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戦国異伝供書

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第六十一話 一騎打ちその七

 武田の本陣の兵達を寄せ付けなかった、彼等が迫るよりも速くにだった。彼は駆けてそうしてだった。
 信玄に向かう、信玄は本陣に座していた。その彼に対して。
 謙信は刀を抜いて駆けつつ馬上から切りつけた、本気で切るつもりだったが。
 信玄は防ぐ、そう確信していた。そして実際にだった。
 信玄は軍配でその太刀を受けた、軍配は切られたがそれでもだった。
 太刀は防がれた、謙信はそれを見て太刀を収めてだった。そのまま駆け去っていった。その後でだった。
 信玄は笑ってだ、兵達に言った。
「見事であるな」
「いや、まさかです」
「長尾殿ご自身が来られるとは」
「しかも一騎で」
「こればかりは」
「言ったであろう、長尾殿に常道は通じぬ」
 戦のそれはというのだ。
「だからじゃ」
「この様なこともありますか」
「そうした方なのですか」
「そうじゃ、そしてじゃが」
 信玄は兵達にさらに話した。
「戦はそろそろ終わる」
「高坂殿達の援軍が攻めていますし」
「だからですな」
「そろそですな」
「そうじゃ、そろそろ終わる」 
 まさにというのだ。
「長尾殿は退きにかかる」
「では」
「それではですか」
「これより追う」
「そうしますか」
「うむ、しかしな」
 それでもとだ、信玄は兵達に話した。
「この度はじゃ」
「追いはしてもですか」
「深追いはせぬ」
「そうするのですな」
「この度は」
「そうじゃ、追ってもじゃ」
 それでもというのだ。
「深追いはしてはならぬ、本来勝ちは六分か七分でよいが」
「今は」
「この度の戦では」
「五分位じゃ」
 つまり引き分けでというのだ。
「よい」
「左様ですか」
「今は引き分けでもいいですか」
「それ位で」
「そうなのですか」
「二郎も勘助も生き残った」
 今後も頼りにすべき彼等がというのだ。
「ならじゃ」
「それならですか」
「我等もですか」
「積極的に追うべきでない」
「そうすべきなのですな」
「この度の戦はそうした戦じゃ」
 引き分けであるべきだというのだ。
「深追いはすべきでない、ここは自重せよ」
「わかり申した」
「それではです」
「我等も深追いしませぬ」
「断じて」
「その様にな」
 こう話して実際にだった。
 信玄は上杉軍が退きにかかることを見抜きつつも深追いは命じなかった、そうして戦っているとだった。
 本陣に戻った謙信はすぐにだ、周りの者達に命じた。
「これ以上の戦は意味がありません」
「ではですか」
「この度はですか」
「退きますか」
「今から」
「武田殿を降せず過ちを正せなかった」
 このことはというのだ。 
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