緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
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第1章(原作1巻) 緋色の改革者(リフォーマー・スカーレット)
番外編 〜Chasing(追跡)〜
前書き
番外編です。
時系列は4話と5話の間です。
屋上を後にした俺は依頼者の元に向かうために学校を出ようとしたが、ここであることに気がついた。
依頼者がいるのはここ、東京武偵高であった。
ついでに、その依頼者がいるのは、隅々まで危険な東京武偵高で三つの指に入る危険地帯の一画である教務科である。
この時点でいい予感はしていなかった。
そして、教務科にある職員室の前に着いた俺は恐る恐る扉をノックし開けた。
「失礼します……」
「おお、きたか……って、なんや樋熊か。なんの用や?」
「探偵科で取った依頼の件で———」
「なんや、あの依頼取ったのお前なのか」
一瞬、俺の頭の上に? が浮かんだ。
そして、ある考えが頭をよぎる。
「まさかとは思いますが、今回の依頼者は———」
「ウチや」
———嘘だろ。なんで探偵科で取った依頼の依頼者が武偵高の教師なんだよ! やっぱり武偵高は普通じゃねー!
今回の依頼者が蘭豹。
その事実に俺は、心の中で叫ぶことしかできなかった。
「あら、樋熊君。どうしたの?」
心の中で叫んでいる俺に話しかけてきたのは、探偵科の高天原ゆとり先生だった。
「いえ、なんでもないです……」
「あ、そういえば蘭豹先生の出した依頼を受けたの樋熊君だったわよね?」
「はい……」
「じゃあ、蘭豹先生から説明があるそうですよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「よし樋熊、説明するぞ」
「お願いします……」
俺は絞り出すような声でそう言うのだった。
「今回の依頼は、ある人物を調べてもらいたい」
「ある人物? 何かの標的ですか?」
「まぁ、そんなところや」
「わかりました。その人のことを調べればいいんですね?」
「ああそうや。で、これがターゲットの写真や」
「どれどれ———」
そこに写って居たのは、スーツを着た20代前半の男性。
あれ、これってもしかして、もしかするんじゃ無いの?
「———先生」
「なんや?」
「今回、身辺調査ですか?」
「そうや」
あくまでも、仮説にしか過ぎないのでその考えはあえて言わない。
間違ったことを言って殺されたく無いので。
「ちなみに、この標的の名前は?」
「山本翔太。それが、その男の名前だ」
「他に手がかりは?」
「住所ぐらいや。所在は青海ってことぐらいや」
青海って、このあたりじゃ無いですか。近くて良いけど。あそこの何処にいるのだろうか……。
「この人の素性を調べに行けばいいんですね?」
「そうや。頼んだで」
「分かりました。失礼しました」
こう言って俺は教務科を出た———
———ゆりかもめに乗って青海に着いた俺は、何処を探すのかの目処を立てていた。
正直言って何処を探したらいいのかがわからないので、取り敢えず聞き込みをすることにした。
結果ですか? ほとんど収穫無しですよ。
あまり成果が得られなかった聞き込みをやめ、俺は街の中を散策することにした。
ここ青海地区はかつては倉庫街であったが再開発され、今は億ションとハイソが建ち並ぶおしゃれな街となっている。
こんなおしゃれな街に今回の標的がいるとは、やっぱり俺の仮説はあっていたのだろうか?
などと考えながら歩いていると武偵高の制服を着ているやつを見つけた。
何か依頼を受けてきたのだろうか。
取り敢えず、何か知っているかもしれないので聞きに行ってみることにした。
「おーい」
「ん?」
俺は呼んでから気付いた。
最も会いたくないやつであったということを。
「やあ樋熊君。元気かい?」
「元気なわけありません……」
こいつは、強襲科所属2年のBランク武偵の石田カズマ。
俺と同じ学科であると同時に俺の苦手なタイプの人間である。
こいつは、普段はおっとりとしたマイペースを貫くタイプであり、バカである。
この二つがマッチングして話す内容がフリーになりすぎてしまいついて行けない。
つまり、馬が合わないという感じなのである。
しかし、こいつは強い。
強襲科のBランクの奴らの中でおそらく一番強いと思う。
実際、俺は一度こいつとの模擬戦で負けそうになったことがある。
まぁ、最後はこいつが自爆するという異例なことが起こって逆転勝ちしたけど……。
「こんなところで何してるんだよ……」
「見た通り依頼さ」
見てわかるかっつーの。分かんねーから聞いてるんだよ。
「何の依頼だよ」
「治安維持だって」
「治安……維持?」
「うん。街の警備だって」
どんな依頼だよ。
武偵高はそんなのどっから受け付けてるの?
おかしいだろ絶対。
「そうか……。まぁ、頑張れ。ところで、この男の人見かけてないか?」
「どれどれ? あー、この人さっき見たよ」
お、ここで有力証言獲得。
「本当か? それはどこでだ?」
「本当だよ。確かここから500メートルぐらい後ろのところですれ違ったよ」
「分かったありがとう。警備頑張れよ」
「樋熊君もね」
そう言って俺は、標的の目撃証言のあった地点に走って向かおうとした矢先、どういう訳か地面に落ちていたバナナの皮をカズマが踏んだ。
「へ?」
「は?」
———ドボン!
そして、バナナの皮を踏んだカズマは滑って転倒———ではなく直ぐ真横の海に落っこちた。
「カズマァ!」
入水からおよそ3秒後、カズマが上がってきた。
「ふー、危ない危n———あ、この場所速i……スボボボボ……ボハッ! 助けて……流され……スボボボボ!」
しまった、あいつはカナヅチだった。
しかも、ここ流れが早いな。
仕方ない、助けに行くか。
「落ち着け! 今助けに行くッ!」
そう言った俺はブレザーを脱ぎ、ワイシャツとズボンの状態で海に飛び込む。
ザバァーン!
「よし、今助けn———あ、この海深i……ズボボボボ」
……やっちまった。
なんでカズマの事助けようとしたんだろう———俺泳げないのに!!
俺は何を隠そうカナヅチである。完璧に泳げないわけではないが、人並みには泳げないのである。
実際にクロールと平泳ぎそれぞれ100メートル泳ぐことができない。
しかし、25メートルは泳ぐことができる。遅いけど。
逆に言えば、25メートルは泳げるのでギリギリその範囲内で溺れてるやつなら助けることができる。
因みに、水に浮くことはできる。
なんとかして浮かんだ俺は、カズマとの距離を測る。目測で21メートルほど。
ギリギリ助けられるが、流れが早い。
「カズマァッ!」
「ボハッ! 僕はまだ死にたくない……助けて樋熊k……ズボボボボ」
「君たち大丈夫かい!!」
どうするか考えていると1人の男性が岸に立っていた。その男性に向かって俺は叫ぶ。
「すいません! そこにあるブレザーの左ポケットから腕時計出してもらえませんか!」
「わかった! ちょっと待ってろ!」
そう言って男性は、俺のブレザーの左ポケットから腕時計を出す。
「これかい!」
「それです! その、右側のツマミを思いっきり引っ張ってもらっていいですか!」
男性は俺の指示した通りに腕時計をいじる。
すると腕時計の文字盤の12側から、フック付きの極細ワイヤーの先端が飛び出した。
「その先端を掴んでこっちに投げてもらえませんか!」
「わかった! 行くぞ!」
そう言って、男性はワイヤーの先端を俺の方向に投げてくる。
そして、ワイヤーの先端を掴んだ俺はベルトにフックを引っ掛ける。
「そのまま、持っててもらっていいですか!」
「わかった!」
男性に支えを頼んだ俺は、自分のベルトのワイヤーを引っ張り出してカズマの方に投げる。
「カズマ! 掴め!」
カズマがワイヤーを掴んだのを確認して俺はベルトについているワイヤーを一気に巻き上げて、カズマを自分の側へと手繰り寄せる。
そして、男性にワイヤーを巻き上げてもらうように頼む。
「もう一回ツマミを引っ張ってもらってもいいですか!」
男性がツマミを引くと俺とカズマは物凄い速度で岸の方に引き上げられて行く。
———シュルルルルッ!
何とか岸に上がった俺とカズマ。
「すいません……ハァハァ……ありがとう……ハァハァ……ございます」
「無事で良かった。ところで君達は何をしていたんだい?」
「えっとそれは……「水遊びです!」……って、コラ、カズマ何を言ってる! ふざけるなァァァ!!」
コイツ……どういうつもりなんだよ……!
「何ですかー?」
「お前、誰のせいでこうなったと思っている!」
「サァー」
「貴様ァァァ!」
俺は某社長の様に抗議の声を上げた。
「ふ、計画通り」
「コイツー……」
「あのー」
カズマと会話していると男性が口を開いた。
「あ、すいませんちょっと待ってもらっていいですか?」
「あ、はい」
男性は少し引きながらも了承してくれた。
「カズマくん、少しO☆HA☆NA☆SIしようか」
「え、今何と? (難聴)」
「だから、O☆HA☆NA☆SIしようって言ったの」
「えっと、O☆HA☆NA☆SIに応じたら、い、痛いことはしませんか?」
「え、うん、そうだね」
「だが、断る!」(`・ω・´)キリッ
ドヤ顔でそう言うカズマを、俺ばこう告げた。
「あ、そう。じゃあ、あっち逝こうか」
「ヤバイ、死んじまう。に、逃げるんだ〜」
「何処へ行く?」ガシッ
「や、やめろ! HA☆NA☆SE!」
「ん、それじゃあお話しようか」
「そっちじゃない! この手をHA☆NA☆SE!」
「離したら大人しくしてくれる?」
「も、勿論!」
「だが、断る!」
当たり前じゃあないですか?
「あんまりだァァァ!」
「ところでさ、さっき『計画通り』とか言ってたけどどの辺が?」
「違う! 粉☆バナナ! ……じゃない! これは罠だ!!」
いや、どんな間違いだよ。
「取り敢えず、行こうか」(^言^)
「やめろ〜、死にたくない、死にたくな〜い!!」
「DA☆MA☆RE!」
「行ってしまった……」
———数分後———
「すいません、お待たせしました」
「あ、うん、そんなに待ってないよ……」
「えっと、助けてもらったお礼がしたいのですぐ側の喫茶店にでも行きませんか?」
「お礼なんて、そんないいのに」
そう言って男性は食い下がった。
「いえ、危ないところを助けてもらったのでしっかりとお礼はさせていただきます」
「じゃあ、そうして貰おうかな」
「行きましょうか」
「ところで、もう1人の方は?」
「呼びましたかー?」
ヒョイっ、と俺の背後からカズマが顔を出す。
「あ、いた(なんで無傷なんだろう……」
「あ、こいつのことは気にしないでください」
「もしかして、顔に出てた?」
「ええ、なんとなく。こいつが何故無傷なのかが気になってるっていうような顔してたんで」
俺は包み隠さず本当のことを伝えた。
「はは、こりゃ、隠し事はできなそうだね」
「平常を装っていた方がいいですよ」
「そうみたいだね」
「まぁ、通称が『人外』ですからね」
「君は少し黙ろうか」
「ウィッス」
ここで、気になっている人もいると思うので補足を入れておくが、今着ている制服は乾いている。
なぜかと言えば、装備科の平賀さんに制服を届けて貰ったからである。
ただ、配達料はめっちゃくちゃ高いけど。料金は、今回の騒動の当事者持ちである。
「———以上の理由から、制服は濡れていないと」
「一体、何のことを言っているんだい?」
「気にしないでください。取り敢えず行きましょう」
〜武偵移動中〜
というわけで、近くの喫茶店にやって来た。
座っている席は大通りに面した窓際の席である。
その窓から何気無く外を見ていると武偵高の生徒の姿が見えた。
あれは確か強襲科の奴だったかな。
多分依頼でこの辺りを訪れているのであろう。
俺は視線を目の前の男性へと戻した。
「改めて、助けていただきありがとうございます」
「そんな改まらなくても」
そう言った男性は微笑んだ。
対面に座って改めて顔を確認すると、アレ? 今回の標的じゃんこの人。
「君達は武偵高の生徒だよね?」
「はい。それがどうかしました?」
俺の問いに男性は、実はと言って答えた。
「僕はあまり武偵というものを信頼出来なくてね。あまりいいイメージを持て無いんだ」
この人の言っていることはよくわかる。
武偵という職業は、世間的に観ても賛否が分かれるものなのだ。
特に武偵を育成する機関などはその中でも風当たりが強いのである。
早いうちから銃などを握らせるという所が批判が多い理由になっているのだと思う。
反面、武偵に憧れを持つ者も多い。
キンジはどうだか良く分からんが、俺なんかはその部類だ。
この人は、武偵という職業をあまりよく思っていないのかもしれないな。
「でも、君達は少し違うかな」
唐突にそう言われた俺は驚いた。隣に居るカズマは———ドリンクバーにあったメロンソーダを飲んで御満悦的な顔をしていた。
相変わらずマイペースだなこいつ。
「なんだか見ていて、普通の高校生みたいだからね」
「普通の高校生ですよ」
男性の言葉に対して俺はそう返した。
「基本的には、ね」
そう付け加えて、隣を見た。
それを聞いた男性は、分かってくれたらしく苦笑いしながら言った。
「確かにそうかもね」
ここで俺はあることに気づく。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
そう言って自己紹介をした。
「東京武偵高2年強襲科所属の樋熊シュウヤです」
俺に続いてカズマも自己紹介した。
「東京武偵高2年強襲科所属、石田カズマです。宜しく」
相変わらず、何処と無く軽い自己紹介だな。
「山本翔太です。翔太で構わないよ」
と言った感じで自己紹介が終わった。
すると翔太さんがいきなりこういった。
「ほぼ初対面だけど、僕の相談に乗ってもらってもいいかな? お礼の代わりとして」
「いいですよ。カズマは……放っておこう」
「え、酷く無い?」
「だって、お前こういう事で当てにできないし」
「そんなの聞いてみなきゃわからないだろう?」
一理あるな。
「2人ともOKってことでいいのかな?」
「はい」
そう返すと、翔太さんは実はね、と言って話し始めた。
「僕は近々お見合いをするんだ。でも僕は、あまりそういうのをしたく無いんだよ」
そう言った翔太さんは少し俯きながら続ける。
「でも、断りにくくてね。僕の家は昔から厳しくて、親の言うことが絶対みたいな感じの家なんだ。2つ上の兄さんがいるんだけど、彼もまた親の紹介した人とお見合いして結婚した後家を出たんだ」
俺はここで質問した。
「どうしてお見合いが嫌なんですか?」
「僕には、好きな人がいるんだ。できることなら僕はその人と結婚したい。けど、親にそのことを伝えていなくてお見合いする流れになったんだ」
今度はカズマが問いかける。
「どうして伝えていないんですか?」
「恥ずかしい話だが、伝えるのが怖いんだ。親に何て言われるのかが想像がつかなくてね」
この人は多分だが、親に反抗したことが無いのだと思う。
だから、自分の意見を通せないままここまで生きてきたのかもしれない。
「僕は、どうするべきなのかな?」
翔太さんはそう言い、俯いた。
「自分の意思はしっかり伝えるべきです」
俺はそう答えた。
「僕もそう思います」
カズマも続けてそういった。
「でも———」
「翔太さん」
俺は彼の言葉を遮った。
「自分の意思ははっきりと自分の口で伝えるべきです」
「けど……」
「何も行動を起こさずに決めつけるのは、いいことだとは思いません。それとも翔太さんは、行動を起こさないまま終わってしまってもいいんですか?」
少し考え込んだ彼は口を開いた。
「嫌だよ。自分の意思を伝えられないまま終わるのは嫌だよ」
そう言った翔太さんは笑って言った。
「君達のお陰で何かが吹っ切れたよ。ありがとう」
「いえ、お礼を言われるようなことではありませんよ」
「そうですよ」
「どうやら武偵という職業は、僕の思っていたものとは大分違うみたいだね」
「困っている人の為に働くのが、武偵ですから」
俺はそう返し、こう付け加えた。
「また、何かあったら武偵高の方に依頼を入れて下さい。その時は自分が向かいますから」
「そうさせて貰うよ」
翔太さんは笑顔でそう返した。
その後、翔太さんは自分の意思を伝える為に帰って行った。
俺達は、会計を済ませて店を出た。
「で、どうだった樋熊君?」
唐突にカズマに尋ねられた。
「何がだ?」
「さっきの相談の話だよ」
ああ、そういうこと。
「まあまあだったんじゃ無いの。俺からすればだけど」
「それはOKだったということで良いのかな?」
「まあね」
そう言われたカズマは少し嬉しがっていた。
そして突然こう言った。
「じゃあ、僕と戦って」
どうしてそうなるんだよ。
苛ついて「お前はとっとと依頼終わらして、帰って飯食って寝ろ!」と言ったらカズマは首を傾げた。
「依頼?? あ、忘れてたァァア!!」
そういったカズマは慌てて街中へと消えていった。
マジで何あいつ? 嵐かな??
カズマを見送った俺は、調査書を纏めるために武偵高へと戻った———
「で、調査書を蘭豹に出してから、家帰って平賀さんに電話した後、お前に電話を掛けたと」
一般校区の廊下を歩きながら、キンジにその日にあった事を伝えた。
それを聞いたキンジはドン引きしてた。ナゼソンナカオヲスルンダ。
「あの日そんな事してたのかよ……」
「そうだよ」
キンジの言葉に素早く返答する。
「そういえば、そろそろ昼休み終わるよな」
キンジをおちょくるためにそう言った。
それを聞いたキンジは頭を抱えていた。
俺は、腕時計に目を落とす。
現在時刻は昼休み終了5分前。
「……あ」
「どうした?」
「やばい、昼飯食い終わってねぇ!!」
俺はその場から全力で走り出した。目指すは勿論、2年C組の教室。
キンジは———多分呆然としていたんじゃ無いかな?
その後30秒で教室に辿り着き、3分で食べ終えた俺は強襲科へと向かうのであった。
余談だが、あの依頼での標的———翔太さんは、蘭豹のお見合い相手だった。
恐らくだがあの時言ってたお見合いがそうだろう。
だが、そのお見合いは行われなかったらしい。あくまでも風の噂で聞いた程度だが。
あと、カズマに関しては結局依頼が達成できなかったそうで。
そのせいかどうだか知らないけど、なんか蘭豹に呼び出されてボコられたらしい。
多分、お見合いが出来なかった分の腹いせも入ってると思う。
俺はそんなカズマに対して、静かに十字を切るのだった。
後書き
次回は本編に戻ります
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