戦国異伝供書
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第六十話 死闘その四
「全軍このまま山を下り本陣に向かえ!」
「本陣!?」
「本陣といいますと」
「お館様のおられる本陣じゃ」
つまり武田軍のというのだ。
「そこに向かうのじゃ」
「ことは一刻を争うな」
飯富もこの事態に危惧の声で述べた。
「迷ってはいられぬ」
「はい、ですから」
高坂は飯富に顔を向けて強張った顔で答えた。
「即座にです」
「ここからな」
「山を下り」
そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「お館様の下に向かおうぞ」
「そうすれば敵と会う」
馬場も言ってきた。
「だからこそ」
「丁度その頃当お館様は敵の軍勢と戦っておられる」
小幡がそうなっていると述べた。
「だからこそ」
「向かうべきじゃ」
「承知しております、では全軍これより」
高坂は飯富の言葉に頷いて述べた。
「妻女山に」
「それでは」
「これより」
こうしてだった、高坂達はすぐに向かった。その朝。
信玄は兵達を早く起こしてだった、そうしてすぐに飯を食わせた。自身も飯を食いそのうえでだった。
陣を構えさせた、そのうえでだった。
周りを見た、だがここで信玄はこう言った、
「どうもな」
「はい、今朝がです」
「この通りですな」
傍らにいる穴山と諸角が応えた。
「霧が深く」
「前がよく見えませぬな」
「これではです」
「敵もよく見えませぬ」
「うむ、しかしじゃ」
信玄はその霧を見て二人に話した。
「この霧は晴れる」
「そうなりますな」
「この霧はそうした霧ですな」
「そして晴れる時は」
「我等も」
「前に動ける、そしてな」
それでと言うのだった。
「妻女山から追い落とされた長尾家の軍勢をな」
「挟み撃ちにしておりますな」
「追い落とした軍勢と共に」
「それが出来ていますな」
「その時は」
「そうじゃ」
その通りだと言うのだった。
「だからな」
「ここは、ですな」
「まずは霧が晴れるのを待ちますな」
「そうする」
こう言うのだった。
「ここで焦って動くべきではない」
「左様ですな」
「これではです」
穴山と諸角も同意であった、それで言うのだった。
「前が見えませぬ」
「迂闊に前に出過ぎるか迷うか」
「こけてしまいことも有り得ます」
「ですから霧が晴れるまではです」
「確かに動きべきではないな」
「兵は速くあるべきじゃ」
信玄は自軍の旗からも話した。
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