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戦国異伝供書

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第六十一話 一騎打ちその十

「そうおいそれとはです」
「手出しは出来ぬな」
「石高は七百二十万石、兵はおよそ十八万程で」
「多くの優れた人材がおる」
「それではです」
「我等より遥かに上じゃ」
「はい、これでは」
 到底とだ、馬場は信玄に話した。
「今すぐどうにかなりはしませぬ」
「その通りじゃ」
「幸い織田殿から盟約を申し出られましたし」
「そうして盟約を結んだしな」
「ここはです」
「動かずな」
「はい、そして」
 そのうえでと言うのだった。
「時を待つべきかと」
「それがよいな」
「それまで我等は政を行い」
「国と兵を育てな」
「時が来ればです」
「動くべきであるな」
「そう思いまする」 
 馬場は信玄に己の考えを述べた。
「今は」
「その通りじゃ、ではな」
「甲斐と信濃、それに駿河をですな」
「治めていく、幸い上野や遠江にも領地を持ててな」
「我等は二百万国を超えておりまする」
「駿河で塩も手に入れられる様になった」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「今はです」
「政に励み時を待とうぞ」
「幸いにです」
 今度は飯富が言ってきた。
「今川殿は桶狭間でご当主殿も跡継ぎ殿も捕らわれ」
「完全に空になったな」
「はい、あれで今川家は事実滅び」
「我等は誰からも言われることなく駿河を手に入れられた」
「よいことでした」
「今川家の家臣達も多く入った」
 もっと言えば今川家の残っていた者達も家臣に加えた。これは今川家と縁組をしていたことがかなり役立った。
「よいことばかりであった」
「全くです」
「しかしじゃ」
 それでもとだ、信玄は家臣達にあらためて述べた。
「上洛への道はな」
「見事に阻まれました」
 苦い顔でだ、甘利が答えた。
「美濃もそして」
「遠江もな」
「遠江そして三河は徳川家のものとなりました」
「織田家と盟約を結ぶな」
「ですから」
 東海道、この道もというのだ。
「塞がれています」
「結果として我等はな」
「上洛出来なくなったので」
 それでというのだ。
「これからどうするか」
「それが難しいところであるな」
「全くじゃ、しかしな」
「これまで話した通りに」
「そうじゃ、今はな」
「政に専念しますか」
「国を富まし兵を養いな」
 その様にしてというのだ。
「今は国を強くしようぞ」
「そうしますか」
「今はな、上洛への道を完全に塞がれたのは無念じゃが」
 それでもというのだ。 
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