戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十五話 足利将軍その七
「今日な」
「そこまで思われていますか」
「そうだ、余も励もう」
「天下の為に」
「幕府の力を取り戻してだ」
そしてというのだ。
「再びな」
「この天下をですね」
「泰平にしてだ」
「その泰平を」
「守っていこう」
「公方様がそう思われたなら」
その時こそとだ、輝虎は述べた。
「はじまりの時です」
「そうなるな」
「はい、思ったその時こそ」
「そうだな、ではこの山城をな」
「治められて」
「確かな力を持ってだ」
そうしてというのだ。
「それからだ」
「天下をもう一度」
「泰平にしよう」
「及ばずながらわたくしも」
「しかと頼むぞ」
「はい、何があろうとも」
天下泰平の為に働くとだ、輝虎は義輝に約束した。彼は心からそのことを誓った。そうしてだった。
輝虎は将軍のいる場所を後にしてそうしてだった。
家臣達を連れて都を発った、輝虎は都の方を振り向くことなく家臣達に語った。
「今幕府の力はないに等しいです」
「残念ながら」
「その通りですな」
「今幕府は全くの無力です」
「実質山城一国を治める程度」
「そしてその山城すらです」
「満足に治めているとは」
思えないとだ、彼等は口々に言った。
「言えませぬ」
「管領の細川様やその陪臣三好殿に脅かされ」
「近頃では三好家の家臣松永殿にすらです」
「そうした状況では」
「そうした有様です、ですが」
それでもと言うのだった。
「我等はです」
「その幕府をですな」
「盛り立てそして」
「天下も正しき姿に戻す」
「そうしますな」
「わたくしは関東管領になりました」
だからこそという言葉だった。
「ならばです」
「尚更ですな」
「そのお気持ちは強いですな」
「幕府を何とか盛り立てて」
「そうして天下もかつての姿に戻しますな」
「そうです、確かな武があれば」
それでというのだ。
「そうなります」
「殿、それにはです」
兼続が輝虎に言ってきた。
「幕府にも力が必要でして」
「武以外にもですね」
「石高にして四百万石」
「それだけの力がですか」
「そしてです」
兼続はさらに話した。
「天下の金山や銀山も収め」
「そうしたものもですか」
「貿易を一手に担えば」
そこまですればというのだ。
「幕府もです」
「かつての力を取り戻しますか」
「そうなるかと」
「そうですか、ではです」
「幕府にですか」
「そのお力を持ってもらう様にです」
「盛り立てられますか、殿は」
「そうします」
必ずという返事だった。
ページ上へ戻る