戦国異伝供書
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第五十六話 高僧の言葉その十二
「そしてお主達主従がおる」
「そのことがですか」
「わしの最大の宝じゃ」
「有り難きお言葉」
「兄上、よくぞです」
その信繁も言ってきた。
「当家にです」
「これまでの者達がじゃな」
「いてくれるものです」
「お主もそう思うな」
「天下一の武者にです」
「一騎当千の猛者達が十人じゃ」
「これだけの者達はです」
それこそというのだ。
「他にいませぬ、確かに上杉家には直江殿がおり織田家にもです」
「何でも天下の傾奇者のな」
「前田慶次殿がおるとのことですが」
「この二人は相当強い様じゃな」
「はい、おそらくですが」
幸村も二人のことを知っていて言ってきた。
「武芸ではです」
「この二人の者達はじゃな」
「それがしにも十勇士達にも匹敵します」
「そうであるな」
「はい、ですが」
「お主だけではない」
「この者達もおりまする」
十勇士、彼等を見ての言葉だった。
「ですから」
「この二人にもじゃな」
「恐れるものはありませぬ、むしろ」
「戦の場で会えばじゃな」
「その時は」
まさにというのだ。
「正々堂々と戦い」
「武士としてじゃな」
「勝ってみせましょう」
「頼むぞ」
「その時は」
「是非な、しかもお主は武芸だけでない」
幸村にあるものはというのだ。
「采配もある」
「そちらも学んでおりまする」
「だからな」
それだけにというのだ。
「お主はじゃ」
「兵を率いても」
「かなりのものじゃ、それでじゃ」
「そちらについても」
「頼むぞ、忍でもあるしのう」
「真田家はまさに」
ここで言ったのは信繁だった。
「家自体がです」
「忍の者じゃな」
「左様ですな」
「だからじゃな」
「この者達もまた」
「忍の者達でありな」
「その中でも」
家自体が忍の者と言っていい真田家の者達の中でもというのだ。
「とりわけです」
「優れた者達じゃな」
「そう思いまする」
「その通りじゃな」
まさにとだ、晴信は答えた。
「この者達は」
「だからこそです」
「お主から見てもじゃな」
「この者達は兄上にそして武田家にとって宝です」
晴信の言う通りにというのだ。
「ですからこれからも」
「大事にせよというのじゃな」
「兄上は兵の一人、民の一人も粗末にしませぬが」
「その様なことはしてはならぬ」
晴信はそれは絶対にと言い切った。
「全てわしのひいては武田家の宝じゃ」
「左様ですな」
「もっと言えば天下のな」
「宝ですな」
「兵あって、民あっての国であろう」
「本朝もまた」
「それで粗末にするなぞじゃ」
それこそというのだ。
「あってはならぬからな」
「では民を塵芥の如く扱うのは」
「それは治める者としてな」
「あってはなりませぬな」
「そうじゃ、だからな」
晴信は飲みつつ自分から話した、見れば肴は質素なもので干した魚である、それを食いつつ飲んでいるのだ。
「わしもじゃ」
「そうしたことはですな」
「わかっているつもりじゃ」
「そうなのですな」
「そしてお主達もな」
信繁にも幸村主従にも話した。
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