八条学園騒動記
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第五百三十五話 焼き肉食べ放題その九
「無茶苦茶強くてそれなりに教養もあって度胸が据わっていて」
「人望もあってな」
「そんな人が局長ならね」
「それだけならいいけれどな」
「けれどその人が勤皇派だったから」
それもかなり熱烈なだ。
「毎朝皇居の方を伏し拝んでいたそうだから」
「おい、それは本物だな」
「今も日本市民は陛下も皇室の方々も敬愛しているけれど」
「そこまでするってな」
「相当だね」
「ああ、本当にな」
「そうだよね、幕府か朝廷かってなったら」
幕末にどちらにつくが極めて重要だったことは言うまでもない。
「芹沢さんは町外なく朝廷につくから」
「それも新選組単位でな」
「少なくとも四十人近くの人が芹沢さんに近かったから」
当時五十四人いた隊士のうち芹沢達を入れて三十九人は芹沢派だったという、近藤派は僅か十五人だった。
「それだけの剣客が朝廷につくから」
「幕府、会津藩としては洒落にならないな」
「そうなるって思ったから」
会津藩特に藩主がだ。
「近藤さんに言ってね」
「粛清させたんだな」
「それで新選組自体もね」
「佐幕派にしたんだな」
「元々佐幕派の組織なんだけれど」
京都守護の松平家の下にある言うならば武装警察だったからだ。
「局長が勤皇派の人になって」
「組織の主流派になるとな」
「こんな厄介なことはないから」
「それでか」
「そう、それでね」
「消したんだな」
「そうだよ、これはね」
まさにとだ、野上君はまた赤ワインを飲んで注文してから友人に話した。酒の酔いはさらに回っていた。
「武士道とかじゃなくて」
「共産主義のあれみたいだな」
「邪魔なイデオロギーの持ち主だとね」
「粛清するな」
「そうしたものだったよ、もっと言えば」
野上君は注文した赤ワインを受け取って言った。
「ヤクザ映画だよ」
「暴力で権力の座を握るか」
「そう、殺し殺されでね」
「裏切り裏切られか」
「もう信条とか抜きで」
「近藤さん達も県陸奪取にかかったか」
「芹沢さんが近藤さんを殺したか」
この可能性はというと。
「そこはわからないけれど」
「近藤さん達はそうしたか」
「それでその後もあったからね」
「ああ、伊東さんな」
「伊東甲子太郎さんね」
「あれ伊藤だったか?」
「そう書く場合もあるかな」
この辺り当時の漢字の使い方で色々あった、言葉の発音が合っていれば漢字の違いはある程度無視されたのだ。
「それは」
「そうだったか」
「まあとにかくね」
「伊東さんもだよな」
「殺されたからね」
「内部抗争でな」
「伊東さん一応組を出たけれど」
野上君はここではかなりヤクザの世界を意識して『組』と呼んだ。
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