蒼と紅の雷霆
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無印編:トークルームⅥ
《雷霆兄弟とアシモフ》
「ねえGV…GV達にとって、アシモフさんってどんな人?」
「アシモフか…僕達が所属していた"チームシープス"のリーダーで真面目で堅物…だけど、時々突拍子もないことを言う人…かな…僕や兄さんに両親はいないけど…。僕達に父親と呼べる人がいるとすれば多分、アシモフなんだと思う…兄さんは嫌がるだろうし、アシモフが聞いていたら“私はそんな歳じゃない”って拗ねると思うけど…」
「親…か…私には分からないけど…そんな人がいるっていうのはとっても素敵なことだと思う…」
「…そうだね」
《雷霆兄弟とモニカ》
「ねえGV、お兄さん。前から聞きたかったんだけど…モニカさんってどんな人なの?」
「…真面目な人だよ。第七波動を持たない普通の人だけど…オペレーターとしてフェザーになくてはならない凄く優秀な人…だね」
「…だが、抜けてるところもある上に何故かアシモフ関連になると動揺することが多いな。まあ、ミッションに支障があったことはない」
「まあ、そういうところも含めて…何て言うのかな…チームのお姉さん役…って感じなのかな」
「お姉さん…なんだ…うん…それならいいの。あっ、私お風呂入ってくるから」
「…?」
「あいつ…一体何が聞きたかったんだ?」
僕と兄さんは首を傾げるが、今まで黙って見ていたテーラが溜め息を吐いた。
「シアン…GVに気付いてもらえないとは…可哀想です」
可哀想って…どういうことなんだろうか…?
《アメノサカホコ》
シアンが、遠い目で窓の外を見つめていた。
「何を見ているの?」
「あの柱…」
「あの柱は、宇宙開発のために皇神が建造した起動エレベーター、アメノサカホコですね…(そして彼が考案したあのプロジェクトが行われる“アメノウキハシ”に繋がる場所でもあります…宝剣を持つ能力者は後1人…です…)」
テーラが言うアメノサカホコはここから遠く離れた海上に建てられた施設だったが…そのあまりにも巨大な外観は、ここからでもはっきりと見ることが出来る。
「世間の人は、あの柱をこの国のシンボルみたいに思ってる…でも……あの柱…何だか怖いの…色んな…怖い感情が…あの柱に集まっている…」
「怖い…?」
「どういうことだ?」
『前にも話したでしょ?アタシの力は精神感応能力…そのせいか、たまに感じ取っちゃうのよね。そういう…感情の流れオーラみたいなモノを』
「モルフォ…安心して…シアンのことは僕達が守るから」
「GV…(でも…私は…守られるだけなのは嫌…私も…あなたを…)」
《チームシープ“ス”》
「GV達が居たのって確か"チームシープス"だったよね?」
「そうだよ アシモフがつけたチーム名だったかな…」
「シープって、羊のSHEEPだよねお兄さん?」
「…そのはずだが?」
「でもSHEEPって、複数形でもSHEEPのままでSHEEP"S"にはならないよねテーラちゃん…?」
「言われてみればそうですね…どうしてですか?2人共?」
「…考えてもみなかったな。アシモフのことだから何か意味があるんだろうけど…今度聞いてみるよ」
「…うん…変なこと聞いてごめんね?ちょっと気になっちゃって」
「まあ、俺も少し気になるからな」
取り敢えず依頼が来た時にでも聞いてみよう。
《チャタンヤラクーシャンク》
「GVとお兄さんっていい体してるけど…格闘技か何かやっているの?」
「フェザーに居た頃にみっちり叩き込まれたよ」
「それって暗殺拳…とか?」
「いや、俺達が教わったのは…」
「あの…間違えていたらすみません…お2人の扱う武術はもしや空手の一種であるチャタンヤラクーシャンクを取り入れた物ではありませんか?」
テーラの発言に僕と兄さんは驚く。
「ちゃたんらく…?」
シアンはよく分からずに首を傾げてるけど…。
「…良く分かったな?チャタンヤラクーシャンクはあまりメジャーな型ではないんだが?」
「お兄様と一緒に護身術のための武術を学ぶ際に動画でチャタンヤラクーシャンクを何度か見たことがあるんです。最終的に別の武術を会得しましたが…私は能力での対応が間に合わずに敵に距離を詰められた時、お兄様は無手で戦う時のために…GV達は誰にチャタンヤラクーシャンクを教わったのですか?」
「アシモフだよ。アシモフが言うには、空手のチャタンヤラクーシャンクをベースにした…オリジナルのマーシャルアーツだって話だけど…」
「まさか本当にチャタンヤラクーシャンクが取り入れられていたとはな…あいつはバリツを実在の格闘技だと思っているような奴だからな…」
「確かに…」
「ちゃらんしゃたくー…」
「…シアン、チャタンヤラクーシャンクです。チャ・タ・ン・ヤ・ラ・クー・シャ・ン・ク」
「ちゃたんら…うう…っ」
「無理して覚えなくていいよシアン」
自分だけ言えないことに落ち込むシアンに僕達は顔を見合わせてそれぞれ苦笑した。
《どんベアくん》
「う~ん…」
シアンがパソコンのモニターを覗き込み、唸っている。
どうやらキャラクターグッズを取り扱った通販サイトのようだ。
「"どんベアくん"?」
シアンが眺めていたのは、どんぶりのスープに浸かったクマのストラップだ。
頭には刻みネギや天かすが絡まった白いドレッドヘア…。
これは…"うどん"をモチーフにしたキャラクターだろうか?
しかし、手にはおでんの串が握られている…謎だ。
「どんベアくんはね…元はどこかの地方のご当地キャラだったらしいんだけど。ちょっと前に火がついて今、全国区でブームになってるんだよ」
「……ふうん」
「ストラップ欲しかったんだけどあっという間に売り切れちゃったみたい…」
「…確か、モニカさんがこういうの好きだったはずだから…今度、当てがないか聞いてみるよ」
「本当?ありがとう、GV!」
「何故…こんな訳の分からない珍妙な物に人気があるんだ?…こんな物を作った奴のセンスと言い、理解出来ん…」
「ソウ…好みは人それぞれですよ」
《Mighty No.9 ベック》
ソファに見慣れないぬいぐるみが置いてある…
「シアン、このぬいぐるみは?」
「ふふ、いいでしょ? クラスの子から貰ったの」
「何処かで見たことあるような気がするけど…
何のキャラクターなの?」
「GVは、あのマイティ・ベックを知らないの?」
マイティ・ベック…ああ、思い出した。
「確か、今やってるヒーロー映画(ムービー)の主人公だっけ」
「うん、映画もキャラクターもすっごく人気なんだよ」
なるほど、青くて銃を使うヒーロー…親近感を覚えるな。
「暇が出来たら僕と兄さんとシアンとテーラの4人で映画、観に行こうか…」
「本当!?」
「あ…でも、兄さんは行かないかも…」
「ええ!?どうして!?」
「兄さんは今より小さい頃からアニメには全然興味を持たない人だから…漫画すら読まないくらいだし」
休みの日は部屋で寝ているか、訓練しているだけだからな…今更ながら兄さんの殺伐とした日常が少し心配になってきた。
「でもマイティ・ベックは凄く良いんだよ?観ないなんて勿体ないよ」
「でもこればかりは兄さんの好みもあるし…」
駄目元で聞いてみるかな…?
案の定、“面倒”の一言で一蹴されたけれどテーラとシアンが説得に加わってくれたおかげで映画には誘えた。
けど…いくら興味がないからって上映から数秒で眠るのはどうかと思うよ兄さん…せめて1分くらいは観ようよ…。
《犬…?》
シアンが右手に包帯を巻いている…。
「どうした?その怪我は?」
「あ、お兄さん。実は、学校の帰りにワンちゃんに噛まれちゃって…」
そういえば、よく犬の鳴き声がやかましい家があったな…。
犬の姿を見たことはないが、猛犬注意のステッカーが貼ってあったのは覚えている。
「猛犬…って書いてあったと思ったが、それよりも大丈夫なのか?酷いようなら一度診てもらえ。悪化してからでは遅い」
「…ううん、大丈夫。そこまで大きなワンちゃんじゃなかったし…あんまり犬種とかには詳しくないけど…紫色してたから多分"しばいぬ"だと思う…」
「は?…紫だと…?柴犬は紫の犬じゃないんだが…それは本当に犬なのか?」
「でも、猛犬のステッカーが貼ってあったよ?」
「…もしや、皇神によって作り出された遺伝子操作された犬か何かか?とにかく次は気を付けろ」
本当に良く分からない家だと俺は思う。
取り敢えずシアンには二度と近寄らないように注意しておくとしよう。
《GVの無趣味》
「ねえGV…GVは何か趣味ってある?お兄さんは料理して食べることが趣味でテーラちゃんは愛の探究が趣味だって言ってたけど」
「趣味か…兄さんを見ていて僕も何か趣味があった方が良いのかなと思ったけど全く見つからないから、このままで良いかなって…」
「だ…駄目だよ!そういうの…」
「駄目なの?」
「駄目…あの、だから…今度私といっしょにアクセサリー作ろう?」
「う…うん」
「約束だよ?」
「分かった…いいよ」
「あ、でも1つ気になることがあるんだよね」
「うん?」
「テーラちゃんの愛の探究って何なのかなって」
「さあ?」
こればかりは本人でないと分からないのかもしれない。
《雷霆兄弟の本名》
「GV、お兄さん。“ガンヴォルト”と“ソウ”って本名じゃないんだよね?」
「元々はコードネームだったけど…もうそっちの名前で慣れちゃったな…」
「本当の名前って…教えてもらっちゃ…駄目?」
「忘れたな、そんなもの」
「ごめん、覚えてないな…」
「…そう…なんだ…ちょっと残念だな…」
「シアン、あまり2人の過去を詮索してはいけませんよ?…思い出したくない過去は…誰にだってあります」
そう言うとテーラちゃんは遠い目で外を見つめる。
…テーラちゃんも辛い過去とかあるのかな?
私…GV達のことを…本当に知らないんだ…。
《皇神社員の子》
シアンの元気がありません…どうしたのでしょうか…?
「学校で…何かあったのですか?」
「ううん……クラスにお父さんが皇神の社員だって自慢する子がいたんだけど……どういう風に接したらいいのか…分からなくなっちゃって…
「…表向きには皇神はクリーンな企業だからね」
「裏では能力者を使った人体実験を行ってる屑企業だがな」
それも、この国のあらゆる産業のトップに立ち、何も知らない一般の人にとっては憧れの大企業です。
「その人のことは知らないけど、皇神の社員だからって、みんながみんな…シアンを閉じ込めて、利用していたような人ばかりじゃないさ。君の知っている皇神の人間は、みんな君に冷たかったかい?」
「…ううん…少なかったけど…親切にしてくれた人もいた…」
「なら、気にすることはないよ。その子とも、普通に接してあげればいいさ」
「GV、ですがシアンは…」
「分かってるよテーラ…本当は正体を隠すためにも、皇神と距離を置くことが正しいのかもしれない。けれど、そうしたことを気にして友人を作れない生活というものを…僕は、シアンに味わって欲しくはないんだ。兄さんみたいにシアンが馴れ合いを好まないなら話は別なんだけどね…」
「もし学校でそいつと何かあったら俺達に即刻話せ…愚痴くらいは聞いてやる」
「…ありがとう……」
そうですね…せめて今くらいは…。
《約束》
夜もすっかり更けた頃、先に眠っていたはずのシアンがテーラを伴って僕達の元にやって来た。
「…GV…お兄さん…」
「どうしたの?こんな夜遅くに…」
「夢を…怖い夢を…見たの。みんなが…その…私の傍からいなくなって…」
いなくなる…つまり、僕達が死ぬ夢…だったんだろう。
こんな仕事をして、テーラもフェザーに似た組織に所属しているのだからいつ命を落としても不思議ではない…。
もう少しこの生活が落ち着いてから言おうと思っていたけど…以前から考えていたことを、告げてみようと思った。
「シアン…もう少ししたら、長い休みを取って、みんなでどこか出かけよう」
「でも…お仕事は?それに、私達…」
追われている…と言いかけたのであろうその口に人差し指を当てて制止する。
「僕達は自由だ。誰にもその自由を邪魔する権限はない…難しいかもしれないけど旅行プランを考えるつもりだったんだ。」
「まあ、お前が嫌なら止めるがな」
「ううん!行きたい!!テーラちゃんも一緒に行こうよ!!」
「え?私もですか?」
「駄目?」
「あの…私は…」
「駄目だよシアン。テーラはすることが終わったら彼女の所属する組織に帰らないといけない…」
「そっか…」
「……いえ、行きましょう…私達…4人で…」
「本当!?ありがとうテーラちゃん!!」
満面の笑顔を浮かべるシアンに対して、どこか迷っているようなテーラの表情がどこか僕達には引っ掛かった。
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