| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十九話 死地へその二

「あの山に入れば」
「今武田殿は妻女山の南に布陣していますね」
「その武田殿と堂々と対することが出来ますな」
「それも山の上から」
 即ち高所にいて、というのだ。
「それが出来ますな」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「すぐに動きましょう」
「それでは」
 諸将は謙信に頷いた、そうしてだった。
 上杉軍二万は静かだが素早く動きはじめた、この時信玄は本陣においてまずは高坂と会ったことを喜んでいた。
「源助、無事で何よりじゃ」
「この度は城を攻められることなく」
「それでと申すか」
「無事にこうしてお館様にお会い出来ました」
「いや、このことはじゃ」
 晴信は高坂に笑って話した。
「全てお主だからじゃ」
「それがしだからですか」
「お主が城の守りを固めたからじゃ」
 海津城のそれをというのだ。
「だから長尾殿もじゃ」
「手出しが出来なかったと」
「そうじゃ、それでじゃ」
「それがしは今こうしてですか」
「わしの下に来てくれたのじゃ」
「左様でありますか」
「そしてじゃ」
 信玄はさらに言った。
「これからのことじゃが」
「その長尾殿の軍勢ですな」
「おそらく妻女山に来る」
 信玄はここで諸将に己の読みを話した。
「そう来る」
「何と、妻女山ですか」
 ここで信玄の嫡子である義信が言ってきた、精悍で整った顔立ちの心地よい感じの若武者である。見れば諸将の座の一つにいる。
「あの山にですか」
「うむ、あの山に入ってな」
「我等と対するつもりですか」
「あの山にはこれから入ろうと思っておったが」 
 そう考えて兵を進めていたのだ、武田にしても。
「それでもな」
「先にとは」
「流石よ」
 信玄は笑ってこうも言った。
「我等より先に進んでじゃ」
「あの山に入るとは」
「流石長尾殿よ」
「今から動くつもりでしたが」
 原は幾分不機嫌な顔で述べた。
「それより先に動かれるとは」
「しかも我等の目の前でな」
「川まで渡り」
「普通はせぬ」
 信玄はその川を渡る上杉の黒の軍勢を見つつ原に答えた。
「敵の目の前で川を渡るなぞな」
「川を渡る時こそ最も危ういです」
 原は兵法でよく言われ実際にそうであることを話した。
「まして敵地で、です」
「それを行うなぞな」
「有り得ません」
「しかしな、それをじゃ」
「あえて行われるのがですな」
「長尾殿ということじゃ」
 そうだというのだ。
「あの御仁しかおらんわ」
「では」
「うむ、あの山はな」
 妻女山はというのだ。
「仕方ない」
「あの山を明け渡し」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧