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戦国異伝供書

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第六十三話 成長その十

「北条家に戻られた時は」
「その時はですか」
「この料理を伝えるでおじゃる」
「北条家に」
「相模にでおじゃるよ」
「それでは」
「美味なものは一人占めするものではないでおじゃる」
 彦五郎はその少年、北条氏康の子の一人である北条助五郎にこうも話した。
「だからでおじゃる」
「それでは」
 助五郎も頷いて応える、そうしてだった。
 彼もまた食べていく、ここで義元は酒を飲んでこうも言った。
「酒もいいでおじゃるな」
「左様ですな」
 雪斎が酒の話に応えた。
「こちらも」
「和上は般若湯でおじゃるな」
「その般若湯もです」
 この呼び名で飲んでいる酒もというのだ。
「よいですな」
「左様でおじゃるか」
「実に」
「しかしでおじゃる」
 ここで義元は雪斎の卓を見て言った。
「和上はいつも通りでおじゃるな」
「はい、生臭ものはです」
 即ち素揚げも刺身もだ。
「いりませぬ」
「左様でおじゃるな」
「拙僧はそこはです」
「守っているでおじゃるな」
「そうしております、ですが般若湯は」
 これだけはというのだ。
「この通りです」
「どうしてもでおじゃるな」
「修行が足りませぬ故」
 自分から言うのだった。
「飲んでおりまする」
「それも楽しんで、でおじゃるな」
「そうしております」
「ほっほっほ、それはいいでおじゃる」 
 雪斎が般若湯即ち酒を好むことはとだ、義元は笑って話した。
「麿は」
「そう言って頂けますか」
「左様、和上は徳のある僧でおじゃる」
「だからでありますか」
「結局解脱するなら」
 それならというのだ。
「もう人でないでおじゃる、人ならば」
「欲は、ですか」
「それもでおじゃる」
 酒つまり般若湯もというのだ。
「その一つでおじゃるからな」
「それ故に」
「修行をして転生を繰り返し」
「その中で、ありますか」
「徐々に取っていくものであり」
「拙僧は、ですか」
「今の生では」
 どうしてもというのだ。
「それは仕方ないでおじゃる。しかし和上はそれ以上に」
「般若湯を飲む以上に」
「素晴らしい学識と徳を持っているでおじゃるからな」
「よいのですか」
「麿はそう思うでおじゃる」
「そう言って頂けるなら」
 雪斎は義元の言葉を聞いて述べた。
「拙僧はこれからも」
「今川家の為にでおじゃるな」
「殿、そして彦五郎様の為に」
 是非にと言うのだった。 
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