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艦これ 恋愛短編

作者:MONO(暫定)
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Bismarck編

「艦隊旗艦ビスマルク、帰投の報告に上がりました」
「うむ。ご苦労だったな。ドイツ艦隊の調子はどうだ」

 ビスマルクを先頭に入ってくるドイツ艦の面々。数は少ないが、重巡、駆逐艦、空母、潜水艦と艦種のそろった、海外艦の中でも屈指の精鋭部隊である。

「上々よ。グラーフやゆーとの連携もだいぶ形になってきたわ」

 誇らしげに胸を張るビスマルク。海外の艦も今となっては増えてきたが、ビスマルクは記念すべきその第一号である。最近は海外艦が増えてきたこともあって、各国ごとの艦隊を編成することが多くなった。

 そして、その際に、ドイツ艦隊旗艦として抜擢されたのが、ビスマルクである。
 規律に対して忠実で、品行方正。日本に来てから日の浅いものもいるドイツ艦隊を率いるには最適の艦である。

「グラーフも日本の艦載機に慣れてくれれば、こちらも戦術の幅が広がるからな」
「そうだな。残念ながら、母国の艦載機はどうにも扱いづらいからな。アカギから借りたゼロは発艦も楽だ」

「ゆーちゃんも、最近はごーやたちとも仲良くやってるんだって?」
「はい……でっちたちには優しくしてもらってます」

「プリンツは……聞くまでもないか」
「えー、どういうことですかー」
「じゃあ、最近あったことを言ってみろ」
「この間、ユウバリと見たアニメがすごくおもしろかったです」
「ほらみろ」

「レーベとマックスはどうだ」
「大丈夫! 楽しいよ、このチンジュフ」
「……まあまあね」

 ドイツ艦は割と昔からいるものも多く、日本艦と艦隊を組んでいた時期もかなり長かった。今でこそ「ドイツ艦隊」を中心にして、あちらこちらの部隊への出向という形になったものの、昔は寮も分かれていなかった。そのためか、最近では海外艦と日本艦の間のかけ橋のような役割を担っているのだ。

「ありがとうな、ビスマルク。お前のおかげで、次のイタリア艦の受け入れもうまくいきそうだ」

 そして、この活動を主導しているのも、ドイツ艦のリーダー格であるビスマルク。俺としても、この役にドイツ艦を選んだのは、この真面目なビスマルクの下に、よくまとまるからである。

「ふふん、当然じゃない。私がやってるのよ」

 誇らしげである。
 ともあれ、酔っぱらって暴走する某I国艦や、風紀的にかなり怪しい服装で鎮守府を闊歩する某A国艦と違って、問題行動はなし、仕事には真面目、任務の達成率も極めて高い。鎮守府の主力艦隊の一つであることは間違いない。

「さて、じゃあ、みんなお疲れ様。ビスマルクはこの後打ち合わせがあるから残ってく
れ。後のものは解散で」
「「了解」」

※※※※

「……私だけ残してどういうつもりかしら」

 皆が出て行った後の執務室。応接用のソファーに腰を下ろして、足を組むビスマルク。

「いや、この間、青葉からこのあたりでやってた夏祭りの写真をもらってな」
「な、何よ。夏祭りに行っちゃいけないなんてことはないでしょ」

 まだその写真に何が写ってたかなんて言ってないぞー。一瞬で吐いてしまった。こいつほんとに軍人か。

「……お前ほんとに嘘つけないのな」

 ぷうっ、と頬を膨らませるビスマルク。他のドイツ艦の前では決して見せない表情だろう。こうして二人っきりの時は、素直になって素を出してくるから可愛い。

「うるさいわね。で、私が夏祭りに言ってたら何か問題でもあるの?」

 前言撤回。まったく素直じゃない。仕方ない、もう一歩譲歩してやるか。

「いや、俺、その日、執務室にこもって仕事詰めだったからさ。夏祭りの話を聞きたいな、と思っ……」
「仕方ないわね! 聞かせてあげるわ!」

 さっき日本艦と仲良くしている話を他の艦娘に聞いたわけだが、プライドの高いビスマルクは、あの場で聞いても、決してこんなにいい笑顔で語り始めることはなかっただろう。

 でも予想通りというか、本人は語りたくて仕方なかったようだ。

「あの日はね、ナガトとムツと一緒に、ユカタを着ていったのよ。ヤタイもおいしかったけど、やっぱり最高だったのはハナビね。あの祭りの最後に打ちあがるやつ。それから……」

 怒涛の勢いで、長門たちとの思い出を語り始めるビスマルク。他のドイツ艦と同じように、日本艦と他の国の船との橋渡しの役割に対しては、非常に熱心なのは知っているが、最近はそれを抜きにしても、長門型の二人をはじめとした日本艦と、打算なしで仲良くしているように見える。もともとイタリア艦とは仲がいいし、なんやかんや言いながらも、因縁のアークロイヤルをはじめとしたイギリス艦とも仲良くやっている。

「他にはそうね、あのリンゴアメというのはもう一度食べてみたわね……」

 誇らしげに、得意げに、夏の思い出を語る。その様子からは、先ほどの凛とした、ドイツ艦隊旗艦の様子は見て取れない。年相応、もしかするとそれよりもよりも幼いかもしれない、無邪気なビスマルクがそこにはいた。

「……わかったわかった。お前はよく頑張ってくれているよ。本当にありがとう」

 何気ない、素直な感想とお礼。俺はその言葉と共に、無意識に、ビスマルクの頭にポンッ、と手を置いた。

「ひゃうっ」

 ビスマルクの体が跳ねて、俺の手を払いのける。その勢いで、頭に乗っていた帽子が脇に落ちる。

「ああ、すまん。いやだったか」

 上目使いで、顔を真っ赤にしながら俺を睨むビスマルク。やれやれ、これで可愛いビスマルクは終わりのようだ。

 怒鳴られるかと思って、二三歩下がる。
 ビスマルクは、落ちた帽子を拾い上げて、口元を隠したまま、真っ赤な顔でこちらを睨み続ける……と思ったが、急にそのとげとげしい雰囲気がふっと消えた。目元が緩んで、同じ上目遣いなのだが、ずいぶんと印象が変わった。

「……ったのよ」
「は?」
「誰が嫌っていったのよ!」
「は、はあ?」
「ほら、わ、私が頭をなでさせてあげるって言ってるのよ。も、もっと褒めてよ……」

 さすがに、ビスマルクをあおっていた俺も、これは予想外だった。
 帽子を握りしめ、頭を差し出すように顔を近づける。なんというか、先ほどの可愛いビスマルクが、さらに練度を上げて戻ってきた。

 潤んだ目で俺の顔を見つめるビスマルク。はあっ、とため息が一つ漏れる。

「はいはい、よく頑張ったな、ビスマルク。頼りにしているぞ」

 先ほどと同じように、頭にポンと手を置いて、軽く撫でてやる。こいつ、気持ちよさそうにしやがって。しかし、なんかあれだな。何かに似ていると思ったが、子供のころに飼っていた猫にそっくりだ。触ろうとすると邪険にするくせに、その後で撫でてくれとばかりにすり寄ってくる。

「ふふーん、もっと私に頼ってもいいのよ?」
「はいはい。頼りにしてるぞ。ドイツ艦隊旗艦様」

 どっかの背伸び駆逐艦のようなセリフを宣うドイツ最強の戦艦様の頭を、俺はしばらく撫で続ける羽目となった。

※※※※

「なるほど、あれが、オイゲンの言うところの『ツン・デーレ』というやつなのか」

「なんかあそこまで行くと、「ツン」がどっか行っちゃってますけどね。『デレ・デーレ』です。まあ、どちらにしても、ビスマルクお姉さまの魅力を高める『ゾクセイ』であることに違いはないです」

「どちらにしろ、あんなビスマルクは見たことがないよ」

「ビスマルク、部屋のオスカーみたいです……」

「……ねえ、これ、わたしたちが見ててもいいの?」

「……そうだな。マックスの言う通りだ。見つからないうちに退散するか。ほら、行くぞ、オイゲン」

 執務室の戸の隙間から、顔を放すと、グラーフはオイゲンの襟首を捕まえた。

「え~、もうちょっと見ていたいです~」
「問答無用だ。行くぞ」
 ひそひそと争う声が、提督の執務室の前から遠ざかっていった。
 
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