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戦国異伝供書

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第六十二話 赤と黒から黄へその七

「やはり」
「そうでおじゃるな」
「そこが彦五郎様の問題です」
「そこをどうするかでおじゃるか」
「はい、そして竹千代は」
 雪斎は彼にも顔を向けて話した。
「学んで時にこれを習う」
「このことはですか」
「非常によきこと。そして」
「そして、ですか」
「そなたは忍耐強い気性の様なので」
 それでというのだ。
「今後はその忍耐を強める」
「今以上にですか」
「そうすればよいであろう」
 こう言うのだった。
「そなたは」
「左様ですか」
「そうすればさらによくなる」
「ではその様に」
「そしてやがてはな」
 微笑んでだ、雪斎は竹千代にこうも話した。
「拙僧の跡を継いでもらいたい」
「今川家の執権ですか」
「そうじゃ、やがてはな」
 こう考えているからこそというのだ。
「その為にも今は励んでもらいたい」
「さすれば」
「お主は器用ではないし他の者よりももの覚えがいい訳でもない」
 雪斎は竹千代のその本質も指摘した。
「しかし絶えず努力しておる」
「そのことがですか」
「そなたをよくしておる、だから忍耐はさらに覚えてな」
 そのうえでというのだ。
「学んでな」
「そして習う」
「そうしていくのじゃ、そして」
 雪斎はさらに話した。
「お主は人を大事にするな」
「自分以外の者を」
「お主の家臣達も民達もな」
「人であるなら」
 それならとだ、竹千代は答えた。
「そして魂があるなら」
「大事にするか」
「そうしなければならぬと考えています」
「その通りじゃ、例えばな」
 ここで雪斎は自分の袈裟を撫でた、そうして竹千代にこう話した。
「この袈裟にしても長く使っておるとじゃ」
「そういえばものも」
「魂を持つ」
「そうなりますな」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「ものも大事にすべきであり」
「ものを大事にするのなら」
「犬や馬は最初から魂があるからな」
「やはり大事にし」
「畜生でもすじゃ、なら人はな」
 六界で言うなら畜生よりも上である人界にいる自分達はというのだ。
「わかるな」
「はい、そういうことですな」
「それでじゃ」
「それがしは」
「人を大事にせよ、よいな」
「我等は戦を行いますが」
 ここでこれまで控えていた朝比奈泰朝が言ってきた、今川家に対して絶対の忠誠心を持つことで知られている者だ。
「しかしですか」
「うむ、無闇な殺生は断じてじゃ」
「してはなりませぬな」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「普段から人は大事にせぬとな」
「そう言われますか」
「戦はどうしても人が死ぬ」
 このことは絶対だというのだ。 
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