戦国異伝供書
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第五十七話 善徳寺の会盟その十一
「その間にとなる」
「左様でありますか」
「うむ、ではまずはじゃ」
晴信も言うことだった。
「北条家、今川家と盟約を結んだ」
「これで背中は大丈夫です」
「それでじゃ、次はじゃ」
晴信はさらに言った。
「まずはな」
「長尾殿とのことですな」
「決着をつけるとしよう」
「我等が勝つ形で」
「そうしてな」
「そのうえで、ですな」
「そこから上洛じゃ。時はある」
晴信の見方ではだ。
「焦らずに進めていこう」
「はい、焦ってはです」
それはとだ、山本も言うことだった。
「それはことをし損じる」
「その元であるな」
「ですから何があろうともです」
「焦らずな」
「ことを進めていきましょう」
「そこはな、勝ちもじゃ」
戦のそれもというのだ。
「長尾殿とのこともな」
「六分ですな」
「勝ちが多くて七分じゃ」
「それ位ですな」
「勝ち過ぎると驕る」
自分達がというのだ。
「そうなっては大事な時に敗れる」
「それ故に」
「それ位じゃ、ましてやな」
「相手が長尾殿となりますと」
「その六分七分もじゃ」
「難しいです」
山本も見ていることあった、このことは。
「油断をしますと」
「敗れてしまうわ」
「そうなりますので」
「何とか六分、七分にな」
「ことを収める為にも」
「お主も知恵を使うな」
「そのつもりです、必ずやです」
晴信に誓って言うのだった。
「それがし当家にです」
「長尾殿との戦で勝ちをじゃな」
「お渡しします」
「頼むぞ」
晴信は山本にまた言った、そうしてだった。
甲斐において政も進めていった、川中島への道はさらに整っていった。そして兵達も鍛えていったが。
ふとだ、彼は家臣達にこんなことを言った。
「出家を考えておる」
「お館様がですか」
「そうされるというのですか」
「そうじゃ、何かじゃ」
真剣な顔での言葉だった。
「そうした頃合いだと思ってな」
「だからでありますか」
「出家をされる」
「そうお考えですか」
「出家したとしてもな」
晴信はこうも言った。
「わしはわしでじゃ」
「それで、ですな」
「そうじゃ」
それでというのだ。
「だから安心するのじゃ」
「ではこれまで通りですな」
「我等もですな」
「武田家の為に動く」
「そうしてよいですな」
「何も変わらぬ」
例え晴信が出家してもというのだ。
「一切な、だからじゃ」
「はい、心配なく」
「これまで通りです」
「お仕えしていきます」
「お館様が出家されても」
「そうしていきます」
武田家の家臣達もこう答えた、そうして晴信は出家の意志を固めた。そしてそれは彼だけでのことではなかった。
だがそのことは晴信はまだ知らない、これもまた運命だということに。そうして出家を迎えるのだった。
第五十七話 完
2019・7・8
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