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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:19 懸念と心配

――sideギンガ――

 不思議なものだと思う。ミッドチルダの実家とは全然違うはずなのに、居間にいると凄く落ち着く。
 洋風とは違う和風。椅子とは違う座布団の上に座ってるとお母さんがお昼を作ってくれた。
 
 とても懐かしくて、二度と感じることのない事だと思っていた。
 
 シンプルなチキンソテーに、お味噌汁、サラダ。晩ごはんには奮発して今日はカレーを作るらしい。
 懐かしい、というより普通のお家って感じがする。何時もはお父さんと二人だし。家に居るときは私がご飯を作って、食べて、食器を洗って……。
 だけど今は、母さんが食器を洗うからゆっくりしときなって言われて、スバルと二人でボーッとしてる。
 そう言えば、昔……まだ私もスバルも幼くて、母さんが居る頃にお手伝いしたいと言ったときに母さんが言ってたっけ。
 
 あなた達がお腹いっぱい食べて、笑ってくれるだけで嬉しいんだ。と。
 
 そのお陰かな、今は凄く落ち着くんだ。
 
「……やっぱり、凄く懐かしいねぇ」

「そうね」

 パタパタと団扇で仰ぎながらスバルと二人でボーッとしてる。
 ここ最近は夢みたいな時間ばっかりで、あっという間に過ぎ去っていく。
 だけど……。

「……響とサトの話を聞いて、私、なんとなくティア達に会いたくなっちゃった」

 あはは、と笑うスバルを横目に、複雑な気持ちになる。
 元の世界に帰りたいなという気持ちもある、でも、だけど。

「……ギン姉は」

「スバルー、ギンガー。ちょっと買い出しに行くから付き合ってもらっても良いー?」

 スバルの言葉とタイミングよく、母さんのお願いを聞いて直ぐに体が動く。立ち上がると同時に、座ってるスバルへ手を伸ばして。

「スバル、行こう?」

「……うん」

 少し眉を潜めたスバル。気持ちは分かるよ。何がいいたいのかも、何を話したがっているのかも。

 だけどねスバル? 私はもう少し、この時間に……母さんと一緒の時間に浸っていたいんだ。

 
――sideフェイト――

「もーやだ。ほんときらい、さいあく」

「まぁまぁ、凄く可愛いよー」

 プルプルと震える響を後ろから抱きしめながら、頬ずりなんてしてみたり。
 幸い更衣室前とは言え人は来てないし、見られる心配もないし。

「……で、お手伝いサボってるテスタロッサ店員さんは何してるんですか?」 

「ん? この後はブレイブデュエルのフロアでお客さんの誘導だったり、デモプレイで戦ったりしてほしいってお願いされてるよ」

「あぁ、そうですか。早く行って下さいよもぅ……」

「んー。響も行くんだよー」

 え、と固まる響を後ろから抱っこして、そのままお姫様抱っこに移行する。直ぐに意識を取り戻した響が。

「嫌だ! 何時震離達が来るかもわからんし、ギンガたちも来るかも知れないのにこんな格好で出られるか、やだよ!」

「でもなんだかんだ、ここまで来たんだからいいじゃない。見られても可愛いで終わると思うよー?」

「そ・れ・が、嫌なんだ。あの忘れてるかも知れないけど、俺男だからね? 元々男で18年生きててこの様なんだからね?」

「いいじゃない。可愛いし」

 今一度ぎゅーっと抱きしめると、くすぐったそうに少し身を捩った後に

「……じゃあせめて、せめてブレイブデュエルの中でだけ使わせてくれ。だから本当にもう一度着替えさせてくれ」

「……えー」

 なんて言うけど、流石にこれ以上意地悪するのは申し訳ない。
 最近はあんまり構ってもらえなかったしね。旅行の時は色々あったけど、この世界に来てからは関わりは減ったし、何より二人きりというのは殆ど無かったもんね。

 誰かに見られる前にもう一度更衣室へ戻って。

「じゃあ着替えるけど、今度こそ何もしないでくれ。いやほんとまじで、フリじゃないからね!」

「はいはい」

 ゴソゴソと今度こそらしい格好に着替えてる。もうちょっと見ておきたかったのは有るけど……まぁ、何時でも変える事も可能だし。
 そうだ、帰った時用にキャロやエリオのお洋服も色々買って帰ろう。お母さんやリンディさんに相談して色々見繕ってもらうのも有りだし。選択肢は沢山有るし……。

「……フェイトさ……ん、スバルとギンガを説得するとしたら……どうする?」

 ブラウスからシャツに変えてるのを横目にしながら。  

「……難しいね。あの二人も深い訳があるし。私やはやてと違って、お母さんと一緒に……幸せに暮らしてた期間。その思い出が多くて、強いだろうから。
 響は二人の体のこと……もう分かってるよね」

「……はい。察してます」 

 私達もナカジマ三佐から話を聞くまで、亡くなったクイントさんのお話を聞くまでは深くは調べようとはしなかった。
 ある程度、スバルとギンガの体のことを聞いてから、少しだけ知った。
 ナカジマ三佐、ゲンヤさんとは血の繋がりは無いけれど、クイントさんをモデルに戦闘機人としての二人が生まれたことまでは調べ上がった。
 
「……しかし、機動六課は訳ありの子ばっかりですね。そういう意図があって?」

「まさか。エリオやキャロはともかくとしても、スバルやティアナを見つけた時はそんな意図は無かったし。なのはもそういう考えで、教えたいって決めた訳じゃないよ。
 六課の話の直前に私はギンガと知り合ってたけれど、そういう意図はないし……こういうのって必然っていうのかな? ごめんね、上手く説明できないや」

「いや、気持ちは分かるからいいよ。
 なるほど、ギンガとスバル……いや、ギンガが問題になりそうだなぁこれは」

「え?」

 一瞬、意味がわからなかった。ううん、意味は分かる。
 でも。どちらかと言うと、スバルの方が依存するんじゃないかと私は思う。ティアナの時の事、そして共に無茶をした時のことを思うと、パートナーの為に、と依存していたと思う。
 対してギンガは……あ。
 そこまで考えて私も気づく。

「……そういう事」

「フフ、そういう所鈍いんですね。
 多分きっと……お姉ちゃん(・・・・・)だから、一番辛いんだと思いますよ」

 気がついたらサトと同じ様にスラックスとシャツを纏った響が苦笑を浮かべてそこに。

「……フェイト、お願いがあります」

 ――――

「……そっか。そういう事ならいいよ」

「ありがとう。今度ちゃんと埋め合わせするし、取越苦労ならいいんだけどね」

 ニパッと笑って両手を伸ばす響をゆっくり抱きしめて。
 
「……一日だけ貸してあげよう」

「うわぁ、めっちゃ偉そう」

「そんなことないよ」

 にやりと笑う響の頭をうりうりと撫でる。
 ……私も、今回関係ない立場だったらよかったけれど、私も後ろ髪を引かれる立場。決めた事だとはいえ、気を抜いたら私も気にしてしまいそうだから。
 
「……それに、もうちょっとクイントさんと話してみたかったし」

「へー、珍しい。年上が趣味?」

「……冗談言わないで下さい……そうじゃないよ、気になったという事と、少し懐かしいと思ったからだよ。
 似てるんだよ。俺の母さんに」

「……そんなに似てるの?」

 難しそうに眉をひそめた後に、首をかしげながら。

「……なんだろう性格……というより、本質がにてるというか。考え方とかですかね。あ、髪形も似てますね」

 確かに、クイントさんも結び目こそ違えど纏めていたなーと。ふと自分の髪の毛先をとって。

「……私も纏めてみようかな。どう思う?」

「長い髪も好き、するんだったら先端を纏めたりすると割と好きですかね」

 くしゃりと笑ってる。確かに、響って奏の髪が切られてる時もすごくショックを受けてたし……。
 に、しても……さっき沢山弄ったけど、なんだかいつもと比べてグイグイ来てる……?
 そんな様子に気付いたのか、申し訳なさそうに笑って。

「まだあんまり恋人らしい事してないし、これくらいは。俺もどれくらいしていいのかわからないから。
 それに、二人きりなんて殆どなかったし」

「……」

 思わず唖然としてしまう。というより、ちゃんと意識してくれてたんだなって。旅館のやり取りとか、こちらからの一方通行かと思ってたけどそんなこと無かったんだね。
 腕の中で恥ずかしそうに、だけど、嬉しそうに笑う女の子。でも、その面影は確かに響だって分かって……。

「……うん。本当だよ」

 もう一度ぎゅっと抱きしめる。もうちょっとだけ、もう少しだけこの時間に浸って居たくて。
 

――side流――

「それでは、私はブレイブデュエルの方を手伝ってきますね」

「はい、行ってらっしゃい流さん」

 フードコート担当の皆さんに告げてから、フロアの移動を開始する。
 連休明けとはいえ、周辺の社会人の方々もお昼を食べに来てくれる関係で、おもちゃ屋さんと言いつつ割と忙しい。
 つい先日には、ブレイブデュエルではなくて、美味しい軽食処としてテレビかなにかで取材を受けた時もありましたし……。

 ……それにしても。

「ブレイブデュエルの特設フロア盛り上がってますねぇ」

 少し離れた場所にいるにもかかわらず、歓声がここまで聞こえるのは凄いと言うかなんというか。
 ……しかし、妙とは言いませんが、サトさんが居るだけでここまでになるのも珍しい。まだT&Hの看板チームは学校の筈、いや、そろそろ終わって集まる用意をしている頃かな?
 まぁ、どちらにしても、まだ盛り上がりに欠けるはずなのですが。

 そんな事を考えながらバックヤードからフロアへ出て、直ぐに納得しました。

『飛べ、響』

『よし、ばっちこい』

 特設画面の向こうで、サトさんが響さんを蹴り飛ばす……というより射出しているのが見え、そのまま先頭を走る数人を抜いてゴールをくぐる。
 スピードレーシングで、5対2で勝とうとしてる辺りあの二人は流石というかなんというか。
 遊撃にサトさんが、基本的に機動力勝負で響さんがやっているのは……大人気ないなぁと。フェイトさんはメガネ掛けてポニテにしてるのは、一応別人ですよーと振る舞ってても……色々人が寄っていく辺りなんとも言えないですね。

「お疲れ様です」

 とりあえず側まで行くと、ホッとした表情で。

「おつかれ流。そっちは終わったの?」

「えぇ、テスタロッサさんはしないんですか?」

 一応気を使って、名前ではなく名字で。フェイトさんもその意図を察してくれたのか柔らかい笑みを浮かべて。

「ううん、もうちょっとしたら3人で出る予定だったよ。流も出る?」

「……遠慮しておきます。一応開発者側なので、どのゲームも一応の穴を知っていますし、数値の上限も知ってるので攻撃の捌き方も知ってますしね」

「そっか、残念。奏達は来るかな?」

「さぁ? 震離さんがデートに連れ回してるでしょうしここに来るかはわかりません。ですが、来たら面白そうですけどね」

 今はここに居ない3人を思い浮かべる。
 流石に震離さんも参戦は無くとも、奏さんとはな、この二人を足せば5人になるし、勝負も出来そう。
 ただし、その場合の問題は……相手が極端に減ってしまうだろうということ。
 仮に勝負するとしても、現状まともに相手になりえそうなのが、ダークマテリアルズか、フルメンバーで勝ちに行く八神堂。
 勝負の体を成すのがT&Hエレメンツ位ですかね。
 個人では色々と強い方が現れ始めていますが、経験値の差でトップ陣は変わらずに居ますけど、それも時間の問題ですしね。
 
「……ねぇ流。戻るまでにさ、流と震離、サトや皆のデータ持って帰りたいって言ったらどうする?」

「望むのであればお預けしますとも。ただ、悪用しないで下さいね」

「まさか。六課の皆の時にしか使わないよ」

「なら良かった。と言っても渡せるデータもブレイブデュエルを元にしたものしか譲れませんが」

「十分だよ。それにほら……多分なのはが一番悔しがると言うか、なんというか……お土産用意しないと絶対に、ね?」

 何処か遠くを見ながら、かすかに震えて半笑い。
 確かに、トライアングルの中で今回居なかったなのはさん。居たら居たで色々起きたんでしょうし、きっと昔を思い出すことも……あるかはわかりませんが。
 ただ、居たら……ダークマテリアルズの3人、そして、こちらのトライアングルの3人と面白い勝負ができたかも知れません。
 ……寧ろ単騎で圧倒しそうですが。

「ま、何はともあれ。こちらの仕事は引き受けますので、あちらに合流されて下さいな」

「ありがと、じゃあ行ってくるよ」

 手を振ってフェイトさんを見送る。そのまま次のエキシビジョンの設定を行い、受付作業を続ける。
 本来ならばエイミィさんが何時もならして下さるんですが、今はちょっとだけ学業に専念したいとのことで休んでおりますし、クロノさんもロケテで満足しないで、たまには来たら良いのですが……生徒会長職が忙しいようですし。
 ……まぁ、どちらも楽しそうにしてるので、良いんですけど。魔法世界のクロノ提督の印象とは聞いてた話と食い違いが大きいんですよね。
 私は話したことは無いです。響さんのお話曰く、色んな意味で底が見えないのに、ひょうきんな事もしてくるから面白い方と言っておりましたが……こちらだと若干固いんですよね。
 まぁ、家族構成とか色々考えると固くならざるを得なかったんでしょうけど。色々元気なアリシアさんに、引っ込み思案なフェイト。歳の離れた友人のティーダさんに、色んな意味で歳不相応なティアナに囲まれて育つとああなるのかな、と。
 
 ただ、違いを探し始めたらキリがないので止めましょう。

「……それにしても」

 特設モニターの向こうで試合をしている3人。スーパープレイに近い事をすると歓声が上がり、フェイトさんや、サトさんが何かをしたら黄色い歓声が上がるのは見ていて面白い。
 その上、サトさんが楽しんでプレイしているのはこちらも嬉しいですし。見るからに変化……目の色が穏やかで楽しそうというのが分かるだけでも大きなことです。
 
 ……ここからなんでしょうね。サトさんが変わっていって、そして、独自の戦術を生み出して、単騎でも戦えるようになっていくのは。
 私が知っているサトさん。新暦75年に居たあの人はとても強く、何より退き際の心得、その思い切りの良さ等など凄かったですしね。だからこそ、サトさんは響さんという式がなかなか出来上がらなくて、その全容は分からず困っていましたし。
 
 ま、その辺りは置いといて。ちゃんとお仕事をこなしましょうか。

 
――side奏――

「……やぁー……残暑パネェ。溶けるんじゃねと思えるほどに」

「だ、大丈夫ですか? 震離様?」

「んぁー……平気ー。最近真っ昼間に外出るなんてしなかったからねぇ」

 若干よろけながら歩く震離の側を、日傘さしながら歩いてる。一応震離も入るように、はなも小さな和傘っぽい日傘を買ってもらって、最初は喜んでいたけれど……徐々に弱ってく震離が心配になってきたらしい。
 とかいう私も心配してるんだけど。この子ってばこんなに暑さに弱かったかな?

「なーんで、今日に限ってコインパーキング空いてないかなぁもー。お蔭で凄い遠くになっちゃったしー」

「まぁまぁ」

 うだうだというか、半ば溶けそうかと思うほど汗かいてるし、顔色も悪い……って。
 
 そう言えばこの子って確か……。

(ねぇ震離?)

(んぁ? どったの? この距離で念話なんて?)

(え、いや……その、この太陽の下歩いて平気なの? 一応、その……吸血鬼なんでしょ?)

 この震離も時折目が赤くなったり、強いらしいって事を言われてる事から推測したけど。違うのかな?
 
 先輩から震離が人を辞めてたって聞いた時は驚いたっけなぁ。だけど、不思議と悲しくはなかった。何時か遠くへ行ってしまいそうな子だったし、ある意味納得がいったなぁと言うのが本音だったし。

 で、当の本人は目を丸くして、ニヤリと笑みを浮かべて。

(ふは、既に私は太陽なんて目じゃない。苦手ではあるけど、天敵にはなり得ないのだ!)

(……えー)

 思わず苦笑い。はなも念話を聞いてたみたいでこちらも苦笑い。
 震離と話してると私の中の吸血鬼の定義がどんどん崩れていくなーと。

(まぁ、昔はやばかったけど、今はもう平気。一応コレでも真祖ですから)

(んー……色々気になる単語が出てきたけど、とりあえずは良いよ。頭痛くなってきたし)

(そうしなそうしな。割とややこしい定義だから。私だって納得いってない部分多いしね)

 くつくつと笑う震離を他所に軽くため息。
 ただ一つ言えるのが、この子がどう変わろうと、平行世界の震離であろうと……その本質は変わらないから良いんだけどね。

「……それにしても、遠いねぇ八神堂は」

「……ゴメンねぇ。ほんとパーキングが遠くてねぇ。途中で何かお土産買っていこうか。何か冷やっこいものでも。はなは何かリクエストある? 好きなの買ってあげるよ」

「へ? いや……あの、その買って貰う立場なのでその……」

「良いから良いから。ほらほら、この辺ちょっとした軽食処とか、カフェがあるからなんか買ってこ。奏も色々つまんで美味しいの選んでよ?」

「はいはい。……ぁ、いや待って。最近カロリーが……」

「帰って動こうー。ほらほらいくよー」

 嬉しそうに私とはなの手を引いて歩く震離。
 あぁ、とても懐かしくて……なんだろうな。手に入らないものを見てるような錯覚を覚えたのは。

 
――sideギンガ――
 
 平和だな。

 と、ただ思う。ミッドも今でこそある程度落ち着いているけれど、それでも魔法を使った犯罪はまだまだ多いし、見えないところでは何があるか分からない。
 だけど、この世界。平行世界の地球は平和そのものだ。設備こそミッドに及ばない所は多い。でも、落ち着いた町並みに、小さな私や、小さなスバルを見たら分かるほど環境も良いみたい。
 
 父さんと母さんに違いが無い……訳ではない。元の世界の二人は子供に恵まれず、あまり覚えていないけど研究所に居た私とスバルを見つけて引き取ってくれた。
 だけど、ここの世界では違う。ちゃんと母さんから生まれて、姉妹も沢山居て……。

 違う。そうじゃない……!

「……ギン姉?」

「へ、あ……なあにスバル?」

 気がつけば、目の前に座っていたスバルが心配そうな顔でこちらを見てる。
 そうだ、今は。

「食べないなら貰っていい?」

「待って待って食べるから、ちょっと待って」
 
 私の手前に置いてあるシュークリームのお皿を取ろうと手を伸ばしてくる。それを防ぐために手を取って……。。

「だって、さっきからボーッと紅茶の香りを嗅いでるだけなら要らなのかなぁって」

「喫茶店に来るのは久しぶりで、いい香りだったから楽しんでただけよ。スバルこそ、もう食べたんなら我慢してもいいんじゃない?」

 バチバチとスバルと視線がぶつかる。
 と言うより、なのはさんの実家の喫茶店の看板メニューと、おすすめの紅茶を楽しむくらいは良いと思うんだ。

「第一、スバルは一度ここで食べたことあるんでしょう? 用事でさぁぁあ」

「あるけど、あの時は緊張しすぎてあんまり味覚えてないの。だから、ちょっとちょーだいぃぃ!」

 うぉぉおお、と私は防御、スバルは攻勢にそれぞれ回る。
 私だって……私だって、管理局発行の地球、海鳴市ガイドマップのオススメ店。その看板メニューはちょっと憧れてたもん!
 と言うより、中々地球、それも海鳴市には旅行で行くにはハードルが高いのよね。
 なのはさんや、はやてさんの生まれ故郷。フェイトさんやクロノ執務官が育った地、しかも大きな事件を2つも経験した土地として、パワースポット扱いされていて……。
 なんというか凄く近寄りがたい世界で、土地なんですよね。
 だから、以前スバル達が出張に行ったと聞いた時はちょっぴり羨ましかった。お父さんの祖先の故郷とはいえ、一度行ってみたいというのもあったから。
 
 なんてことを二人でしていると。

「珍しい。スバルがギンガにワガママいうなんて。ほらスバル、私の食べていいから」

 見かねて、このお店の女性の店員さんとお話をしていた母さんがシュークリームのお皿を差し出してくれた。

「え……あ、ありがと、お母さん」

 おずおずと受け取るスバルを見て、ほっと一息……じゃない。

「え、母さんは食べないの?」

「あはは、スバルががっつくのも珍しい……ってことは無いんだけど、そこまで必死になるのも珍しいし、ギンガも譲らなくて驚いちゃって」
 
「「あう」」

 かぁっと、顔が熱くなるのが分かるし、スバルも顔を赤くしているのが分かる。

「ふふ、大きくなってもクイントちゃんの娘って分かるのは羨ましいわぁ」

 ……ん?

「あの……モモちゃん先輩。娘たちの前でそれは、ちょっと……」

 誰かに似てるけど、誰なんだろう? 最初はなんとなくスバルっぽい店員さんが応対してくれたけど、気がついたら入れ替わってるし。母さんが先輩って言うことは、歳上なんだろうけど……全然お若く見えるし。お姉さんっぽいんだよね。

(あのーギン姉?)

(なあに?)

 もふもふとシュークリームを食べながらスバルから念話が。

(あの人ね。なのはさんのお母さん)

(……あぁ! それで、一瞬お姉さんみたいに見えたけど、そうなの)

 なるほどなるほど、納得した。
 
(……ただ、出張に行ったときと容姿が全然変わってなくて、驚いてるけど)

(……え?)

 変わって……え? 
 いやまって、スバル達が見たなのはさんのお母さん、純粋に10年近く経過しているはずなのに、変わってないって……。

 なんというか、逆に納得できたような、そうでもないような……うーん。


――side響――

「ふは……疲れたー。いろんな戦略あるんだねぇ。流石はゲームって所か?」

「ルールはある、割と何でもありな所もあるけど……ま、自由度は高いってことになる。
 ゆくゆくはその辺りのルールも詰めて、だけど可能性を狭めないように調整していくらしい。難しい所だけど」

 特設フロアの待合室……じゃなくて、ゲストルーム? という場所でちょっと休憩を。
 というのも、最初は普通に休憩してけれど、色んな人から声を掛けられて全然休めないからと流が手配してくれた。
 今は代わりにフェイトが単騎で色々してくれてる。

 モニターに映るフェイトを見るサト。ふと、フェイトと相談したことを、

「……なぁ。ギンガとスバルの件なんだけどさ。あの二人を帰る為に説得するとして……なんて言う?」

 ふと、微妙そうな表情を浮かべて視線を少し泳がせる。
 こちらも、その仕草の意味が分からなくて首を傾げてその様子を見守り、観念したのかこちらを向いて。

「すまん。その前に一つ確認を取りたい。あの二人は……戦闘機人(・・・・)なんだよね?」

「……はぇ?」

 思わず変な声が漏れる。
 そして、サトから弁明を聞き納得した。

 サトと俺の分岐点は、公開意見陳述会。もっと言えば、その前に元に戻ったか否かという事。
 確かに、その頃なんとなく察しては居たものの、俺は陳述会で戦ったヌルの発言からギンガとスバルがタイプゼロと呼ばれ、且つナンバーズ達と似た存在だという事を確信した。
 更に陳述会の時に来ていたチンク、ノーヴェ、ウェンディ。ゆりかごの中で会ったセイン、ディエチを知ってた。
 だけど、サトの場合は違う。何が原因か分からないが元に戻れず、陳述会に参加出来ずに、六課防衛戦に参加。そして敗北し連れ攫われている関係から、サトの中ではなんとなくそうだった(・・・)ということしか知らないままだった。
 加えて、この世界に来て、ギンガやスバル、そしてスカリエッティの存在から、皆が居るということは知っていたけれど、この世界では姉妹の多さ。そしてそういう技術は無い上に、ナンバーズの子達全員を把握していなかった。
 何人かナンバーズを知っているけれど、知っているのは4と10。クアットロとディエチのみ。しかも後者はヴィヴィオを保護した時の記憶で止まってるし、クアットロに関してはまだトラウマを抱えたままらしい。

 その上で、現在の各人。フェイトの出した解答と、はやてさんが割り切っていることを伝えて、ここに長く居る人として意見を仰ぐ……けど。

「ゴメン。何も言えない」

「そっか」

 申し訳なさそうに顔を伏せてサトは言う。
 実情を聞いてからなんとなく察しては居た。
 何も言えない。それが表すのは……。

「……どうしようも出来なくなったら改めて頼ってくれ。俺……じゃない、私で良ければ力になるさ」

 苦笑を浮かべるサトの言葉を聞いて思わず呆気にとられる。でも。

「あぁ。その時は全力で助けを求めるよ」

 ……きっと、一度心が折れたサトの言葉なら。と考えた。でも逆の立場なら同じ事を言うと思う。
 ギンガの抱えてる物がどれほどの物かはわからないけれど。そして、何より俺もギンガの立場で、母さんと再会したときにはきっと同じようになってただろうし。
 
 いや、これはまだ予測だ。ギンガの気持ちも。スバルの気持ちも分かってない以上難しい所だし。余計なおせっかいのような気もするし。
 ……戦術でも何でも無いと、こうもわからないのはもどかしいし……いや、驕りだなこりゃ。人の気持ちをどうこうしようと思う時点で……

「深く考えるな、とは言わないが。緋凰響だから出来る動きもあるだろうよ。少なくとも、中島ギンガじゃなくて、ギンガ・ナカジマを知っているんだ。少しだけ深く話を聞くことも出来るだろうし」

「んー。まぁ、ね」
 
 サトの言うとおりだけど、なんだかなぁ。
 ふと、モニターを見れば相変わらず連勝してるフェイトが映っているけれど、どことなく不満顔。
 流石に不味いかなと考えて。

「さ、そろそろ行こうか。フェイトが寂しそうにし始める頃だし」

「はいはい」

 少しだけ話し込んでしまったけれど、許容範囲内だと思いたい。フェイトも疲れたっていうのなら休憩に入ってもらうし。
 まぁ、ここでうだうだ考えても仕方ない。直接会ってみないとわからないけれど、夕方また集まる見たいな流れだし、その時にどうするか改めて考えようかな。

 というか。

「……暇なつったら失礼だけど、大学生? のチームが強いなぁ。フェイトが圧倒してるとは言え光るものを持ってる人が多いこと」

「まぁ、何処にでもやりこみ勢は居るものだから。だけどよーく考えろ。こんなにやり込んでるのに、元々のセンスと質の高い練習をしているとは言え、上位に食い込んでる旅行組の存在を」

「……やっぱ世の中不平等だよな」

「……まぁな」

 砲撃を後ろに放って、背後をとったフェイトに牽制しつつ、その反動で加速するとか……中々考えつかない事してるし。
 とある人なんかは、速度を読んだ上でターゲットを狙いつつ射線に入るようにフェイト目掛けて撃ってるし。見てて面白いなぁと。

「……ちなみにこっちの小さいなのはさ。固いプロテクションにもの言わせてビルをぶち抜いてショートカットしたりしてた」

「うそやん」

 ……あれ? この前スバルと打ち合った時、今のなのはさんに近い感じでやってたし。この前の旅行の時は、突撃思考こそあれど普通にセンターガードしてたやん。

「飛ぶ才能と、三次元の空間把握は飛び抜けてるから凄いよなぁ。何より勝負に勝つという事よりも、勝負を楽しむタイプだから見てる方も楽しいし」

「あぁ、そりゃ大事だわ。勝つことに拘り始めたらしんどくなるだろうし……あれ? そうするとダークマテリアルズはそうじゃないの?」

 ふと、将来のエースオブエースよりも気になった事を質問。八神堂はフルメンバーじゃないし、こっちの世界のヴィータさんだけが勝ち負けに一番拘ってるけど、それは当然だと思う。あの年頃って負けず嫌いだもん。仕方ないし……。
 だけど、T&Hはまだ初心者寄りでも、ダークマテリアルズの面々は明らかに違う。その辺りはどうなのかなと思って聞いてみて。

「んにゃ。負けたら凄く悔しがるけど、それ以上に強者と戦うことに喜びを見出す人が多いよ。
 まぁ、シュテル、レヴィ辺りはどうだろね。ディアーチェは勝負に負けるよりも、戦略で……試合に負けたら悔しがるタイプだし」

「見てたらそれは分かるよ。アミタやキリエなんかは……勝負も楽しむけど、広めることにも力入れてるって感じがしたけど?」

「開発者の子だからねぇ。一番力入れてるよあの姉妹は」

 あぁ、そう言えば。そんな事言ってたなーというのを思い出す。フローリアン家に泊まった時。精神的にしんどくてあんまり覚えてないのよね。キリエがグイグイ来たし……。元が男であんまり興味が無いとかだったら良かったんだろうけど。
 俺も男だしなぁ。普通に目が行くし、なんか……ただしんどかった。だって女子特有の距離の近さが凄かったし……。

「……ま、距離感についてはゆっくり慣れな。こっちは一生の問題になりそうだけど」

「自然に思考読むのやめよーぜ」

「恥ずかしそうに顔赤くしてりゃ分かるよ。ほら行くぞ」

 ……何処で人生間違えたかなぁ。なんでこの歳で女性になれるとかいう変な効果を得てしまったのやら。
 
「慣れたら体の動かし方で応用利くようになるから、もうちっと頑張れ。ま、一番は怪我を無視して動けるっていうのがあるんだから」

「そりゃ……そうだけど」

 どうも吃ってしまう。何よりも便利なものを得たことになるし、代償として酒関係がアウトってだけで、全然内容としては凄くありがたい。ただ、現時点じゃ上手く魔法を扱えないのが痛いけど……それはまぁ何時か何とかするとして。
 手癖というか、覚えてる範疇でなら、身体強化も使えるから何とか出来るだろう、うん。

「……あとはまぁ。フェイトさんとラブラブできるから良いんじゃない?」

「ふぐっ?!」

 全力で吹き出して、咳き込みました。
 
 

 
後書き
 ここ最近、更新の旅にページNo.が変動する不具合?が発生しているらしく、一部バラバラに表示されていたことを謝罪いたします。
 大変申し訳ございません。
 現在は把握している限りの修正をいたしましたので普通に読めるかと思います。

 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
 作者のマイページのHPリンクが、ウェブ拍手へと繋がっておりますので、押して頂けるとより一層励みになります。

 これからもお付き合い頂けると幸いでございます。 
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