し、低い姿勢を保ちながら相手の懐へと飛び込む。
水蜜桃は俺を追うように銃口を下へと向けていく。
しかし、かなりの重量のためか向ける速度は遅く俺には当たらない。
「……クッ!」
俺はM134の銃口とほぼ同じ位置まで近づいた。
これでもう射撃は当たらない。
そのまま相手の胸元に低反動モードに切り替えたDEの銃口を向けて発砲しようとした。
直後、俺の腕にワイヤーが結び付けられ、それをキャンセルする羽目になる。
「……ッ?!」
それはこの防弾制服にも使われているTNK繊維のワイヤー。
「……大丈夫、姉さん?」
声のした方を向くと人影があった。
「……夾竹桃!?」
黒髪で何処と無く根暗な感じの雰囲気の少女、間宮達が追いかけてるそいつがそこに居た。
「助かったぜ夾竹桃」
水蜜桃はそう言ってこちらに向き直す。
「……何しに俺の前に現れた」
俺は軽く睨みながら言った。
「そんなに怖い顔するなよ。私はただ、お前に会いに来ただけだ」
「……嘘つけ。どうせ、10年前と同じ事しに来たんだろ?」
「あんなに物騒な事は……一概にないなんて言えないな」
その言葉に、物凄い腹立たしさを感じる。
「それはそうと———お前、ちゃんと刀振るえるようになったか?」
「……」
俺は黙り込む事しか出来ない。
「期待外れかー。なんか面白く無いなお前」
———プツリ。俺の中で何かが切れた。
それと同時に俺は、縛られていない腕でベレッタを向ける。
「無駄よ」
夾竹桃がそう言うと同時に俺の体は動かなくなる。
正確には動けなくなった。
「……?!」
よく見ると辺り一面にワイヤーが張り巡らされている。
下手に動くと何処かがちょん切れる。
見落としてた……!
「こんな初歩的なことに気づかないとはなぁ。お前もだいぶ落ちぶれたな」
そう言って水蜜桃は笑った。
そして、M134を俺に向ける。
「———ここで死ねー!!」
M134が火を吹いたと同時に俺の周りのワイヤーが切断された。
俺は行動可能な事を確認すると、急いで伏せて攻撃を回避した。
「チッ、誰だよ邪魔したのは?」
銃撃が止むと同時に水蜜桃が口を開いた。
「私だよ」
刀を両手に握ったマキが答えた。
「邪魔しなければ死なずに済んだのにな」
水蜜桃は銃口をマキへと向け直した。
「馬鹿、止めろマキ! 早く逃げろ!」
だが、マキは逃げようとしない。
「まずはお前からだ!!」
水蜜桃は引き金を引いた。
「……?」
しかしM134は動かない。
「———その銃ならもう動きませんよ」
「……誰だ!!」
マキの背後から新たに人影が現れる。
それは、セミロングに整えた黒髪を一つ結びで纏めた少女。
背丈はマキより少し低い位である。
左手には鞘に収まった日本刀を持っている。
「……凛音!」
「騒がしいから来てみたけど———何してたのかしら」
彼女は沖田凛音。
鑑識科所属のAランク武偵。
去年、俺達と4対4の時にチームを組んだ奴の1人。
確か、名前の通り沖田総司の子孫だとか。
その影響か刀の扱いに慣れており、剣技に優れている。
「なんだ、お前?」
「通りすがりの武偵よ」
「このッ!」
再び水蜜桃は引き金を引く。
しかし、先程と同じくM134は沈黙している。
「この、動け!」
「言いましたよね、その銃はもう動かないと」
水蜜桃の姿を見ながら凛音は冷静な口調で言う。
「何でだ! 何したんだ!」
「何って———」
「———その銃の機関部を、既に私が斬ったから」
凛音の言葉に合わせるかのように声がした後、今度は木の上から人影が現れる。
こちらは、茶髪のセミショートの少女。
身長は凛音とほぼ同じぐらい。
腰には、身の丈程ある日本刀が差してある。
「歳那……?」
「久しぶり。4対4以来かな?」
彼女は土方歳那。
尋問科所属のAランク武偵。
凛音と同じく,1年の時に組んだ4対4のチームメンバー。
こちらは、土方歳三の子孫らしい。
凛音と同じく刀の扱いが上手い。
「お前ら、何でここに?」
「激しい銃声が聞こえたから見に来たの」
凛音の後に、歳那が続けて言う。
「そう、あまりにも煩くてね。文句言ってやろうかなと思って来てみたけど———」
2人は水蜜桃の方へと向き直す。
そして凛音が言葉を補うかの様に口を開く。
「まさかこんな事になってるとはね。そこの貴方、銃刀法違反で逮捕する」
凛音は、腰元から抜いた刀を水蜜桃に向けながら言った。
「面白いこと言うなぁ。でも、そこに足手纏いがいるのにどうやって私を捕まえるんだ?」
俺の事を示しながら言った。
確かに俺は———「そんな事ないッ!」———ッ?!
マキが叫んだ。
「シュウ君は———シュウ君は足手纏いなんかじゃない!」
水蜜桃はその言葉を嘲笑した。
「へぇー。そいつが足手纏いじゃ無いって言い切れるのか?」
水蜜桃は続ける。
「怒るとすぐに我を忘れて周りが見えなくなるような奴だぜ?」
挑発……いや、違うな。
「それに、そいつは1回———」
まさかアイツ、あの事を言うつもりなのか?!
「止めろ、それ以上言うな!!」
俺の必死の懇願は虚しく散った。
「———9条を破りかけた事もあるんだぜ?」
その言葉を聞いた瞬間、忘れかけていた———否、自ら忘れていたと言うべき記憶。
その記憶の全てが、一気に頭に流れ込むかのように思い出される。
「う゛う゛っ゛!」
俺は頭を抱えてその場に倒れこむ。
「シュウ君!」
「「?!」」
薄れ始めた意識の中、マキが駆け寄ってくるのが見える。
その奥では、凛音と歳那が硬直していた。
俺は何とか起き上がろうと試みるが、体に力が入らず起き上がれない。
「マキ、歳那! ここは一旦引こう!」
我に帰った凛音がそう叫ぶ。
「逃すかぁ!」
水蜜桃が叫ぶ。
水蜜桃を牽制するために、歳那がグロック18を取り出して発砲する。
俺は動かない体を無理に動かして、懐から武偵弾『煙幕弾』を取り出し投げる。
予め衝撃を加えた煙幕弾は、地面につくと同時に煙幕を張る。
「チッ、煙幕か」
煙幕弾がしっかりと作動したことを確かめた俺の意識は、誰かに背負われるような感覚と共に途切れるのであった———
いつもの朝と同じ感覚で目が醒める。
若干だが、視界がぼやける
だが、部屋の中は真っ暗だ。まだ夜間である。
アレ、確か俺は煙幕弾を投げて……どうなったんだ?
考え事をしながら、俺はゆっくりと上体を起こした。
それとほぼ同時に、寝室の扉が開きマキが入って来た。
同時に寝室の明かりもつけられる。
「……もう良いの?」
何処と無く不安げな表情を浮かべたマキが尋ねてきた。
「……ああ」
俺が短く返事をしたのと同時に、凛音と歳那が部屋に入ってきた。
「気がついたのね」
俺は凛音の言葉に頷いたまま俯くことしかできない。
この状況で俺はどんな顔をしたら良いんだ……。
「ねえ———」
マキの言葉に顔を上げる。
「———9条を破りかけた事は本当の事なの?」
「ああ、本当だ」
「どうして、そんな事を?」
「それは———」
次の言葉を紡ごうとした瞬間、再び激しい頭痛が俺を襲った。
「うっ!!」
「シュウ君!」
頭を抱えて悶える俺に、マキが寄ってくる。
「———大分辛い思い出なのね」
凛音が諭すように言った。
チッ、あの野郎良くも……。
「————そうだ、彼奴は?」
俺の問いに歳那が答える。
「水蜜桃とか言ったっけ? 逃げられた。いや、何とか逃げ切ったって言うべきだね」
「そうか……」
「その様子だと追いかけるつもりだったのね」
凛音に心の内を言い当てられた。
「今の貴方じゃ無理ね。少し休みなさい」
「そうするよ」
俺は再び横になった。
俺はどうするべきなのか?
自分ではどうして良いのかが分からない。
「冷蔵にあるもの使っても良い?」
凛音に声を掛けられたが、条件反射の要領で返事する。
「ああ」
あ、それからと凛音が続ける。
「今日ここに泊まっても良い?」
「ああ」
こちらも反射的に返事をする。
……ん? 今『ここに泊まる』って言ったんだよな。
で、俺は返事したわけだ。
「……ちょっと待て!」
ガバッと、勢い良く上体を起こした俺は叫ぶ。
「……何?」
扉のところから顔のみを出した凛音が尋ねてくる。
「何でここに泊まるんだよ!」
「何でって、もう時間も遅いし」
今の時刻は、午後10時過ぎ。
反論の余地無し……。
諦めた俺はそのまま横になる。
「……泊まってけよ」
降参という事で俺は凛音にそう言う。
「そういうと思った」
ニッコリしながら答えた凛音は、リビングへと戻って行った。
溜め息を吐いた俺は、左腕を額へと持ってくると、そのまま眠りに着いた———
深夜に目が醒める。理由は寝汗だ。それも尋常じゃない程の量の。
魘されていたのかもしれない。
シャワーでも浴びようかと起き上がる。
ここで俺は自分の置かれた状況に気がつく。
周囲を女子に囲まれているのである。
何処と無く部屋の中が甘く感じる。
オイオイ……マジか。
勘弁してくれよ……。
自分が寝ているベッドとは反対側にある二段ベッドの下段に目をやる。
そこには穏やかな顔で眠っている凛音がいた。
こうやって見るとやっぱし可愛い……人の寝顔を見ながら何を思ってるんだ俺は!
あそこに凛音が寝ているということは、上段に寝ているのは歳那だな。
あの2人は仲が良く、本人達曰く女子寮の部屋も2人で住んでるとの事。
で、俺の真上はマキで決定かな。
そう結論付けた俺は、そっと寝室から抜け出す。
そして、自分の部屋へと入り着替えを取ると、そのままシャワー浴びて自分の部屋のベッドで眠りについた———
翌日の早朝。
防弾制服を身に纏った俺は、看板裏へとやって来た。
そこに1人の足音が近づいて来る。
俺は振り向きながら言葉をかける。
「来たね」
俺の視線の先にいるのは———マキだ。
家を出る時マキの携帯にメールを入れて呼び出し、時刻を指定したが———1秒のズレもなく現れたよ。
「話って何?」
早速マキは本題に入ろうとする。
「それはね———っと、本題に入る前に」
俺は左右の腰にあるホルスターからDEを抜き、マキの後ろにある木と看板の上に向ける。
「出てこいよ。怒ったりしないから」
すると、木の陰から凛音が、木の上から歳那が姿をあらわす。
「え? 歳那が凛音と同じところにいた? じゃあアレは———」
少し予想外の状況に俺は眉をひそめる。
すると看板の上に人影が———って、飛び降りてきた?!
唖然としていた俺は即座に受け止める体勢に移ろうとした。
「……あ」
どういうわけか俺は、バランスを崩してしまい背面から地面へと倒れて行く。
そして、上から落ちてきた奴が俺に衝突した。
その後俺は、地面へと叩き付けられる。
「ゴヘッ!」
自身に掛かった重力加速度に、結構な高さから自由落下を行い速度の付いた奴の勢いもあり、結構な衝撃をもらった。
「シ、シュウ君?!」
マキの声に頭を抑えながら目を開ける。
「痛って……」
この場面だから敢えて聞こう。
———空から女の子が降ってくると思うか?
この場合はYESだ。
実際に降ってきたのだから。
アリアが。
「ッ———! しっかり受け止めなさいよ、このドベ!」
聞いた? 開口1番の台詞がコレだよ。俺もう泣くよ?
ヒョイっと立ち上がったアリアはポンポンと服の汚れを払っている。
何故か、制服以外の服着てるんだが。
「なあ、なんの格好だそれ?」
「見てわかんないの? チアよ」
「アドシアードのか?」
「そうよ」
アドシアードとは毎年5月に行われる催しで、世界中の武偵高から選りすぐりの武偵が来る。
言わば武偵達の祭典と言った所だ。
しかし、それのチアねぇ。
……違和感しかねぇ。
「あんた今失礼な事考えてなかった?」
怪訝そうな顔をして聞いてくる。
「何も」
紙回避でアリアの言葉を流す。
しっかし痛かったな……。
アリアじゃなきゃ死んでたかもな。
「……風穴」
アリアがホルスターからガバメントをチラつかせる。
「落ち着け」
俺は彼女を宥める。アリアは、何処か不満そうな表情を浮かべながら腰に手を当てた。
———ていうか、こいつはエスパーか。
「凛音と歳那がここにいる理由は大体分かってる。で、アリアは何でここに?」
「聞きたいことがあってね」
聞きたいこと?
「何をだ?」
「手紙の件」
ああ、メヌエットに渡したやつね。
「しっかり渡したけど。あ———」
自分の制服の内ポケットから1通の手紙を取り出す。
「これお前にってメヌエットから」
俺の渡した手紙を受け取ったアリアは、ありがとうと言って手紙の裏を確認する。
「確かにメヌの書いた字ね」
そりゃあねぇ、目の前で書いてもらったやつだし。
「で、用事は済んだか?」
「まだよ」
まだあんのかよ……。
「……で、その用件とやらは?」
「あんたに頼み事よ」
頼み事ねぇ……。
「悪いけど、今は受けられない」
「なんでよ」
「今厄介ごとに当たってるんだ」
頭をかきながら答える。
そして、マキ達の方へと向き直る。
「マキ、凛音、歳那———これから話すことを聞いたら後戻りできなくなるけど良いか?」
3人を見ながら俺は言った。
これから話すことは聞いたら最後、これから一生背負って行くであろうことに巻き込んでしまう。
出来る事なら、俺はこいつらの事を巻き込みたく無い。
だからこうして最後にもう一度聞いた。
3人は頷いた。
覚悟はできていると言うかのように。
ついでにアリアの方に視線だけやると、『早く言いなさい』と言うように腕を組んでいた。
少し間を置いてから口を開いた。
「———この話をする前に、俺自身のことも聞いてもらいたい」
そう前置きして話し始める。
「俺の名前———樋熊シュウヤって言うのは、偽りの名だ」
「「「「え?」」」」
一同は衝撃的な顔をする。無理も無いと思う。
俺もあいつらの立場なら同じ反応をしたと思う。
だがこれは、紛れも無い事実。
「じゃあ、あんたの本当の名前は?」
「———平山。平山柊弥。それが俺の本当の名前」
「平山? 平山ってあの平山行蔵の?」
凛音が驚いた様に言った。
「そう、俺の先祖は平山行蔵」
俺は平山行蔵の7代目か8代目の子孫。
「……平山行蔵って誰?」
マキが首を傾げた。
知らないのも無理はないな。
あまり知られた人では無いと言うのが正直なところだから。
「平山行蔵は江戸時代の兵法家、つまり武術家だね。確か『講武実用流』って言う流派を開いた人だった筈」
凛音がマキに説明する。
「凛音の言う通り。平山行蔵は兵法家であり『講武実用流』を開いた人」
「つまりシュウ君はその講武実用流の継承者って事?」
「そう言うこと」
俺は幼い頃、講武実用流に関することはだいたい習ったからな。
そもそも講武実用流と言うのは、『忠孝真貫流』と呼ばれる剣術を中心に、槍術、柔術、砲術などの多彩な武芸を纏めたもののことを言う。
あ、でも砲術は習ってないな。
代わりに銃火器の扱い方を教え込まれたけど……。
「そういえば、今使ってる名字は一体どうしたの?」
「これは俺を引き取ってくれた親戚の名字をそのまま使ってる。一応住民登録とかもこの名前で入ってる」
「……講武実用流に剣術入ってたよね?」
歳那が口を開いた。
「あるよ。それがどうした?」
「あの剣術は一刀流の流れを汲んでるはず。どうして貴方は二刀流なの?」
そう来たか。
また、ややこしい方に転がりそうだな。
「それは、俺が宮本武蔵の血筋も受け継いでいるからだ」
「「「「え?」」」」
……やっぱり戸惑うよな。
そう、俺は僅かであるが宮本武蔵の血を引いている。
もう一度言う。僅かだが。
「あの剣豪の?!」
「そうだよ」
だから凛音さん落ち着いて。
「まあ、俺のルーツに関してはこんな感じ。なんか質問ある? 無いなら先に進むけど」
一同は無言だった。俺はそれを肯定として受け取り次に進む。
「次はあいつ……水蜜桃との因縁かな」
俺はレインボーブリッジを観ながら話し始める———
10年前、俺は青森から秩父の山奥に越して来て住んでいた。
そこは平山一族が住んでいる場所。
そこで、色々な技術を学んでいた。
武器の扱いから戦闘時の動作、人間の急所や一撃必殺———と言った、殺しの技術も交えたりしてた。
そして俺は、平山に代々受け継がれる刀『霧雨』と宮本側から受け継いだ刀『雷鳴』をこの時にもらった。
そんな風な日常を家族や従兄妹達と過ごしていた。
だが、その日常も崩れた。
突如として現れ襲撃して来た『イ・ウー』の奴らによって。
一瞬で戦場へと変わったそこで、俺は生きる為に走った。
その途中で俺は水蜜桃に捕まった。
奴は、珍しいものを見つけたと言う様な顔をした。
瞬間的に危険を感じた俺は相手の脛に蹴りを入れた。
水蜜桃から解放された俺はひたすら走った。
そんな俺に対して、水蜜桃はARを放ってくる。
放たれた弾のうち1発が、俺の足を掠めた。
俺は痛みを堪えてまた走り出すと茂みに隠れた。
その時の俺は恐怖と痛みに涙を流していたと思う。
そして俺はやり過ごすことができた。
ただ、自分が生き延びる代わりに、俺は家族と生き別れてしまった。
その後、俺は親戚に引き取られ小学校に入学した———
「そこでマキ、お前に出会った」
俺は視線をレインボーブリッジからマキへと向け直す。
「私と出会う少し前にそんな事が……」
マキは深刻そうな顔をした。
「でも、それと9条破りがどう言う関係があるの?」
凛音がすかさず口を挟む。
「それは、去年の2学期の終わり頃、あいつと再び対峙したんだ。その時の俺は、ただただ相手に憎しみなどの感情をぶつけるような戦いしか出来なかったんだ」
未だに抱いている自責の念を押し殺しながら話を続ける。
「その時、水蜜桃が連れてきたその辺のゴロツキが一般人を人質に取ったんだ。それを見た瞬間から記憶が無くなった」
俺はそこで、一度言葉に詰まる。
だが、やや強引に言葉を紡ぎ、話を続けるのだった。
「——— そして、気がつくと血塗れで倒れているゴロツキが目に入ったんだ。そして手元は血に塗れた刀が両手に握られていた。そこで初めて自分が何をしたのかに気付いた。自分が人を殺めようとした事に。その日から俺は剣を握る事を辞めたんだ」
俺は俯きながら言い切った。
「つまり、あの時は手を抜いたわけじゃなかった?」
アリアが聞いてくる。
「言った筈だ、『昔ことを思い出した』って」
「そういえば言ってたわね。でも、どんな感じなの?」
その言葉に思わず拳を握る。
「お前の時も、ハイジャックの時も、刀を人に向けて振るたび思い出されるんだ。あの……血に塗れた惨状を!」
「……だからシュウ君は真剣を私に?」
俺は頷く。
「またあの惨状を繰り返してしまうかもしれない。そう思ったから預けたんだ」
握った拳を解き再び握る。
「要するに自分から逃げてたってことね」
アリアに言われた。
全くもってその通りだ。
「……そう、俺はひたすら自分から逃げてきた。多分怖かったのかもしれない。それと同時に自分が武偵失格だと思ったんだと思う。だから、一時期武偵を辞めようとまで思った」
これは本当の話だ。
俺は自分がこの職業に向いてないと思ったからだ。
「でも、マキが逆刃刀をくれたおかげでこうして武偵高に居られた。それに決めたんだ。もう運命に背を向けて逃げ出さない。立ち向かうって」
「だから、刀を取りに来た?」
「うん。自分の覚悟を示すために」
今まで俺はこの刀———『霧雨』と『雷鳴』を受け継いでから自分の覚悟は全てこの刀に託した。
今回のこともその1つ。
「俺は———あいつを倒す」
ただ1つの目標であると同時に、これ以上悲劇を繰り返さないために。そして、己自身を越えるために。
「倒すって、相手の居場所は分かってるの?」
凛音に言われる。
「ああ。ここに来る前に通信学部に寄って居場所は特定済みだ」
「仮にこちらから強襲するとしても、いつ実行するの?」
「……今夜。今夜実行する」
「今夜?! いきなり過ぎない?」
凛音が驚愕する。
「わかってる。でも、ここで取り逃がすと次に現れるのがいつかが分からない」
「だから今夜……」
「ああ。だから、頼みがある。奴の強襲を———」
「『———手伝ってくれないか?』でしょ?」
マキが言った。
読まれてたか、俺の言いたい事。
「私は元からそのつもりだよ」
マキはそう言った。
凛音と歳那の方を見ると頷いていた。
それにとマキは続けた。
「シュウ君を悪くいう人は絶対に蜂の巣にするんだから」
……物騒だな。
でも、これはある意味口癖みたいなものだもんな。
同時に、マキが俺の事を思ってくれているという証拠でもある。
「あたしも良いわよ。でも、こっちも別の仕事があるからどうなるかわからないわ。一応助っ人でも呼んでおくわ」
「……みんな。ありがとう」
ただただ感謝する事しか出来ない。
「必ず捕まえよう、水蜜桃を」
マキの言葉に返事を返す。
「ああ。もちろん!」
「で、この作戦に名前とかはあるの?」
アリアに聞かれる。
「あるよ。作戦コード———」
俺の全てを込めた作戦。
故に、作戦名はこうだ。
「———『/』」
この後知ることになるのだが、この日はアリアの戦妹間宮あかりが夾竹桃を逮捕する為に行った作戦コード『AA』の実行日であった。
後書き
今回はここまで。
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